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十三章 わたくしの結婚
37.ノエル殿下の不調の理由
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両親のお誕生日のお茶会にノエル殿下とノルベルト殿下もいらっしゃっていたが、いつもと様子が違っていた。ノエル殿下は踊ることもせず、端のソファで休んでいる。ノルベルト殿下はノエル殿下に寄り添って、心配そうにしている。
エクムント様と話していたわたくしはミルクティーも飲み終わって、サンドイッチとケーキも食べ終わって、ノエル殿下の元へ歩き出した。
クリスタとハインリヒ殿下も同じころにノエル殿下とノルベルト殿下のところに来ていた。
「ノエル殿下、どこか悪いのですか? 医者を呼びましょうか?」
「いいえ、医者は不要です。わたくし、人込みと食べ物の匂いに少し気分が悪くなってしまっただけなのです」
人込みと食べ物の匂いに気分が悪くなるというと、わたくしの頭の中に一つの回答が浮かぶ。
クリスタも気付いたようだった。
「行きの馬車で酔いましたか? 水でも飲まれますか?」
ハインリヒ殿下は分からなかったようで声を掛けているが、わたくしとクリスタとエクムント様は気付いたのでノエル殿下とノルベルト殿下が話し出すまで待っていた。
「実は、ノエルは妊娠しているんだよ、ハインリヒ」
「ノルベルト兄上、それは本当ですか!?」
静かに伝えたノルベルト殿下に、ハインリヒ殿下が嬉しそうに元気いっぱいに応える。しかしノエル殿下は嬉しそうな顔をする余裕もない様子で、口元を押さえている。
「悪阻というものがこんなに苦しいものだとは知りませんでした」
「何か口にできるものはないのですか?」
「さっぱりとした果物ならば少し食べられますが、それでも吐いてしまうことがあるので、外ではできるだけ食べ物を口にしないようにしています」
「ノエルが本当に苦しそうで、僕はノエルに何もしてあげられなくてつらいのです。悪阻が妊娠後期まで続くこともあると聞いているので、ノエルに少しでも食べられるものがあればいいのですが」
ノエル殿下が妊娠したことはとてもおめでたいのだが、今の状況を見ているとお祝いをするどころではない雰囲気だ。ノエル殿下は悪阻の中お茶会に参加したのだ。
「少しの時間ならば平気と思っていたのですが、思った以上に負担になっているようです。ディッペル公爵夫妻と国王陛下と王妃殿下にご挨拶をして本日は帰らせていただきます」
「休んでいてもいいとノエルに言ったのに、ノエルは父上の生誕の式典には絶対に出なければいけないから、どれくらい我慢できるか来てみると言ったのです」
「思った以上に苦しかったです」
ノエル殿下がこんな状態ならば国王陛下の生誕の式典も休んだ方がいいのではないのだろうか。
「国王陛下の生誕の式典もノエル殿下は休まれて、ノルベルト殿下だけ出席されたらどうですか?」
「父上に私からもお話しします。ノエル殿下は大事なときです。無理をなさらないでください」
わたくしが言えば、ハインリヒ殿下も言葉を添える。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下で国王陛下と王妃殿下の元に行っていた。
「父上、ノエルは今、妊娠していて悪阻が酷いのです。父上の生誕の式典にノエルは欠席をしてもいいでしょうか」
「ノエルが妊娠しているなどなんとめでたい。ノエル、体を大事にしてほしい。私の生誕の式典はノルベルトだけ出席すればよいことにしよう」
「ありがとうございます、父上」
「国王陛下、お気遣いありがとうございます」
ノルベルト殿下が説明すると国王陛下は快くノエル殿下が国王陛下の生誕の式典を欠席することを許していた。
「ノエル殿下がこのような状況なので、本日はノエル殿下もノルベルト兄上も先に帰っても構いませんよね?」
「もちろんです。ノエル殿下、大事な時期です。体を休めてくださいね」
「気を付けて帰られてください」
ハインリヒ殿下の言葉に両親もノエル殿下とノルベルト殿下を送り出す体勢に入っている。
ノエル殿下とノルベルト殿下はお茶会の途中だったが、先に馬車に乗って帰って行った。
