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十三章 わたくしの結婚
31.わたくしの教師はカサンドラ様
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辺境伯領に一泊して帰る日、早朝に目を覚ましたわたくしが庭に散歩に出ていると、エクムント様も庭に出ていらっしゃった。
「フランツ殿とマリア嬢がいなくても朝の散歩はされるのですね」
「エクムント様こそ、朝に散歩をされるのですね」
「私はエリザベート嬢と朝の散歩をするようになって、毎日少し早く起きるのが日課になってしまいました。早起きの習慣が付くと、朝にすっきりと起きられて気持ちいいですね」
わたくしたちと散歩するようになってからエクムント様は早起きが習慣付いたようだった。わたくしもフランツとマリアに起こされて早起きが身に付いているし、結婚してからも早朝の散歩は日課になるかもしれない。
「早起きされたときにはお散歩をしているのですか?」
「今日はエリザベート嬢がいるので散歩されているかもしれないと庭に出てみましたが、普段は早起きしてランニングをしたり、筋トレをしたりしています」
「ランニングと筋トレですか!? わたくし、そういうことをしたことがありません。いつかご一緒させていただけますか?」
「エリザベート嬢は小さいころから乗馬がお上手で運動神経がよかった。ランニングと筋トレも私と同じメニューではないですが、それなりにできそうな気がします」
辺境伯夫人としてエクムント様の隣りに立つのならばわたくしも少しは鍛えた体でいたいと思う。それに鍛えていれば少しくらい食べても平気なのではないかと思ってしまうのだ。
「体を鍛えるのはいいことだと思います。女性は妊娠、出産にも体力を使いますからね」
「わたくしもエクムント様ほどではないですが、それなりに鍛えてみたいと思います」
そんなことを話しながら庭を一緒に歩く。
辺境伯領の冬は寒くはあったが、雪が降るほどではない。コートも厚手のものは必要なさそうだった。
「エクムント様、わたくしとお散歩もしてくださいね」
「エリザベート嬢と庭を散歩する日と、ランニングや筋トレをする日を分けなければいけませんね。朝には散歩をして、夕方にランニングや筋トレでもいいかもしれません」
軍人としてエクムント様が常に鍛えていなければいけないのは分かっているので、わたくしも軍人になれるとは思わなかったが、共同統治をする身としてはいざとなったら軍服を身に纏うくらいの覚悟は必要だと思い始めていた。
争いが怖いと思うだけではいけない。争いが起きないようにすることも大切だし、争いが起きてしまったら素早くそれを解決することも大事だ。
辺境伯夫人としてエクムント様と共に辺境伯領を共同統治するようになれば、わたくしも軍のことを学ばねばならなくなるときが来る。そのときには、エクムント様に教えてもらいながらでも、軍に指令を出せるようにならなければいけない。
共同統治という言葉を甘く見ていたつもりはないし、これからのわたくしに課題があることも理解したうえでわたくしはエクムント様に問いかけていた。
「わたくしも士官学校で学ばなくていいのでしょうか?」
「士官学校で学ぶとなると、エリザベート嬢との結婚が遠のいてしまいます。軍のことを考えているのですか?」
「はい。エクムント様と共同統治をするとなると、軍に指令を出せる能力も必要になるのではないかと思っています」
「その件に関しては、カサンドラ様に習うのはどうでしょう?」
「カサンドラ様が教えてくださるでしょうか」
「カサンドラ様は辺境伯を退いてからやることがないと退屈そうにしています。エリザベート嬢が軍のことについて教えてほしいと真剣に言えば、喜んで教えてくれると思います。私が教えてもいいのですが、そうなると私情が入ってしまいそうな気がしてならないのです」
エクムント様がわたくしに軍のことを教えるのには私情が入ってしまう。それは夫になるのだから仕方がないことのように思えた。エクムント様も言っているが、カサンドラ様に習った方が確実かもしれない。
「カサンドラ様にお願いしてみます」
朝のお散歩を終えて、朝食の席でわたくしはカサンドラ様にお願いすることにした。
カサンドラ様はわたくしとエクムント様に気を遣って、自分の棟で朝食を取ろうとしていたようだが、わたくしはカサンドラ様と同席したいとお願いしてご一緒させてもらった。
朝食を食べながらわたくしはカサンドラ様にお願いする。
「エクムント様はわたくしと結婚したら共同統治を考えていると仰いました」
「それはいいことだと思う」
「そのときには、わたくしも辺境伯領の領主として軍のことを知らねばなりません。士官学校に通うことも考えたのですが、それでは結婚がますます遠のきます。カサンドラ様、わたくしが辺境伯家に嫁いで来たら、軍のことを教えてくださいませんか?」
お願いすると、カサンドラ様が目をきらりと光らせる。
「私の教え方は優しくないぞ?」
「望むところです」
