そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥

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二章 ご寵愛されてます

11.ソフィアと過ごす夕べ

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 わたくしの演奏と歌もなんとか成功して終わり、わたくしとアレクサンテリ陛下と両親とソフィアは夕食を一緒に食べた。
 夕食は和やかな空気の中で会話が交わされた。

「それでは、レイシーは皇宮でも裁縫をさせていただいて、造花にまで挑戦させていただいているんだね」
「はい。アレクサンテリ陛下が、結婚式のブーケと花冠を作らないかと仰ったとき、わたくし、とても嬉しかったのです」
「それはよかったですね」

 わたくしが造花にも憧れていたけれど、造花には特殊な染料やこてが必要だったので諦めていたことを知っている両親は喜んでくれていた。

「中庭で家庭菜園を作っているのですか?」
「そうなのですよ、ソフィア」
「この前、レイシーが収穫したナスとキュウリを食べさせてもらった。とても美味しかったよ」
「お姉様はディアン子爵家でも家庭菜園を作っていましたからね。夏休みの間はわたくしが家庭菜園の世話をしていましたよ」
「そうだったのですね、ソフィア。トマトやナスやキュウリはよく育っていましたか」
「はい、とても」

 ソフィアとの会話にアレクサンテリ陛下は自然に入ってくるし、ソフィアもそれを嫌がる様子はなかった。わたくしが皇后として迎えられると聞いて、ソフィアもアレクサンテリ陛下の見方を変えたようだった。

 夕食後、わたくしは自分の部屋にソフィアを招いていた。
 ソフィアと二人きりで話したかったのだ。
 わたくしが滞在している部屋は、アレクサンテリ陛下が滞在している皇帝陛下のための部屋の隣で、妃のための部屋だった。これまでの皇帝陛下は複数の妃を持っていたこともあるので、妃のための部屋も複数あるのだが、その中でも寵愛されている妃のための部屋のようで、アレクサンテリ陛下は鍵をかけて、その鍵をわたくしに預けてくださっているが、皇帝陛下の部屋と直通のドアもあった。

 広い部屋のソファに座ると、わたくしはソフィアに聞いてみた。

「急にディアン子爵家の後継者となってしまいましたが、困っていることはありませんか?」
「わたくし、ディアン子爵家の後継者となって、これまでお姉様がどれだけわたくしのために心を砕いてくれていたか分かったのです。お姉様、本当にありがとうございます」
「姉が妹に何かするのは当然のことです。わたくしはソフィアのことを本当にかわいいと思っているのです」
「お姉様、わたくしもお姉様のことが大好きです」

 小さなころから美しかったソフィアとわたくしは比べられることが多かったが、わたくしは気にせずにソフィアをかわいがった。ソフィアが愛されることは嬉しかったし、ソフィアが健康で成長していることが何よりの幸福だった。
 ソフィアがいたからこそ、レナン殿との婚約も我慢できたのだと思う。

「ディアン子爵家の後継者として、お姉様を見習って、学園は首席で卒業できるように努力しています。領地に裁縫の工場ができたので、その経営にも携われるように勉強をしています」
「ソフィアは昔から裁縫はそんなに得意ではありませんでしたね」
「苦手でしたが、経営の方はできると思います。でも、どんなことをすれば工場で労働者たちが働きやすくなるのかを考えるために、わたくしも裁縫を始めました」
「ソフィアが裁縫を?」
「お姉様のように上手ではないし、すぐには上達はしませんが、どのようなものかを知っておいた方が工場経営にも役立つと思ったのです」

 どちらかといえばソフィアは活発な方で、ダンスやピアノや乗馬などの実践が得意で、裁縫のような細かい作業は苦手だった。それを経営のために理解したいと真剣に始める姿は偉いと思う。

「学んだことは絶対に活かせます。ソフィアが苦手ながら裁縫を始めたことは、これから工場で初めて裁縫をする労働者の身になって考える手助けになると思います。しっかりと頑張ってください」
「はい、お姉様」

 姉妹で手を取り合って話していると、ソフィアがふとわたくしの長く伸ばした黒髪に触れる。ソフィアの髪は母に似て金色なので、わたくしのような地味な色ではない。

「わたくし、お姉様がわたくしに必要なものがあったら髪を切って売ると言っていたのを覚えています」
「アレクサンテリ陛下のおかげで髪は売らなくてもよくなりそうですね」
「お姉様の髪は豊かで美しいのに、切ってしまったら悲しいと思っていました。お姉様の髪を切らなくてよくなって本当によかったと思います」

 もし本当にディアン子爵家が困窮して、ソフィアが学園で困るようになったら、わたくしは髪を売ってソフィアが学園で快適に過ごせるようにしていたと思う。
 この時代、髪の短い貴族の令嬢もいないわけではないし、短い髪もアレンジすればそれなりに見せられるだろうと考えていたのだ。
 ソフィア自身がわたくしの髪をそんな風に思っていてくれただなんて知らなかった。

