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二章 ご寵愛されてます
28.確かめたいこと
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夢を見ない夜もあるけれど、夢を見るときはいつも、わたくしはセシルになっていた。
幼いころからセシルの記憶を夢に見て、自然と縫物に興味持ったし、刺繍にも意欲的だった。
わたくしはずっとセシルのことは夢の中の人物で、わたくしの想像力で作り出したのだろうと思っていたが、アレクサンテリ陛下と出会い、話を聞いて、セシルが実在していたことを知った。
生まれ変わりというものがあるのならば、わたくしはセシルの生まれ変わりということになるのだろうか。
夢でずっと見ているので、わたくしにはほぼ完璧なセシルの記憶がある。
セシルとして生きてきた十六年間と、ガーネくんを保護してからの数か月、そして、ガーネくんを庇って死んでしまう瞬間までの記憶。
生まれ変わりなど本当にあるのだろうかと疑ってしまうが、アレクサンテリ陛下の記憶の中のセシルと、わたくしが夢で見るセシルは同一人物のようなので、わたくしがセシルとなんらかの関係があることは間違いないのだろう。
この件に関して、わたくしが相談できるのはアレクサンテリ陛下だけだった。
生まれ変わりなどという荒唐無稽なことを話しても、誰も信じてくれないだろう。それどころかわたくしの精神が大丈夫か疑われてしまうに違いない。
ソフィアの婚約式から数日後、わたくしはアレクサンテリ陛下に聞いてみた。
「アレクサンテリ陛下はセシルのことをどれくらい覚えているのですか?」
「六歳のころの記憶だが、セシルと出会ってからのことは忘れたことがない。セシルがわたしに買ってくれた積み木も、作ってくれた服やぬいぐるみも、置いてきてしまったことを後悔している」
「着ていた服は残っているのですよね。わたくしが見せてもらいましたから」
「セシルの血で汚れてしまったが、あの服は大事に取ってある。それ以外のものは持ち帰る暇もなく、わたしは叔父上の派遣した兵士たちに保護されてしまった」
アレクサンテリ陛下の記憶の中のセシルと答え合わせをしようとしても、セシルがガーネくんに買った積み木も、作った服やぬいぐるみも手元にはないという。
「セシルはガーネくんを庇って死んでしまったのですが、セシルの両親がどうなったか、アレクサンテリ陛下は知っていますか?」
「セシルの両親は、その日は食堂に行っていて無事だったのを確認しているよ。クーデターを起こした属国の兵士たちが狙っていたのはわたしだけだったからね」
セシルの両親は生きている。
それならば、国境のあの村にまだいるのではないだろうか。
「アレクサンテリ陛下、わたくし、セシルの家やお墓を訪ねてみたいのですが」
わたくしの申し出に、アレクサンテリ陛下も考えていたことがあったようだ。
「わたしも六歳で皇宮に戻されてから、一度もセシルの墓参りをしたことがないのだ。できることならば、セシルの墓参りをしたいと思っていた」
結婚式の衣装は出来上がっている。妃教育も順調に進んでいる。
アレクサンテリ陛下は執務を側近や部下に振り分けるようになったので余裕ができてきていた。
「行きましょう、アレクサンテリ陛下」
結婚前に、わたくしはセシルの記憶が本当に実際に生きていたセシルのものだったのかを確かめたかった。
「行こう、レイシー」
アレクサンテリ陛下も賛成してくれて、わたくしとアレクサンテリ陛下は日程調整に入った。
アレクサンテリ陛下は国境の村まで往復する間、執務を側近や部下に任せて、わたくしは妃教育を休む報せをラヴァル夫人とモンレイユ夫人に伝える。
国境の村までは、汽車を使って二日、それから馬車に乗り換えて半日以上かかることが分かっていた。
急に国境の村まで行くと決めたアレクサンテリ陛下に、カイエタン宰相閣下は説明を求めたが、アレクサンテリ陛下はこう答えたようだった。
