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十三章 わたくしの結婚
47.二度目の結婚式
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集まった貴族たちの前でわたくしとエクムント様は国王陛下に提出した結婚誓約書と共同統治の誓約書の写しを見せて宣言する。
「私、エクムント・ヒンケルと、エリザベート・ディッペルは国王陛下の御前で結婚式を挙げて、結婚誓約書と共同統治の誓約書にサインをしてきました」
「今後、わたくし、エリザベート・ディッペルは、夫、エクムント・ヒンケルと共に辺境伯領を治め、辺境伯領がますます栄えるように努力していきたいと思います」
二十九歳というこの国にしては遅いエクムント様の結婚が成立したことを、辺境伯領の貴族たちはとても喜んでいるようだった。
わたくしと婚約した時点でエクムント様はわたくしが成人するまでは結婚を待たなければいけないとは分かっていたようだが、貴族の中には成人を待たずに結婚させられるものもいる。そういうものは時代錯誤だと分かっているのだが、物凄い年の差の政略結婚ともなると、一刻も早い結婚を望まれて、成人の十八歳を待たずに結婚するなどということがまだこの国でも起きているのだ。
その点エクムント様はしっかりとわたくしが成人するまで待っていてくださった。じれったい日々もあっただろうが、わたくしは学園で勉強し、辺境伯領のことを深く学んでから結婚できることを幸福に思っていた。
「エリザベート様がエクムント様と共に領主になられるのですね」
「エリザベート様は壊血病の予防策を発見し、コスチュームジュエリーの名称を考え、フィンガーブレスレットを考案し、ネイルアートを思い付いた、辺境伯領に貢献してくださったお方」
「エリザベート様とエクムント様の統治が長く続きますように」
喜びの声を上げる辺境伯領の貴族たちにわたくしは安心する。わたくしが幼いころには辺境伯領は独立派とオルヒデー帝国との融和派が対立していて、エクムント様のお誕生日に銃撃事件も起きたことがあったくらいだった。それが今は表面上はわたくしやエクムント様の味方をしてくださる方たちばかりだ。
「エリザベートお姉様、おめでとうございます!」
「エクムント様、エリザベートお姉様とお幸せに!」
フランツとマリアも飛び跳ねるようにして喜んでくれている。
「エクムント、本当によかった……。エリザベート様、エクムントをどうかよろしくお願いします」
「あの小さなエリザベート様がエクムントと結婚する日が来るだなんて。生きていてよかったです」
前のキルヒマン侯爵夫妻も結婚式には来てくださっていた。涙ながらにわたくしの手を握られてわたくしも涙が滲んでくる。
「わたくし、エクムント様と結婚出来て本当に幸せなのです。カサンドラ様はご自分のことを『お義母様』と呼ばなくていいと仰いました。わたくし、お二人のことを『お義母様』『お義父様』と呼んでもいいですか?」
「そう呼んでくださるのですか?」
「呼んでいただけたらとても嬉しいです」
エクムント様がキルヒマン家からヒンケル家に養子に行ったとしても、実の両親は前のキルヒマン侯爵夫妻に違いなかった。わたくしは前のキルヒマン侯爵夫妻のことを「お義母様」「お義父様」と呼ぼうと決めていた。
大広間での挨拶が終わると食堂に移動する。
食堂ではわたくしとエクムント様は昨日はテーブルを回って挨拶をしたが、今日は前の席について挨拶を受けていた。
ハインリヒ殿下、クリスタ、ディッペル家の家族、リリエンタール家の一家と挨拶が続いて、シュタール家の番になる。
シュタール家のオリヴァー殿は昨日も挨拶したが、今日は挨拶に自分から来てくれていた。
「素晴らしい結婚式に二度も参列できて本当に光栄です。エクムント様とエリザベート様のご活躍をお祈りしております」
「ありがとうございます、オリヴァー殿」
「オリヴァー殿もシュタール家の当主としてこれからよろしくお願いします」
挨拶に来る貴族の中には、ヒューゲル伯爵もいた。当主のラウラ伯爵と配偶者のローラント殿が挨拶をする。
