いつか誰かの

秋月真鳥

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いつか誰かの 3

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 ハーロルトとアルミロとサムエルと飲んでから、ジャンは何度かまたこのメンバーで飲むことがあった。さすがに「サムエルは外してくれ」と露骨に言うのも意識しすぎているようで嫌だったし、何より、サムエルはハーロルトと話が合うようで、ジャンの方に時々視線は向けるもののジャンには絡んでこなかった。だから、ジャンは特に気にせずアルミロと話して、酒を飲んでいる。
「今は決まった相手はいないんだろ?」
 ハイスクールを出て専門学校に入った時期に、「男も試してみない?」と真っ直ぐに言ってきたアルミロは、物言いがストレートで、素直なのでジャンと気が合った。仕事に就いてからなんとなく疎遠になって、自然消滅したが、同窓会で会って話せばやはり気のいい奴で、付き合っていた頃を思い出す。
 金髪をさっぱりと切った、朱色の目が印象的なアルミロ。
「仕事が忙しくてそれどころじゃない」
 最近、恋人から「いい加減にして」と別れのメールが来たことを告げると、アルミロは愉快そうに笑った。
「ジャンはオンとオフの切り替えが激しすぎるからね」
「どういう意味だよ」
 顔を顰めると唇のぎりぎり外れた頬にキスをされる。誘うような仕草で唇を舐めたアルミロに、ジャンはため息を付いた。
「アーロこそ、ハロを狙ってるんじゃないか?」
「βはお呼びじゃないよ」
「あいつ、俺に声かけたぞ?」
 初対面で声をかけられたジャンに、アルミロは「ジャンはαっぽいんだよ」とまたくすくすと笑う。腰に手を回されて引き寄せられそうになって、ジャンはアルミロの手を払った。
 からんと、カットグラスの中で氷が音を立てる。
「サムがかなり酔っ払ってるみたいだけど、俺、お持ち帰りしてもいいかな?」
 薄茶色の目を輝かせるハーロルトに、アルミロが苦笑した。
「大丈夫……帰れる」
 立ち上がったサムエルの足元はかなりおぼつかない様子で、アルミロが素早く立ち上がって支える。
「そんなに飲ませたの?」
 アルミロに問われて、ハーロルトは「とんでもない」と首を左右に振った。
「最近、仕事が詰まってて、あまり寝てなかったせいだと……」
 言葉を切って口元を押さえたサムエルに、嫌な予感を覚えて、ジャンが二の腕を乱暴に掴んでトイレに押し込む。便器の中に咳き込んで吐き戻した吐瀉物の色に、ジャンは眉根を寄せた。
「あんた、なんか飲んでるだろ?」
「え?」
 酩酊しているのか、ぼんやりしているサムエルの襟首を引っ掴んで、ジャンは顔と口をすすがせる。
「αの被験者が見つからないんだ……ごめん、かっこ悪いところ見せちゃった」
 力なく笑うサムエルが、Ωのフェロモンにαが不本意に反応しないように抑える薬を開発する事業を立ち上げているということを言っていたと思い出し、ジャンは顔を歪めた。薬の中には、アルコールと相性の悪いものも多い。
「馬鹿じゃないのか」
 吐き捨ててトイレにサムエルを放置して出ようとしたら、廊下でハーロルトが待っているのに気付いて、ジャンは顎を持ち上げた。
「ハロにお持ち帰りされるか?」
「いやだ……帰るよ」
 何度も紫がかった青い目を瞬かせ、必死に意識を保とうとするサムエルに、ジャンは指を突き付ける。
「アーロを呼んでくる。送ってもらえ」
「君がいいな」
 濡れた手で緩く手首を掴まれて、甘えるような声を出されて、ジャンは半眼になった。
「あんたが納得するまで何度でも言うけど、俺は」
「βとしか恋愛はしない、だよね。分かってる。友達でも、無理かな?」
「俺を性的に見る奴を友達とは言わない」
 はっきりと言いきられて、サムエルはぐるぐると回る思考の中で、なんとか言葉を紡ぎ出す。
「アーロだって、君を性的に見てるよ。ハロだって、分かったもんじゃない。それに、僕が、君を性的に見てるなんて断言するの、相当の自惚れじゃない?」
 最後の方はろれつの回っていないサムエルの言葉に、ジャンは呆れた表情でその二の腕を掴んで、トイレから引きずり出した。廊下ですれ違ったハーロルトが羨ましそうな顔をしたが、それを無視する。
「どうするの?」
「俺が送る、らしい」
 問いかけたアルミロに答えると、アルミロは喉の奥で笑った。
「そのうち、そうなると思ってた」
「アーロ」
 無理やり立たせたサムエルの横で、ジャンはアルミロに軽くキスをする。唇を指先で撫でて、アルミロは「楽しんでね」と手を振った。


