潔癖王子の唯一無二

秋月真鳥

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潔癖王子編

8.運命の番

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「出て行く必要などない。私はそなたを抱くのだから」
「だく……?」

 何を言われているのか意味が分からないまま、ヨウシアは王子の手によってベッドの上に運ばれていた。優しくシーツの上に横たえられて、ヨウシアの腰に跨って王子は服を脱いでいく。
 露わになる白く豊かな胸も、引き締まった腰も、丸く形のいい尻も、筋肉のついた太ももも、眩しいほどに美しく、彫刻のように整っている。美しさに見惚れているヨウシアを甘い香りが包み込む。
 抱く、と王子は言った。
 抵抗もできず脱がされていくヨウシアの身体を見て、王子はヨウシアが男性であることに気付いたはずだ。中心を勃たせて反応させているのに、後ろが濡れていないことに気付かれれば、オメガではないこともすぐに分かる。
 抱けないわけではないが、それをしたとしても、子どもができるわけでもない。
 もう隠すことはできないと、ヨウシアは涙ながらに白状していた。

「僕は、アルファで、男です……言えなくて、ごめんなさい……僕を抱いても、赤ちゃんはできません」

 甘い香りが頭をぼんやりとさせる。せめて最後に一度でも抱いてもらって、その思い出を胸に去りたかった。
 懇願すれば、アルファで男性でも王子は抱いてくれるだろうか。
 ヨウシアの願いを打ち消したのは、王子の言葉だった。

「赤ん坊は私が産む。そんなことを気にしていたのか」
「王子様が?」
「アレクだ。もうアレクと呼んでくれても良いだろう?」

 美しいアルファの王子が赤ん坊を産む。
 それはヨウシアが赤ん坊を産む以上に無理なはずなのに、自信満々で言われて、ヨウシアは混乱してしまった。甘い香りがヨウシアのアルファとしての本能を刺激して、中心からは雫が滲みだす。
 もじもじと膝を擦り合わせて、熱を逃そうとするヨウシアの中心を、王子の手が根元から柔く握った。扱き上げられて、強い刺激に涙が零れる。
 15歳になっていたし、オメガと思われていたので、ヨウシアは性教育を一応家庭教師から受けてはいた。オメガは発情期にはフェロモンが出てアルファを誘い、アルファは中心から白濁が出る。
 食が細く体も小柄で、成長が悪いせいか、ヨウシアはまだそこで達したことがない。オメガのフェロモンには気持ち悪くなって倒れてしまうし、アルファとして中心も使い物にならないのだから、結婚など初めから無理だったのだと、涙が止まらない。

「僕……その、まだで……」

 そちらに触っても無駄かもしれないということを告げれば、王子がほの赤い唇を舐めた気がした。大殿筋の発達した丸い尻をヨウシアの顔に向けて、王子がそこをくぱりと割って、後孔を見せて来る。
 薄暗いこの部屋でもそこが濡れているような気がして、ヨウシアは自分の目を疑った。

「ここで、そなたの初めてをもらえるのだな」
「王子様……濡れて……? なんで……?」
「触れてくれないのか?」

 触れて欲しいと願う声に、甘い香りが絡まって、ヨウシアはふらふらと手を伸ばしてそこに触れていた。周囲を触るとぬるりと滑っていて、中に指を差し込むと、熱く締め付けて来るのが分かる。

「あっ! 熱い……中、動いて……」
「ここを埋めてくれるのだろう?」

 ここに入りたい。
 アルファとしての本能が、忠実にヨウシアの中心に働きかけ、そこは既に弾けそうになっていた。
 指を抜いた王子が体勢を変えて、顔が見えるようにしながらヨウシアの華奢な腰に跨り、中心を手で捉える。濡れた後孔にキスするようにくちゅりと先端が当てられて、ヨウシアは耐えられず泣き出してしまった。

「出るっ! 出ちゃうっ!」
「まだだ。中で受け止めたい」
「ひっ! くるしいっ!」

 根元を握られて、達するのを堰き止められて、ヨウシアは欲望と快楽を求める気持ちに塗り潰されて、訳が分からなくなる。腰を落とした王子の中に包まれて、初めての絶頂を味わったヨウシアの頭は真っ白だった。
 もう何が起きているのかも分からない。
 耳朶を噛まれて囁く声に、ヨウシアはただ泣くことしかできない。

「もっと、孕むまで注いでもらわねば」
「ひんっ! やぁ! イったばかり……ひぁっ!」

 王子の汗が散り、ヨウシアの汗と混ざる。ぐちゅぐちゅと激しく動かされる王子の腰に、何度中で絶頂したか分からない。
 達したこと自体が初めてで、強すぎる快感に、ヨウシアは意識を持って行かれそうになっていた。

「もう、むりぃ……」
「私はまだ満足しておらぬ」

 部屋で引きこもっていたヨウシアと、軍で訓練を受けていた王子は、体格からして全く違うし、体力に至っては王子のそれは無尽蔵に思えた。
 高みから降りられなくなって、立て続けに絶頂する中心は、もうわずかしか白濁を吐き出していないが、それも全て搾り取ろうとするかのように、王子は腰を振り立てる。