「辺境伯領に新しい風を吹かせるエリザベート様の輿入れを心より歓迎いたします。ヒューゲル伯爵家、エリザベート様とエクムント様のためにこれよりますます忠誠を誓います」
「妻のラウラ共々、ヒューゲル伯爵家をよろしくお願いします」
若く美しいヒューゲル伯爵は、わたくしがエクムント様と話しているのに嫉妬してしまいそうになったときに、逆にわたくしのことを中央の洗練された貴族だと尊敬して、独立派の情報をエクムント様に渡してくれた。
あれから何年たっただろう。
ヒューゲル伯爵は婚約者だったローラント殿と結婚して、今でも辺境伯家に仕えてくれている。シュタール家のオリヴァー殿がユリアーナ殿下暗殺未遂の疑惑を掛けられたときには、颯爽と現れてその疑惑を晴らしてくれたものだ。
「ヒューゲル伯爵、これからもその働きに期待しています」
「どうか、共に辺境伯領を豊かにしていきましょう」
「はい、エクムント様、エリザベート様」
ヒューゲル伯爵は辺境伯領でも心から信頼できる貴族の一人だった。
たくさんの貴族から挨拶を受けて、わたくしは頭が混乱し始めていたし、立ちっぱなしでまた足も痛くなり始めていたが、笑顔は忘れずにいた。まだ学園を出たばかりで実践が伴わない未熟なわたくしにできることと言えば、エクムント様の隣りで美しく笑んでいることくらいだ。
わたくしがどっしりと構えていれば、貴族たちも共同統治に文句も言い出せないだろう。
挨拶をしている間に料理が下げられて、全く食べられないまま昼食会が終わると、エクムント様とわたくしは馬車に乗って社に向かった。
海神を祀っている社は、この辺境伯領では昔から信仰されていて、とても重要な場所なのだ。
馬車から降りて、社にお参りをして結婚を報告する。
他の貴族たちも馬車で社に来てそれを見届けていた。
両手を合わせて社にお参りするわたくしとエクムント様に、カサンドラ様がお参りを終えてから貴族たちの前で宣言する。
「これで、エクムントとエリザベートは辺境伯領の海神にも認められた夫婦となった!」
拍手が巻き起こり、わたくしはエクムント様と一緒に拍手の中馬車に戻って行った。
そのままお茶会になだれ込み、お茶会では辺境伯領の貴族の子どもたちが出席してわたくしとエクムント様に祝福をしてくれて、お茶会が終わると、晩餐会の披露宴になって、息をつく間もなく儀式が続いていく。
やっと一息付けたのは、晩餐会が食堂から大広間に移って、舞踏会に変わってからだった。
エクムント様とダンスをしてから、端のソファで座って休んでいると、カサンドラ様がエクムント様のところにやってくる。葡萄酒のグラスを片手に、かなり飲んでいる様子だ。
「エクムントは昨夜は楽しい夜を過ごせたのかな?」
「カサンドラ様! そういうことはお話しできません」
「まぁ、エクムントのことだ。エリザベートが疲れているだろうと配慮してそのまま寝たとでもいうのだろう」
当たっている。
さすがのエクムント様もカサンドラ様にはお見通しのようだった。
「エクムント様は紳士なのです」
「エリザベートがそういうのならば、私はこれ以上何も言わないことにしよう」
初夜が成功したかどうかとか、昔ならば使用人が見張りを付けて厳重に管理されていたような話だが、今はそんな時代ではない。高位の貴族にプライバシーはないようなものだとはいえ、そこまで管理されることはない。
それでも、わたくしとエクムント様が結ばれたかどうかについては、後継者のこともあるので周囲も口には出さないが興味は持っているのだろう。
今日こそはと気合を入れるわたくしだが、怒涛のように儀式が続いて、朝は王都から辺境伯領まで移動してきて、相当疲れが溜まっていた。
しかも二日続けての結婚式である。
昨日と同じく足は腫れて、痛みを感じている。
日付が変わるころに晩餐会がお開きになると、わたくしは心底疲れ切っていた。
エクムント様がわたくしを抱き上げて夫婦の寝室まで連れて行ってくださる。
バスタブに湯を張りながら、エクムント様はわたくしに言った。
「エリザベート、無理をさせるつもりはありません。今日も、二人で眠りましょう」
「すみません、わたくし、疲れてしまって……」