「士官学校に通った方がマシと思うかもしれない」
「覚悟の上です」
「よく言った。それでこそ辺境伯家の嫁だ。私がしっかりと軍のことについては教えよう」
請け負ってくださるカサンドラ様に「ありがとうございます」とお礼を言うと、エクムント様が言葉を添える。
「私が教えてもよかったのですが、私はどうしても私情が挟まって甘くなってしまう気がして」
「エクムントはそうだろうな。エリザベート嬢、いや、辺境伯家に嫁いで来たらエリザベートと呼ばせてもらうことにする。嫁いでくる日を楽しみにしているよ」
いつまでたっても年齢不詳の美しいカサンドラ様に言われてわたくしは大きく頷いた。
朝食が終わると荷物を纏めたわたくしをエクムント様が列車の駅まで送ってくださる。
列車の駅までは同じ馬車に乗って行った。
「エリザベート嬢、すぐに会えるのに、別れるのはつらいですね」
「わたくしもです。エクムント様と離れたくない」
手を取り合うわたくしとエクムント様だが、馬車は非情にも駅に着いてしまう。
「エリザベート嬢、また何かあったら辺境伯領に来てください」
「はい、参ります。今回はわたくしの卒業論文のためにありがとうございました」
「エリザベート嬢が来てくださって楽しかったです」
今生の別れのようになってしまっているが、この数日後にはアッペル大公領でノエル殿下のお誕生日のパーティーが開かれる。ノエル殿下のお誕生日はお茶会だけだが、エクムント様も当然招待されていた。
最近まではフランツやマリアが婚約してしまうのが寂しく、遠くに行ってしまったような気がしていたのに、今はディッペル家を離れてエクムント様の元に行きたい気持ちがいっぱいで、エクムント様と離れることが寂しい。
クリスタも皇太子妃としての自覚を持ち始めて、わたくしにべったりではなくなってしまったが、わたくしはわたくしの人生を生き、クリスタはクリスタの人生を生きるのでそれは寂しくない。
皇太子妃として中央からこの国を支えるのがクリスタで、辺境伯夫人となって共同統治で領主となって辺境からこの国を支えるのがわたくしなのだ。
フランツもディッペル公爵となった暁には中央からこの国を支える大事な人物となるだろうし、マリアも成人の暁には辺境伯領に嫁いできてわたくしと一緒に辺境からこの国を支える。
わたくしとクリスタ、姉妹は別々の場所に嫁いでいくが志は同じだ。
この国の繁栄。
そのためにわたくしもクリスタもそれぞれの場所で国を支えていくのだ。
列車が到着するとわたくしは護衛と一緒に列車に乗り込む。
護衛は廊下に控えているので一人きりの個室席から窓の外を見れば、エクムント様がわたくしに手を振ってくださっていた。
わたくしもエクムント様に手を振り返す。
短い辺境伯領での滞在期間が終わった。
「フランツ殿とマリア嬢がいなくても朝の散歩はされるのですね」
「エクムント様こそ、朝に散歩をされるのですね」
「私はエリザベート嬢と朝の散歩をするようになって、毎日少し早く起きるのが日課になってしまいました。早起きの習慣が付くと、朝にすっきりと起きられて気持ちいいですね」
わたくしたちと散歩するようになってからエクムント様は早起きが習慣付いたようだった。わたくしもフランツとマリアに起こされて早起きが身に付いているし、結婚してからも早朝の散歩は日課になるかもしれない。
「早起きされたときにはお散歩をしているのですか?」
「今日はエリザベート嬢がいるので散歩されているかもしれないと庭に出てみましたが、普段は早起きしてランニングをしたり、筋トレをしたりしています」
「ランニングと筋トレですか!? わたくし、そういうことをしたことがありません。いつかご一緒させていただけますか?」
「エリザベート嬢は小さいころから乗馬がお上手で運動神経がよかった。ランニングと筋トレも私と同じメニューではないですが、それなりにできそうな気がします」
辺境伯夫人としてエクムント様の隣りに立つのならばわたくしも少しは鍛えた体でいたいと思う。それに鍛えていれば少しくらい食べても平気なのではないかと思ってしまうのだ。
「体を鍛えるのはいいことだと思います。女性は妊娠、出産にも体力を使いますからね」
「わたくしもエクムント様ほどではないですが、それなりに鍛えてみたいと思います」
そんなことを話しながら庭を一緒に歩く。
辺境伯領の冬は寒くはあったが、雪が降るほどではない。コートも厚手のものは必要なさそうだった。
「エクムント様、わたくしとお散歩もしてくださいね」
「エリザベート嬢と庭を散歩する日と、ランニングや筋トレをする日を分けなければいけませんね。朝には散歩をして、夕方にランニングや筋トレでもいいかもしれません」
軍人としてエクムント様が常に鍛えていなければいけないのは分かっているので、わたくしも軍人になれるとは思わなかったが、共同統治をする身としてはいざとなったら軍服を身に纏うくらいの覚悟は必要だと思い始めていた。
争いが怖いと思うだけではいけない。争いが起きないようにすることも大切だし、争いが起きてしまったら素早くそれを解決することも大事だ。