「わたしが六歳のときに皇宮から逃がされて、護衛を全て殺されて、一人で逃げた。そのときにわたしを保護してくれて、命を懸けて守ってくれた相手に、結婚の報告をしに行きたいのだ」
クーデターが起きたときに六歳だったアレクサンテリ陛下を逃がして、前皇帝陛下が暗殺された事態の中でも守ろうとしたカイエタン宰相閣下は、その言葉を聞いて納得してくれたとアレクサンテリ陛下は言っていた。
それだけ皇宮に戻った後のアレクサンテリ陛下の落ち込み具合は酷かったのだろうし、その後も絶望の中を生きてきたと言っていたから、カイエタン宰相閣下もずっとそのことは気にかけていたのだろう。
冬も終わりに近づいたころ、わたくしとアレクサンテリ陛下は国境の村に旅行に出かけた。
国境の村はとても貧しいので、皇帝陛下が泊まれるような宿はない。
だから、国境の村の近くの町に泊まって、国境の村までは馬車で向かうことに決まった。
汽車も皇帝陛下が乗るための特別車両で、わたくしとアレクサンテリ陛下は個室席で特別車両内には護衛が多く配置された。
朝食後に汽車の駅まで馬車で向かって、汽車に乗って、夜には汽車から降りて、宿に向かう。
宿はその地方の最高級の場所が準備されていたが、それでもアレクサンテリ陛下が泊まるには狭い気がした。
婚前なので、わたくしとアレクサンテリ陛下の部屋は別々だったが、食事はアレクサンテリ陛下の部屋に運んでもらって、一緒に取った。皇帝宮の食事と比べたら質素なものだったかもしれないけれど、わたくしは子爵家だったころのディアン伯爵家で慣れていたし、アレクサンテリ陛下も文句を言うような方ではなかった。
宿は完全に貸し切りになっていて、他の部屋には護衛たちが交代で休む。
ベッドは皇帝宮のものと比べると硬くて狭かったが、わたくしは何の問題もなく眠ることができた。
翌朝、朝食を食べて、また汽車に乗る。
汽車の中で昼食を食べて、夜にやっと辿り着いたのが、国境の村に近いこの国の一番端の汽車の駅だった。
わたくしとアレクサンテリ陛下は宿で一晩を過ごし、翌日に馬車で国境の村を訪ねた。
国境の村までは半日以上かかった。
皇帝陛下のためにこの領地の領主が用意した最高の馬車のはずだったが、道は舗装されていない土を踏み固めたものだったし、皇帝陛下の馬車に比べれば狭くて揺れて、お尻が痛かったが、それもわたくしは慣れていた。
「アレクサンテリ陛下、お疲れではありませんか? 昨日はよく眠れましたか?」
「なんとか眠れたよ。セシルの両親に会うと思うと緊張してくるね」
「アレクサンテリ陛下がお会いになるセシルの両親の方が緊張していると思います」
わたくしがくすりと笑うと、アレクサンテリ陛下の表情が柔らかくなる。
「わたしのせいでセシルを失っているから、恨まれていても仕方がない」
「セシルの意志でアレクサンテリ陛下を守ったのです。そんなことはないと思います」
僅かに表情が明るくはなったもののアレクサンテリ陛下はセシルの両親になにを言えばいいのか困っている様子だった。
それ以上に困るのはわたくしである。
セシルの両親をわたくしは夢の中で知っているが、セシルの両親からしてみればわたくしはどこの誰とも知らない人物なのである。セシルの記憶を持っていますなどと言っても、信じてもらえるわけがない。
どのように説明しようか迷っていると、アレクサンテリ陛下がわたくしに声をかけてくれる。
「セシルの両親はレイシーがセシルの記憶を持っていると言っても信じられないだろうから、わたしが結婚することになったので、セシルの墓に妻となる人物を紹介したいとでも言うよ」
「すみません。よろしくお願いします」
わたくしにとっても、セシルは夢の中の人物でしかないし、セシルの両親を自分の両親のように感じるかといえば、それは微妙である。
アレクサンテリ陛下にお願いするわたくしに、アレクサンテリ陛下は深く頷いていた。
馬車に乗ったまま途中で休憩して、昼食を食べて、夕方ごろにわたくしとアレクサンテリ陛下は国境の村に辿り着いた。
護衛の馬が取り巻く豪華な馬車を見て、村のひとたちは高貴な方が来られたのだと緊張している様子だった。
アレクサンテリ陛下とわたくしが馬車から降りると、道を歩いているひとたちは、みな跪いて深く頭を下げている。