「お姉様は本当に皇帝陛下に愛されているのですね」
「アレクサンテリ陛下は、わたくしのことを愛してくださっています。わたくしがしたいことをさせてくれて、わたくしに学びの機会を与えてくれています。皇后になってからはこんな風に自由にはできないだろうとは思うのですが、そのときには皇后としての責務を立派に果たしたいと思っています」
「お姉様は立派です。きっと素晴らしい皇后陛下になりますわ」
「そうだといいのですが」
「自信を持ってください。お姉様は学園でもずっと首席でした。お姉様のような優秀な姉を持てて、わたくしは誇らしかったです」

 「女のくせに首席を取ってどうするのか」とレナン殿には言われたことがあったが、わたくしは自分が優秀であることに胸を張っていた。ディアン子爵家を継ぐときに学園で学んだことは必ず役に立つ。そう思って学園での日々を過ごしていた。

「妃教育を受けて分かったのですが、学園で勉強したことは何一つ無駄になりませんでした。ソフィアも学園で学べるだけ学んで、立派な後継者になってください」
「はい、お姉様」

 そう答えた後でソフィアはそっとわたくしの耳に囁くようにしてお願いしてきた。

「わたくしは今は結婚など考えられないのですが、お姉様が結婚したら、真剣に婚約者を探そうと思います。お姉様はわたくしより先に幸せになって、わたくしに希望を持たせてくださいね」
「希望を?」
「この国が、皇帝陛下と皇后陛下が想い合って結ばれるような場所であると示してください」

 貴族は愛のない政略結婚をするのがほとんどだ。それをわたくしとアレクサンテリ陛下が、愛し合っている皇帝陛下と皇后という立場になれば、変えられるのかもしれない。貴族同士であっても、愛情を持って結婚するのが一般的になるのかもしれない。
 そう考えると、わたくしの責任は重大だった。

「わたくし、アレクサンテリ陛下と幸せになります」
「お姉様、応援しています」

 愛するアレクサンテリ陛下に幸せになってほしい思いは、同時にわたくしが幸せでなければいけないという思いでもあった。アレクサンテリ陛下が愛しているわたくしが幸せでなければ、アレクサンテリ陛下も幸せとはいいがたいだろう。

 ソフィアにおやすみなさいを言った後で、わたくしはアレクサンテリ陛下のお顔を見たくなった。
 この時間にお部屋を訪ねるのは失礼だし、はしたないと思われるかもしれないので、我慢してベランダに出ると、そこは思ったより広く、隣りの部屋と繋がっている。
 隣りの部屋のベランダではアレクサンテリ陛下が椅子に座って、テーブルにグラスを置いていた。

「アレクサンテリ陛下?」
「レイシーではないか。こんな時間にどうしたのかな?」
「アレクサンテリ陛下のお顔を見たかったのですが、この時間にお部屋を訪ねるのは失礼かと思って、ベランダに出て夜の湖を見ようと思っていました」
「少し冷えるようだね。こちらへどうぞ」

 アレクサンテリ陛下が自分の横の椅子を示してくれて、わたくしがそこに座ると、侍女にひざ掛けを持って来させてわたくしの膝にかけてくれた。アレクサンテリ陛下はお酒を飲んでいるようだった。

「アレクサンテリ陛下はどうなさったんですか?」
「わたしも夜の湖を見たくてベランダに出たんだ。静かで心地よかったので、ここで酒を飲んでいた」
「アレクサンテリ陛下はお酒がお好きなのですか?」
「好きか嫌いかで言えば好きだが、晩餐会で飲まされるのは好きではないね。静かに自分の部屋で飲むのが好きかな」
「わたくしがご一緒してもお邪魔じゃないですか?」
「レイシーが一緒にいてくれると嬉しいよ」

 微笑むアレクサンテリ陛下の顔は、外が薄暗いのであまりよく見えないけれど、きっと目元が朱鷺色に染まっているのだろう。

「さっきまでソフィアが部屋に来ていたのです。アレクサンテリ陛下のおかげで、ソフィアとゆっくり話すことができました」
「それはよかった。ソフィアとレイシーは仲のいい姉妹だからね。ソフィアはわたしにレイシーを取られたような気分になっているのかもしれないと思っていたよ」
「そうかもしれません。ソフィアの態度、不敬でしたでしょう?」
「気にしていないよ。ソフィアがわたしにレイシーを安心して預けられるように努力していこうと思っていた。わたしがソフィアの立場でも、姉の結婚相手というのは気になるものだろうしね」

 アレクサンテリ陛下の寛大なお心に感謝していると、アレクサンテリ陛下が手を伸ばしてわたくしの肩を抱く。アレクサンテリ陛下の顔が近くなって、アルコールの香りがした。

「レイシー、わたしを愛している?」
「はい、愛しています」
「わたしも愛しているよ」

 アレクサンテリ陛下の指が、わたくしの前髪を掻き上げて、額に唇が触れた。

「これ以上は歯止めがきかなくなってしまう。おやすみ、レイシー」

 立ち上がったアレクサンテリ陛下に解放されて、わたくしも立ち上がる。

「おやすみなさいませ、アレクサンテリ陛下」

 アレクサンテリ陛下の唇が触れた額が熱い気がして、わたくしはそっとそこを押さえた。
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