辺境伯夫人としてエクムント様と共に辺境伯領を共同統治するようになれば、わたくしも軍のことを学ばねばならなくなるときが来る。そのときには、エクムント様に教えてもらいながらでも、軍に指令を出せるようにならなければいけない。
共同統治という言葉を甘く見ていたつもりはないし、これからのわたくしに課題があることも理解したうえでわたくしはエクムント様に問いかけていた。
「わたくしも士官学校で学ばなくていいのでしょうか?」
「士官学校で学ぶとなると、エリザベート嬢との結婚が遠のいてしまいます。軍のことを考えているのですか?」
「はい。エクムント様と共同統治をするとなると、軍に指令を出せる能力も必要になるのではないかと思っています」
「その件に関しては、カサンドラ様に習うのはどうでしょう?」
「カサンドラ様が教えてくださるでしょうか」
「カサンドラ様は辺境伯を退いてからやることがないと退屈そうにしています。エリザベート嬢が軍のことについて教えてほしいと真剣に言えば、喜んで教えてくれると思います。私が教えてもいいのですが、そうなると私情が入ってしまいそうな気がしてならないのです」
エクムント様がわたくしに軍のことを教えるのには私情が入ってしまう。それは夫になるのだから仕方がないことのように思えた。エクムント様も言っているが、カサンドラ様に習った方が確実かもしれない。
「カサンドラ様にお願いしてみます」
朝のお散歩を終えて、朝食の席でわたくしはカサンドラ様にお願いすることにした。
カサンドラ様はわたくしとエクムント様に気を遣って、自分の棟で朝食を取ろうとしていたようだが、わたくしはカサンドラ様と同席したいとお願いしてご一緒させてもらった。
朝食を食べながらわたくしはカサンドラ様にお願いする。
「エクムント様はわたくしと結婚したら共同統治を考えていると仰いました」
「それはいいことだと思う」
「そのときには、わたくしも辺境伯領の領主として軍のことを知らねばなりません。士官学校に通うことも考えたのですが、それでは結婚がますます遠のきます。カサンドラ様、わたくしが辺境伯家に嫁いで来たら、軍のことを教えてくださいませんか?」
お願いすると、カサンドラ様が目をきらりと光らせる。
「私の教え方は優しくないぞ?」
「望むところです」
「士官学校に通った方がマシと思うかもしれない」
「覚悟の上です」
「よく言った。それでこそ辺境伯家の嫁だ。私がしっかりと軍のことについては教えよう」
請け負ってくださるカサンドラ様に「ありがとうございます」とお礼を言うと、エクムント様が言葉を添える。
「私が教えてもよかったのですが、私はどうしても私情が挟まって甘くなってしまう気がして」
「エクムントはそうだろうな。エリザベート嬢、いや、辺境伯家に嫁いで来たらエリザベートと呼ばせてもらうことにする。嫁いでくる日を楽しみにしているよ」
いつまでたっても年齢不詳の美しいカサンドラ様に言われてわたくしは大きく頷いた。
朝食が終わると荷物を纏めたわたくしをエクムント様が列車の駅まで送ってくださる。
列車の駅までは同じ馬車に乗って行った。
「エリザベート嬢、すぐに会えるのに、別れるのはつらいですね」
「わたくしもです。エクムント様と離れたくない」
手を取り合うわたくしとエクムント様だが、馬車は非情にも駅に着いてしまう。
「エリザベート嬢、また何かあったら辺境伯領に来てください」
「はい、参ります。今回はわたくしの卒業論文のためにありがとうございました」
「エリザベート嬢が来てくださって楽しかったです」
今生の別れのようになってしまっているが、この数日後にはアッペル大公領でノエル殿下のお誕生日のパーティーが開かれる。ノエル殿下のお誕生日はお茶会だけだが、エクムント様も当然招待されていた。
最近まではフランツやマリアが婚約してしまうのが寂しく、遠くに行ってしまったような気がしていたのに、今はディッペル家を離れてエクムント様の元に行きたい気持ちがいっぱいで、エクムント様と離れることが寂しい。
クリスタも皇太子妃としての自覚を持ち始めて、わたくしにべったりではなくなってしまったが、わたくしはわたくしの人生を生き、クリスタはクリスタの人生を生きるのでそれは寂しくない。
皇太子妃として中央からこの国を支えるのがクリスタで、辺境伯夫人となって共同統治で領主となって辺境からこの国を支えるのがわたくしなのだ。
フランツもディッペル公爵となった暁には中央からこの国を支える大事な人物となるだろうし、マリアも成人の暁には辺境伯領に嫁いできてわたくしと一緒に辺境からこの国を支える。
わたくしとクリスタ、姉妹は別々の場所に嫁いでいくが志は同じだ。
この国の繁栄。
そのためにわたくしもクリスタもそれぞれの場所で国を支えていくのだ。
列車が到着するとわたくしは護衛と一緒に列車に乗り込む。
護衛は廊下に控えているので一人きりの個室席から窓の外を見れば、エクムント様がわたくしに手を振ってくださっていた。
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