そんな中、わたくしとアレクサンテリ陛下は、村の食堂に向かって歩いて行った。
幼いころからセシルの記憶を夢に見て、自然と縫物に興味持ったし、刺繍にも意欲的だった。
わたくしはずっとセシルのことは夢の中の人物で、わたくしの想像力で作り出したのだろうと思っていたが、アレクサンテリ陛下と出会い、話を聞いて、セシルが実在していたことを知った。
生まれ変わりというものがあるのならば、わたくしはセシルの生まれ変わりということになるのだろうか。
夢でずっと見ているので、わたくしにはほぼ完璧なセシルの記憶がある。
セシルとして生きてきた十六年間と、ガーネくんを保護してからの数か月、そして、ガーネくんを庇って死んでしまう瞬間までの記憶。
生まれ変わりなど本当にあるのだろうかと疑ってしまうが、アレクサンテリ陛下の記憶の中のセシルと、わたくしが夢で見るセシルは同一人物のようなので、わたくしがセシルとなんらかの関係があることは間違いないのだろう。
この件に関して、わたくしが相談できるのはアレクサンテリ陛下だけだった。
生まれ変わりなどという荒唐無稽なことを話しても、誰も信じてくれないだろう。それどころかわたくしの精神が大丈夫か疑われてしまうに違いない。
ソフィアの婚約式から数日後、わたくしはアレクサンテリ陛下に聞いてみた。
「アレクサンテリ陛下はセシルのことをどれくらい覚えているのですか?」
「六歳のころの記憶だが、セシルと出会ってからのことは忘れたことがない。セシルがわたしに買ってくれた積み木も、作ってくれた服やぬいぐるみも、置いてきてしまったことを後悔している」
「着ていた服は残っているのですよね。わたくしが見せてもらいましたから」
「セシルの血で汚れてしまったが、あの服は大事に取ってある。それ以外のものは持ち帰る暇もなく、わたしは叔父上の派遣した兵士たちに保護されてしまった」
アレクサンテリ陛下の記憶の中のセシルと答え合わせをしようとしても、セシルがガーネくんに買った積み木も、作った服やぬいぐるみも手元にはないという。
「セシルはガーネくんを庇って死んでしまったのですが、セシルの両親がどうなったか、アレクサンテリ陛下は知っていますか?」
「セシルの両親は、その日は食堂に行っていて無事だったのを確認しているよ。クーデターを起こした属国の兵士たちが狙っていたのはわたしだけだったからね」
セシルの両親は生きている。
それならば、国境のあの村にまだいるのではないだろうか。
「アレクサンテリ陛下、わたくし、セシルの家やお墓を訪ねてみたいのですが」
わたくしの申し出に、アレクサンテリ陛下も考えていたことがあったようだ。
「わたしも六歳で皇宮に戻されてから、一度もセシルの墓参りをしたことがないのだ。できることならば、セシルの墓参りをしたいと思っていた」
結婚式の衣装は出来上がっている。妃教育も順調に進んでいる。
アレクサンテリ陛下は執務を側近や部下に振り分けるようになったので余裕ができてきていた。
「行きましょう、アレクサンテリ陛下」
結婚前に、わたくしはセシルの記憶が本当に実際に生きていたセシルのものだったのかを確かめたかった。
「行こう、レイシー」
アレクサンテリ陛下も賛成してくれて、わたくしとアレクサンテリ陛下は日程調整に入った。
アレクサンテリ陛下は国境の村まで往復する間、執務を側近や部下に任せて、わたくしは妃教育を休む報せをラヴァル夫人とモンレイユ夫人に伝える。
国境の村までは、汽車を使って二日、それから馬車に乗り換えて半日以上かかることが分かっていた。
急に国境の村まで行くと決めたアレクサンテリ陛下に、カイエタン宰相閣下は説明を求めたが、アレクサンテリ陛下はこう答えたようだった。
「わたしが六歳のときに皇宮から逃がされて、護衛を全て殺されて、一人で逃げた。そのときにわたしを保護してくれて、命を懸けて守ってくれた相手に、結婚の報告をしに行きたいのだ」
クーデターが起きたときに六歳だったアレクサンテリ陛下を逃がして、前皇帝陛下が暗殺された事態の中でも守ろうとしたカイエタン宰相閣下は、その言葉を聞いて納得してくれたとアレクサンテリ陛下は言っていた。