 住所を聞く前に助手席で眠ってしまったサムエルを、ジャンは何度か肘で小突いたし、蹴りもしたが、目覚める気配はなかった。薬とアルコールを同時に服用した相手を一人の部屋に返すのは危険だとは思っていたが、自分の部屋に泊めるのも面倒で顔を顰めながらも、結局、ジャンはサムエルを自分の部屋に連れて帰るしかなかった。
 体格差があるので支えるにはかなりきつかったが、気力と根性でなんとか寝室まで引きずり、ベッドに投げ込む。それから、ジャンはベッド脇のサイドテーブルにミネラルウォーターの入ったペットボトルを置き、異常が見られたら対応できるようにベッド脇に椅子を持ってきて、そこで毛布を被って体を丸めた。
 椅子に座った状態での眠りは浅く、朝方前にサムエルが身を起こしたのに気付いて、ジャンは目を覚ます。どこにいるのか分かっていない様子で周囲を見回していたサムエルは、サイドテーブルの灯りを点けたジャンに、最初は眩しさと酔いの残りで誰か分かっていなかったようだが、しばらくして紫がかった青い目を見開いた。
「どうして、きみが?」
 声がかすれて、咳き込んだサムエルに、ジャンはミネラルウォーターを投げて寄越す。
「胃液で喉が焼けてるんだろ。飲めよ」
「ありがとう……」
 ミネラルウォーターを三分の一ほど一気に飲み干してから、サムエルは自分の着衣を確認した。靴が脱がされている以外は、寝乱れているだけで特に異変はない。
「薬を飲んで、酒を飲むな」
 心底呆れた口調でのジャンの忠告に、サムエルはようやく自分の失態を思い出したようで青ざめた。
「いや、あの、あれは……」
 言い訳をしようとして、サムエルはベッドに座ったままで俯いてしまう。
「被験者のαが見つからなくて……」
「だったら、飲むな。死ぬぞ」
 アルコールと相性の悪い薬物だったなら……特に試験段階でまだ認可の降りていない薬物ならば、命を落とすことも十分あり得る。それを恐れてただでさえαの被験者が集まらないのだろうに、その上にアルコールを飲むなど自殺行為だと説教をするジャンに、サムエルは肩を落として俯いたままだった。
「君と会えるチャンスなんて……本当に、ないし、君に会えると思ったら、つい」
「俺の責任にするわけか。いい根性ですこと」
 顔を歪めたジャンに、サムエルが慌てる。
「そんなんじゃないよ……ごめん。もう、会わないように、する」
 両手で顔を覆ったサムエルに、ジャンは「スーツの引き取り以外では、そうしてくれ」と素っ気なく言った。その腕をサムエルが強く掴んで、引き寄せる。
 体格差があるので軽々とベッドに引き倒されたジャンは、緑の目を冷ややかに細めた。
「強姦は犯罪だぞ?経歴に傷を付けたくないだろう?」
「最後だから、もう、どう思われてもいい、よ」
 ほとんど泣きそうな顔で言うサムエルに、ジャンがため息を吐く。
「なんで、俺なわけ?」
「分からないけど、ジュニアスクールのときから、ずっと、かっこいいと思ってた」
「ふぅん?」
 苦笑するようにしてから、ジャンがサムエルの肩を勢いよく押して、体勢を入れ替えた。
「ちなみに、俺、タチしかやんないよ」
「へっ!?」
 思わぬところで下に敷かれる形になって、サムエルは間抜けな声を出す。
「ぼ、僕、こっち、やったこと、ないん、だけ、ど」
 明らかに戸惑って焦っているサムエルに、ジャンはにっこりと微笑んだ。
「俺が入れる方なら、してもいいけど、逆なら即通報かな。さぁ、どちらを選ぶ?」
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