ノエル殿下とノルベルト殿下を見送ると、クリスタが表情を引き締めて両親に言っている。
「パウリーネ先生はもう引退されたのですか?」
「パウリーネ先生は後継を育てていると聞いています」
「その方にノエル殿下のところに行っていただくことはできないのですか?」
「ノエル殿下が心配ですね。パウリーネ先生と連絡を取ってみましょう」
母がフランツとマリアを産んだときにも、王妃殿下がユリアーナ殿下を産んだときにも、主治医として診てくれていたパウリーネ先生。元はカサンドラ様の主治医だったのだから、高齢になっていることは分かっている。
そのパウリーネ先生が後継者を育てていたというのは初耳だった。
「パウリーネ先生の後継者とはどんな方なのですか?」
「数名いると聞いています。引退する前にパウリーネ先生は論文を書き、自分の学んだことを後世に残すとともに、後継者を数名育てて、オルヒデー帝国の女性に貢献しようとしているのです」
母の言葉にわたくしはさすがパウリーネ先生だと感心する。パウリーネ先生は高齢になってもこの国の女性のために尽力していた。
「わたくしがいつかハインリヒ殿下の赤ちゃんを産むときには、パウリーネ先生の後継者の方が診てくださるのでしょうか」
「きっと手配します。クリスタ嬢は皇太子妃になるのですからね」
ハインリヒ殿下は皇太子で、クリスタは皇太子妃となる。皇太子妃の産んだ子どもは次の皇太子になることが決まっている。皇太子は国王となるので、クリスタの産んだ子どもが国王となってこの国を治める未来がくるのだ。
ハインリヒ殿下の口から皇太子妃という名称が出てくるとクリスタの表情が引き締まる気がする。わたくしもクリスタ同様、辺境伯夫人としてしっかりと頑張らなければならない。
「エリザベート嬢が妊娠したときには、パウリーネ先生の後継者の方を手配します」
「ありがとうございます、エクムント様」
それまで妊娠など遠い話だと考えていたが、ノエル殿下が妊娠なさったと聞くと、わたくしも結婚したらそういうことが有り得るのだろうとどうしても考えてしまう。緊張して身を固くするわたくしの心を解すように、エクムント様はわたくしが妊娠したときにもパウリーネ先生の後継者を手配してくださると約束してくださった。
母は最初にわたくしを産んだときに死にかけたと言っていた。それで第二子以降を産むことを諦めたのだとも。妊娠や出産が命がけであることは、どんな時代、どんな世界でも同じなのだろうが、実際に死にかけた母がフランツを産もうと思ったのは、クリスタが養子になって、ディッペル家の娘が一人ではなくなった後だった。
どういう心境で母がフランツを産もうと思ったか、その後のマリアを産もうと思ったか、わたくしははっきりとは聞いていない気がする。聞いたかもしれないが幼いころなので忘れてしまっている。
ちょうど母のところに来ていたので、わたくしは聞いてみることにした。
「お母様はわたくしを産んだときに死にかけたのでしょう? 一度は子どもを産むことを諦めたのに、フランツやマリアを産もうと思ったのはどうしてですか?」
「わたくしはエリザベートを産んだときに死にかけて、エリザベートを残して死ねないと思ったのです。それで、第二子以降は諦めようと思っていました」
「それが変わったきっかけは?」
「きっかけはクリスタだったでしょうか。エリザベートが妹としてクリスタと仲良く遊んでいるのを見て、やはりエリザベートに弟妹を産んでやりたいと思ったのです。それに、わたくしに何かあっても、エリザベートはしっかりと育っていたし、クリスタという妹もいました」
その話を聞いていたクリスタが身を乗り出す。
「わたくしがいたから、お母様はフランツやマリアを産んでくださったのですか?」
「そうですよ。エリザベートとクリスタが仲がいいのを見て、もっと弟妹を増やしてあげたらどれだけ喜ぶだろうと思ったのです」
フランツが生まれたおかげでわたくしは公爵の後継者という地位をフランツに譲って、辺境伯であるエクムント様と婚約することができた。
それはわたくしがクリスタを引き取るように両親にお願いしていなければ実現していなかったことだった。
わたくしはわたくしの力で運命を変えたのだ。