それだけ皇宮に戻った後のアレクサンテリ陛下の落ち込み具合は酷かったのだろうし、その後も絶望の中を生きてきたと言っていたから、カイエタン宰相閣下もずっとそのことは気にかけていたのだろう。
冬も終わりに近づいたころ、わたくしとアレクサンテリ陛下は国境の村に旅行に出かけた。
国境の村はとても貧しいので、皇帝陛下が泊まれるような宿はない。
だから、国境の村の近くの町に泊まって、国境の村までは馬車で向かうことに決まった。
汽車も皇帝陛下が乗るための特別車両で、わたくしとアレクサンテリ陛下は個室席で特別車両内には護衛が多く配置された。
朝食後に汽車の駅まで馬車で向かって、汽車に乗って、夜には汽車から降りて、宿に向かう。
宿はその地方の最高級の場所が準備されていたが、それでもアレクサンテリ陛下が泊まるには狭い気がした。
婚前なので、わたくしとアレクサンテリ陛下の部屋は別々だったが、食事はアレクサンテリ陛下の部屋に運んでもらって、一緒に取った。皇帝宮の食事と比べたら質素なものだったかもしれないけれど、わたくしは子爵家だったころのディアン伯爵家で慣れていたし、アレクサンテリ陛下も文句を言うような方ではなかった。
宿は完全に貸し切りになっていて、他の部屋には護衛たちが交代で休む。
ベッドは皇帝宮のものと比べると硬くて狭かったが、わたくしは何の問題もなく眠ることができた。
翌朝、朝食を食べて、また汽車に乗る。
汽車の中で昼食を食べて、夜にやっと辿り着いたのが、国境の村に近いこの国の一番端の汽車の駅だった。
わたくしとアレクサンテリ陛下は宿で一晩を過ごし、翌日に馬車で国境の村を訪ねた。
国境の村までは半日以上かかった。
皇帝陛下のためにこの領地の領主が用意した最高の馬車のはずだったが、道は舗装されていない土を踏み固めたものだったし、皇帝陛下の馬車に比べれば狭くて揺れて、お尻が痛かったが、それもわたくしは慣れていた。
「アレクサンテリ陛下、お疲れではありませんか? 昨日はよく眠れましたか?」
「なんとか眠れたよ。セシルの両親に会うと思うと緊張してくるね」
「アレクサンテリ陛下がお会いになるセシルの両親の方が緊張していると思います」
わたくしがくすりと笑うと、アレクサンテリ陛下の表情が柔らかくなる。
「わたしのせいでセシルを失っているから、恨まれていても仕方がない」
「セシルの意志でアレクサンテリ陛下を守ったのです。そんなことはないと思います」
僅かに表情が明るくはなったもののアレクサンテリ陛下はセシルの両親になにを言えばいいのか困っている様子だった。
それ以上に困るのはわたくしである。
セシルの両親をわたくしは夢の中で知っているが、セシルの両親からしてみればわたくしはどこの誰とも知らない人物なのである。セシルの記憶を持っていますなどと言っても、信じてもらえるわけがない。
どのように説明しようか迷っていると、アレクサンテリ陛下がわたくしに声をかけてくれる。
「セシルの両親はレイシーがセシルの記憶を持っていると言っても信じられないだろうから、わたしが結婚することになったので、セシルの墓に妻となる人物を紹介したいとでも言うよ」
「すみません。よろしくお願いします」
わたくしにとっても、セシルは夢の中の人物でしかないし、セシルの両親を自分の両親のように感じるかといえば、それは微妙である。
アレクサンテリ陛下にお願いするわたくしに、アレクサンテリ陛下は深く頷いていた。
馬車に乗ったまま途中で休憩して、昼食を食べて、夕方ごろにわたくしとアレクサンテリ陛下は国境の村に辿り着いた。
護衛の馬が取り巻く豪華な馬車を見て、村のひとたちは高貴な方が来られたのだと緊張している様子だった。
アレクサンテリ陛下とわたくしが馬車から降りると、道を歩いているひとたちは、みな跪いて深く頭を下げている。
そんな中、わたくしとアレクサンテリ陛下は、村の食堂に向かって歩いて行った。
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