「二日続けての結婚式です。疲れるのも当然です。これからずっと一緒なのですから、焦ることは何もありません。エリザベート、今日はゆっくりと休んでください」
優しいエクムント様の言葉に、わたくしは甘えることにした。
「私、エクムント・ヒンケルと、エリザベート・ディッペルは国王陛下の御前で結婚式を挙げて、結婚誓約書と共同統治の誓約書にサインをしてきました」
「今後、わたくし、エリザベート・ディッペルは、夫、エクムント・ヒンケルと共に辺境伯領を治め、辺境伯領がますます栄えるように努力していきたいと思います」
二十九歳というこの国にしては遅いエクムント様の結婚が成立したことを、辺境伯領の貴族たちはとても喜んでいるようだった。
わたくしと婚約した時点でエクムント様はわたくしが成人するまでは結婚を待たなければいけないとは分かっていたようだが、貴族の中には成人を待たずに結婚させられるものもいる。そういうものは時代錯誤だと分かっているのだが、物凄い年の差の政略結婚ともなると、一刻も早い結婚を望まれて、成人の十八歳を待たずに結婚するなどということがまだこの国でも起きているのだ。
その点エクムント様はしっかりとわたくしが成人するまで待っていてくださった。じれったい日々もあっただろうが、わたくしは学園で勉強し、辺境伯領のことを深く学んでから結婚できることを幸福に思っていた。
「エリザベート様がエクムント様と共に領主になられるのですね」
「エリザベート様は壊血病の予防策を発見し、コスチュームジュエリーの名称を考え、フィンガーブレスレットを考案し、ネイルアートを思い付いた、辺境伯領に貢献してくださったお方」
「エリザベート様とエクムント様の統治が長く続きますように」
喜びの声を上げる辺境伯領の貴族たちにわたくしは安心する。わたくしが幼いころには辺境伯領は独立派とオルヒデー帝国との融和派が対立していて、エクムント様のお誕生日に銃撃事件も起きたことがあったくらいだった。それが今は表面上はわたくしやエクムント様の味方をしてくださる方たちばかりだ。
「エリザベートお姉様、おめでとうございます!」
「エクムント様、エリザベートお姉様とお幸せに!」
フランツとマリアも飛び跳ねるようにして喜んでくれている。
「エクムント、本当によかった……。エリザベート様、エクムントをどうかよろしくお願いします」
「あの小さなエリザベート様がエクムントと結婚する日が来るだなんて。生きていてよかったです」
前のキルヒマン侯爵夫妻も結婚式には来てくださっていた。涙ながらにわたくしの手を握られてわたくしも涙が滲んでくる。
「わたくし、エクムント様と結婚出来て本当に幸せなのです。カサンドラ様はご自分のことを『お義母様』と呼ばなくていいと仰いました。わたくし、お二人のことを『お義母様』『お義父様』と呼んでもいいですか?」
「そう呼んでくださるのですか?」
「呼んでいただけたらとても嬉しいです」
エクムント様がキルヒマン家からヒンケル家に養子に行ったとしても、実の両親は前のキルヒマン侯爵夫妻に違いなかった。わたくしは前のキルヒマン侯爵夫妻のことを「お義母様」「お義父様」と呼ぼうと決めていた。
大広間での挨拶が終わると食堂に移動する。
食堂ではわたくしとエクムント様は昨日はテーブルを回って挨拶をしたが、今日は前の席について挨拶を受けていた。
ハインリヒ殿下、クリスタ、ディッペル家の家族、リリエンタール家の一家と挨拶が続いて、シュタール家の番になる。
シュタール家のオリヴァー殿は昨日も挨拶したが、今日は挨拶に自分から来てくれていた。
「素晴らしい結婚式に二度も参列できて本当に光栄です。エクムント様とエリザベート様のご活躍をお祈りしております」
「ありがとうございます、オリヴァー殿」
「オリヴァー殿もシュタール家の当主としてこれからよろしくお願いします」
挨拶に来る貴族の中には、ヒューゲル伯爵もいた。当主のラウラ伯爵と配偶者のローラント殿が挨拶をする。
「辺境伯領に新しい風を吹かせるエリザベート様の輿入れを心より歓迎いたします。ヒューゲル伯爵家、エリザベート様とエクムント様のためにこれよりますます忠誠を誓います」
「妻のラウラ共々、ヒューゲル伯爵家をよろしくお願いします」