物語の中の悪役で、最終的には公爵位を奪われて辺境に追放されるキャラクターではなくて、物語の主人公のクリスタとも仲がよく辺境には望まれて嫁いでいく。
わたくしはこの運命をわたくしの力で勝ち取ったのだった。
エクムント様と話していたわたくしはミルクティーも飲み終わって、サンドイッチとケーキも食べ終わって、ノエル殿下の元へ歩き出した。
クリスタとハインリヒ殿下も同じころにノエル殿下とノルベルト殿下のところに来ていた。
「ノエル殿下、どこか悪いのですか? 医者を呼びましょうか?」
「いいえ、医者は不要です。わたくし、人込みと食べ物の匂いに少し気分が悪くなってしまっただけなのです」
人込みと食べ物の匂いに気分が悪くなるというと、わたくしの頭の中に一つの回答が浮かぶ。
クリスタも気付いたようだった。
「行きの馬車で酔いましたか? 水でも飲まれますか?」
ハインリヒ殿下は分からなかったようで声を掛けているが、わたくしとクリスタとエクムント様は気付いたのでノエル殿下とノルベルト殿下が話し出すまで待っていた。
「実は、ノエルは妊娠しているんだよ、ハインリヒ」
「ノルベルト兄上、それは本当ですか!?」
静かに伝えたノルベルト殿下に、ハインリヒ殿下が嬉しそうに元気いっぱいに応える。しかしノエル殿下は嬉しそうな顔をする余裕もない様子で、口元を押さえている。
「悪阻というものがこんなに苦しいものだとは知りませんでした」
「何か口にできるものはないのですか?」
「さっぱりとした果物ならば少し食べられますが、それでも吐いてしまうことがあるので、外ではできるだけ食べ物を口にしないようにしています」
「ノエルが本当に苦しそうで、僕はノエルに何もしてあげられなくてつらいのです。悪阻が妊娠後期まで続くこともあると聞いているので、ノエルに少しでも食べられるものがあればいいのですが」
ノエル殿下が妊娠したことはとてもおめでたいのだが、今の状況を見ているとお祝いをするどころではない雰囲気だ。ノエル殿下は悪阻の中お茶会に参加したのだ。
「少しの時間ならば平気と思っていたのですが、思った以上に負担になっているようです。ディッペル公爵夫妻と国王陛下と王妃殿下にご挨拶をして本日は帰らせていただきます」
「休んでいてもいいとノエルに言ったのに、ノエルは父上の生誕の式典には絶対に出なければいけないから、どれくらい我慢できるか来てみると言ったのです」
「思った以上に苦しかったです」
ノエル殿下がこんな状態ならば国王陛下の生誕の式典も休んだ方がいいのではないのだろうか。
「国王陛下の生誕の式典もノエル殿下は休まれて、ノルベルト殿下だけ出席されたらどうですか?」
「父上に私からもお話しします。ノエル殿下は大事なときです。無理をなさらないでください」
わたくしが言えば、ハインリヒ殿下も言葉を添える。ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下で国王陛下と王妃殿下の元に行っていた。
「父上、ノエルは今、妊娠していて悪阻が酷いのです。父上の生誕の式典にノエルは欠席をしてもいいでしょうか」
「ノエルが妊娠しているなどなんとめでたい。ノエル、体を大事にしてほしい。私の生誕の式典はノルベルトだけ出席すればよいことにしよう」
「ありがとうございます、父上」
「国王陛下、お気遣いありがとうございます」
ノルベルト殿下が説明すると国王陛下は快くノエル殿下が国王陛下の生誕の式典を欠席することを許していた。
「ノエル殿下がこのような状況なので、本日はノエル殿下もノルベルト兄上も先に帰っても構いませんよね?」
「もちろんです。ノエル殿下、大事な時期です。体を休めてくださいね」
「気を付けて帰られてください」
ハインリヒ殿下の言葉に両親もノエル殿下とノルベルト殿下を送り出す体勢に入っている。
ノエル殿下とノルベルト殿下はお茶会の途中だったが、先に馬車に乗って帰って行った。
ノエル殿下とノルベルト殿下を見送ると、クリスタが表情を引き締めて両親に言っている。
「パウリーネ先生はもう引退されたのですか?」
「パウリーネ先生は後継を育てていると聞いています」
「その方にノエル殿下のところに行っていただくことはできないのですか?」