「もう、でないぃ……ひぁぁ!? あぁんっ!?」
「まだ出ておるぞ?」

 本当にもう、無理。
 意識を失いながらも、ヨウシアは不思議と少しも寂しくはなかった。
 翌朝に王子がヨウシアを中に入れたままだったのには驚いたし、そのまま一度搾り取られてしまったのには、体力が尽きてまた倒れそうになったが、温かな胸に抱かれている今が幸せで、死ぬならば今が良いとまで思うほどだった。
 ヨウシアの白濁を後孔から太ももに伝わせながら、王子がヨウシアを抱き上げてくれる。膝の上の定位置に納まって、正面から王子に抱き付く形になって、ヨウシアは無意識にふにふにと王子の胸を揉んでいた。

「私たちは運命の番なのだよ。王子ではなくアレクと。そして、そなたの名前を」
「運命の……?」

 運命の番。
 そうであったならばどれだけ良いだろうとずっと思っていたこと。
 アルファだと思い込んでいた王子はオメガで、オメガで少女と思われていたヨウシアはアルファで男性だった。
 アルファとオメガだけが出会えるという、たった一組の運命の相手。

「一目で惹かれ合ったであろう? 私はそなた以外に触ることもできぬ潔癖症なのに、そなたならば、どこに触れられても、キスさえも甘美に感じられる」
「アレク様……僕は、ヨウシア……ずっと、呼んで欲しかった、呼びたかった……僕はヨウシアです」

 呼んで欲しいと言えば涙が出て、王子はヨウシアの顔中にキスを落としてくれる。

「ヨウシア。私の可愛いヨウシア。愛しいヨウシア」
「はい、アレク様」
「結婚してくれるね?」

 相手は王子である。オメガとアルファで、運命の番だったからとはいえ、即答はできない。それでも、王子の気持ちが変わらず、ヨウシアを求めてくれることが嬉しくて、ヨウシアは王子にキスを強請っていた。

「き、キスを……」
「そうだった、キスをしていなかった。私のヨウシアはキスが好きなのに」

 濃厚になる甘い香りは王子、アレクサンテリのフェロモンなのだろう。
 他のオメガのフェロモンは気持ち悪くて倒れてしまうのに、アレクサンテリのものは甘く官能的だ。胸に縋って目を閉じたヨウシアを抱き上げて、アレクサンテリはシャワーを一緒に浴びてくれた。

「ここ、ヨウシアが放ったのだから、ヨウシアがしてくれねば」
「は、はい」

 自分でもどれだけ出したのか分からない白濁を、シャワーの熱い飛沫を浴びながら、華奢な指を差し込んで掻き出していく。清潔をモットーとする潔癖症のアレクサンテリに少しの汚れも残してはいけないと、奥まで指で探っていると、壁に手をついて尻を突き出すような格好をしていたアレクサンテリが、甘い香りを放ちながらヨウシアを振り向く。

「そんなにされると、欲しくなるではないか」
「き、綺麗にしているだけです。いけません」

 昨日は昼間から睦み合ってしまったし、今日は早朝から身体を交わした。ただでさえバスルームのタイルの上に座り込んでいるヨウシアの腰も立たないくらいなのだから、ある程度控えてもらわないと、ヨウシアは自由に動くこともできない。
 そのことを主張すれば、アレクサンテリはあっさりとしたものだった。

「私がヨウシアを常に抱いておけば良いだろう」
「それでは執務に差しさわりがあります」
「それが許されぬなら、王位など継がぬ」

 結婚も長年拒んでいたアレクサンテリである。執務中も膝の上にヨウシアがいないと王位は継がないと宣言すれば、周囲は納得してしまうかもしれない。
 いけないと思いつつ、常にアレクサンテリを感じられる位置にいられるかもしれない予感に、ヨウシアは目の前が明るく開けたようだった。

「この部屋は冷たく寂しすぎる」

 シャワーを浴びて着替えたヨウシアを抱き上げて、アレクサンテリは自分の部屋にヨウシアを連れて帰った。一晩アレクサンテリが部屋を空けていたので、大臣も女王も既に、誰の元に行っていたかを把握している。
 広く明るい王子の部屋で一緒に暮らすことになって、喜びでいっぱいのヨウシアも、大臣と女王に会うのには緊張した。

「王子様をどうか、よろしくお願いいたします」
「これでようやく王位を渡せる。ヨウシア殿、ありがとうございます」

 潔癖症で他人に触れることも嫌がっていた王子が、身体まで交わした相手が、アルファで男性だったということで、大臣と女王はヨウシアを拝まんばかりに感謝していた。
 もう一人きりの部屋に戻ることはない。
 ヨウシアは、アレクサンテリ王子の婚約者として、運命の番として、アレクサンテリの部屋に迎えられた。
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