若く美しいヒューゲル伯爵は、わたくしがエクムント様と話しているのに嫉妬してしまいそうになったときに、逆にわたくしのことを中央の洗練された貴族だと尊敬して、独立派の情報をエクムント様に渡してくれた。
あれから何年たっただろう。
ヒューゲル伯爵は婚約者だったローラント殿と結婚して、今でも辺境伯家に仕えてくれている。シュタール家のオリヴァー殿がユリアーナ殿下暗殺未遂の疑惑を掛けられたときには、颯爽と現れてその疑惑を晴らしてくれたものだ。
「ヒューゲル伯爵、これからもその働きに期待しています」
「どうか、共に辺境伯領を豊かにしていきましょう」
「はい、エクムント様、エリザベート様」
ヒューゲル伯爵は辺境伯領でも心から信頼できる貴族の一人だった。
たくさんの貴族から挨拶を受けて、わたくしは頭が混乱し始めていたし、立ちっぱなしでまた足も痛くなり始めていたが、笑顔は忘れずにいた。まだ学園を出たばかりで実践が伴わない未熟なわたくしにできることと言えば、エクムント様の隣りで美しく笑んでいることくらいだ。
わたくしがどっしりと構えていれば、貴族たちも共同統治に文句も言い出せないだろう。
挨拶をしている間に料理が下げられて、全く食べられないまま昼食会が終わると、エクムント様とわたくしは馬車に乗って社に向かった。
海神を祀っている社は、この辺境伯領では昔から信仰されていて、とても重要な場所なのだ。
馬車から降りて、社にお参りをして結婚を報告する。
他の貴族たちも馬車で社に来てそれを見届けていた。
両手を合わせて社にお参りするわたくしとエクムント様に、カサンドラ様がお参りを終えてから貴族たちの前で宣言する。
「これで、エクムントとエリザベートは辺境伯領の海神にも認められた夫婦となった!」
拍手が巻き起こり、わたくしはエクムント様と一緒に拍手の中馬車に戻って行った。
そのままお茶会になだれ込み、お茶会では辺境伯領の貴族の子どもたちが出席してわたくしとエクムント様に祝福をしてくれて、お茶会が終わると、晩餐会の披露宴になって、息をつく間もなく儀式が続いていく。
やっと一息付けたのは、晩餐会が食堂から大広間に移って、舞踏会に変わってからだった。
エクムント様とダンスをしてから、端のソファで座って休んでいると、カサンドラ様がエクムント様のところにやってくる。葡萄酒のグラスを片手に、かなり飲んでいる様子だ。
「エクムントは昨夜は楽しい夜を過ごせたのかな?」
「カサンドラ様! そういうことはお話しできません」
「まぁ、エクムントのことだ。エリザベートが疲れているだろうと配慮してそのまま寝たとでもいうのだろう」
当たっている。
さすがのエクムント様もカサンドラ様にはお見通しのようだった。
「エクムント様は紳士なのです」
「エリザベートがそういうのならば、私はこれ以上何も言わないことにしよう」
初夜が成功したかどうかとか、昔ならば使用人が見張りを付けて厳重に管理されていたような話だが、今はそんな時代ではない。高位の貴族にプライバシーはないようなものだとはいえ、そこまで管理されることはない。
それでも、わたくしとエクムント様が結ばれたかどうかについては、後継者のこともあるので周囲も口には出さないが興味は持っているのだろう。
今日こそはと気合を入れるわたくしだが、怒涛のように儀式が続いて、朝は王都から辺境伯領まで移動してきて、相当疲れが溜まっていた。
しかも二日続けての結婚式である。
昨日と同じく足は腫れて、痛みを感じている。
日付が変わるころに晩餐会がお開きになると、わたくしは心底疲れ切っていた。
エクムント様がわたくしを抱き上げて夫婦の寝室まで連れて行ってくださる。
バスタブに湯を張りながら、エクムント様はわたくしに言った。
「エリザベート、無理をさせるつもりはありません。今日も、二人で眠りましょう」
「すみません、わたくし、疲れてしまって……」
「二日続けての結婚式です。疲れるのも当然です。これからずっと一緒なのですから、焦ることは何もありません。エリザベート、今日はゆっくりと休んでください」
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