「ノエル殿下が心配ですね。パウリーネ先生と連絡を取ってみましょう」
母がフランツとマリアを産んだときにも、王妃殿下がユリアーナ殿下を産んだときにも、主治医として診てくれていたパウリーネ先生。元はカサンドラ様の主治医だったのだから、高齢になっていることは分かっている。
そのパウリーネ先生が後継者を育てていたというのは初耳だった。
「パウリーネ先生の後継者とはどんな方なのですか?」
「数名いると聞いています。引退する前にパウリーネ先生は論文を書き、自分の学んだことを後世に残すとともに、後継者を数名育てて、オルヒデー帝国の女性に貢献しようとしているのです」
母の言葉にわたくしはさすがパウリーネ先生だと感心する。パウリーネ先生は高齢になってもこの国の女性のために尽力していた。
「わたくしがいつかハインリヒ殿下の赤ちゃんを産むときには、パウリーネ先生の後継者の方が診てくださるのでしょうか」
「きっと手配します。クリスタ嬢は皇太子妃になるのですからね」
ハインリヒ殿下は皇太子で、クリスタは皇太子妃となる。皇太子妃の産んだ子どもは次の皇太子になることが決まっている。皇太子は国王となるので、クリスタの産んだ子どもが国王となってこの国を治める未来がくるのだ。
ハインリヒ殿下の口から皇太子妃という名称が出てくるとクリスタの表情が引き締まる気がする。わたくしもクリスタ同様、辺境伯夫人としてしっかりと頑張らなければならない。
「エリザベート嬢が妊娠したときには、パウリーネ先生の後継者の方を手配します」
「ありがとうございます、エクムント様」
それまで妊娠など遠い話だと考えていたが、ノエル殿下が妊娠なさったと聞くと、わたくしも結婚したらそういうことが有り得るのだろうとどうしても考えてしまう。緊張して身を固くするわたくしの心を解すように、エクムント様はわたくしが妊娠したときにもパウリーネ先生の後継者を手配してくださると約束してくださった。
母は最初にわたくしを産んだときに死にかけたと言っていた。それで第二子以降を産むことを諦めたのだとも。妊娠や出産が命がけであることは、どんな時代、どんな世界でも同じなのだろうが、実際に死にかけた母がフランツを産もうと思ったのは、クリスタが養子になって、ディッペル家の娘が一人ではなくなった後だった。
どういう心境で母がフランツを産もうと思ったか、その後のマリアを産もうと思ったか、わたくしははっきりとは聞いていない気がする。聞いたかもしれないが幼いころなので忘れてしまっている。
ちょうど母のところに来ていたので、わたくしは聞いてみることにした。
「お母様はわたくしを産んだときに死にかけたのでしょう? 一度は子どもを産むことを諦めたのに、フランツやマリアを産もうと思ったのはどうしてですか?」
「わたくしはエリザベートを産んだときに死にかけて、エリザベートを残して死ねないと思ったのです。それで、第二子以降は諦めようと思っていました」
「それが変わったきっかけは?」
「きっかけはクリスタだったでしょうか。エリザベートが妹としてクリスタと仲良く遊んでいるのを見て、やはりエリザベートに弟妹を産んでやりたいと思ったのです。それに、わたくしに何かあっても、エリザベートはしっかりと育っていたし、クリスタという妹もいました」
その話を聞いていたクリスタが身を乗り出す。
「わたくしがいたから、お母様はフランツやマリアを産んでくださったのですか?」
「そうですよ。エリザベートとクリスタが仲がいいのを見て、もっと弟妹を増やしてあげたらどれだけ喜ぶだろうと思ったのです」
フランツが生まれたおかげでわたくしは公爵の後継者という地位をフランツに譲って、辺境伯であるエクムント様と婚約することができた。
それはわたくしがクリスタを引き取るように両親にお願いしていなければ実現していなかったことだった。
わたくしはわたくしの力で運命を変えたのだ。
物語の中の悪役で、最終的には公爵位を奪われて辺境に追放されるキャラクターではなくて、物語の主人公のクリスタとも仲がよく辺境には望まれて嫁いでいく。
わたくしはこの運命をわたくしの力で勝ち取ったのだった。
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