魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

97.手作りのチョコレートケーキ

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 夕方にエリシュカの魔法駆動二輪車の後部座席に仲良く座って帰って来たレオシュとルカーシュは、アデーラに大きな箱を出して渡してくれた。

「二人だけじゃ難しいってブランカお祖母ちゃんに言われちゃったんだ」
「ブランカお祖母様と一緒に作って来たんだよ」
「ママ、早いけど、お誕生日おめでとう」
「アデーラお母さん、おめでとう」

 自分がルカーシュとレオシュのお誕生日を祝うことがあっても、ルカーシュとレオシュが自分のお誕生日を祝ってくれるとは思っていなかった。箱を持って立ち尽くすアデーラに、魔法駆動二輪車に跨ったままエリシュカが声をかける。

「二人とも、ものすごく頑張って作ってたんだよ。受け取ってやりな」
「嬉しい……ありがとう。晩ご飯の後で食べようね」

 レオシュとルカーシュを抱き締めたかったけれど、大きな箱を持っているのでできなくて、アデーラはエリシュカに手を振って送り出した後、箱を氷室に入れて、改めてレオシュとルカーシュを順番に抱き締めた。ぎゅっと抱き付いてきたレオシュがくんくんとアデーラの胸に顔を埋めて匂いを嗅いで、むっと眉を顰めた。

「ママ、もしかして、父上が来た?」
「え? 来たけど、分かるの?」
「私のママに嫌な匂いがする!」

 国王陛下は昼間に来たが、アデーラと二人きりだった時間は一瞬で、すぐにヘルミーナ一家も来たし、ダーシャとヘドヴィカも店舗から戻って来た。匂いが移るようなことは全くしていないのだが、レオシュの機嫌は直らない。

「父上、ママに変なことしなかった!?」
「へ、変なこととかするわけないよ」
「本当に?」
「国王陛下が用事があったのはヘルミーナさんで、ヘルミーナさんと話をしていたよ」

 ヘルミーナの名前が出ると、レオシュの眉間に寄っていた皺が解ける。

「なんだ、ヘルミーナ先生に会いに来たのか。それなら許す!」
「レオシュ……私が誰と会ったとか、匂いで分かるの?」

 レオシュの嗅覚が鋭くてもホワイトタイガーの獣人なのでおかしくはない。アデーラが確認してみると、レオシュは答えてくれた。

「最近、父上の匂いがすごく気になるんだ。実は……お兄ちゃんの匂いも……」
「え!? 僕の匂いも気になってたの、レオシュ?」
「うん。何だかよく分からないけど、父上の匂いとかお兄ちゃんの匂いがママからすると、お兄ちゃんは全く悪くないんだけど、ちょっとイラッとしちゃうことがあってね」

 話を聞いていたアデーラは何となくその理由が分かるような気がしていた。レオシュももう8歳で男性として正常に育っている証なのかもしれない。

「ホワイトタイガーの縄張り意識なんじゃないかな。レオシュは小さい頃から、私以外に触られるのを嫌ってたし、縄張り意識が強いのかもしれないね」
「お兄ちゃんに対してそんな気持ちになるなんて、私、嫌な子じゃない?」
「嫌な子じゃないよ。大人になりかけているんだと思う。男性同士だから、どうしても同じ縄張りにいるのが耐えられない瞬間があるんだと思うよ」

 アデーラの話を聞いてレオシュが眉を下げる。

「お兄ちゃんにイラッとするの、直る?」
「ちゃんと大人になれば、味方と敵の匂いの判別もつくようになるんだと思う。今はレオシュは過渡期なんだよ」
「過渡期……って、何?」
「大人になる途中のこと」

 アデーラに説明されてレオシュはやっと安堵したようだ。アデーラに抱き付いて胸の辺りに顔を擦り付けている。匂いをつけられているのかもしれないとアデーラは気付いていたが、レオシュの好きにさせておいた。
 晩ご飯にアデーラはサーモンとアボカドと半熟卵で丼を作った。生野菜のサラダはレオシュとルカーシュは苦手なのだが、添えておくと頑張って食べてくれる。

「サーモン、美味しい! 卵美味しい! アボカド美味しい!」
「これは美味しいが三つ重なった最強の丼だね!」
「いただきますー!」
「ママ、お代りあるー?」

 レオシュとルカーシュとダーシャが目を輝かせて丼を見詰めていて、レオシュは食べる前からお代わりのことを考えている。レオシュは剣術の練習を始めてから元々よく食べていたのが更によく食べるようになっていた。

「お代りはサラダまで全部食べてからね」
「うぅ……頑張って食べる!」
「生野菜には酵素があるから、ちゃんと摂っておかないとね」

 アデーラに言われてレオシュは丼を掻き込んだ後で、サラダを必死に食べていた。レオシュは虎の獣人で歯が肉食獣のものなので、野菜を食べるのに適していない。小さく刻んで、レタスも小さく千切って食べやすくはしているのだが、野菜を咀嚼するのが苦手だった。
 ルカーシュはサラダを先にやっつけて、丼を大事にちまちま食べている。

「ママ、食べ終わった! サーモン丼、お代り!」
「よく頑張ったね。ご飯どれくらい?」
「さっきの半分くらい」

 レオシュに聞きながらアデーラはお代わりのサーモン丼を作った。全員が食べ終わってからアデーラはご飯を食べ始めるので、少し食べ終わるのが遅くなる。今日は特別な日なので、レオシュもルカーシュもダーシャも椅子に座ったままアデーラが食べ終わるのを待っていた。
 食べ終わって氷室から大きな箱を取り出して中を見ると、艶々のチョコレートのケーキが入っている。

「これを、レオシュとルカーシュが作ったの?」
「ママはチョコレートのケーキが一番好きだったって、ブランカお祖母ちゃんが教えてくれたんだ」
「大変だったけど、ブランカお祖母様が手伝ってくださったから」

 チョコレートでコーティングされた表面はアデーラの顔が映りそうなくらい艶々している。切るとチョコレートスポンジに間にチョコレートクリームは挟まれている。
 紅茶を淹れて、ミルクもたっぷり入れたアデーラは、ミルクティーと共にチョコレートケーキをいただく。

「美味しい……すごく美味しいよ、レオシュ、ルカーシュ」
「ママ、これまでお誕生日をお祝いしなくてごめんね」
「いつも僕たちを大事にしてくれてありがとう」
「ママ、大好きだよ」

 レオシュとルカーシュの言葉にアデーラは涙が滲んできそうになる。何もできない状態で保護したレオシュは、スプーンでご飯を食べさせてもらうことすら知らなかった。ルカーシュも酷い健康状態で保護されてきて、痩せて震えていた。
 小さかったレオシュとルカーシュがアデーラに感謝を伝えて、ケーキを作るまでに成長している。そのことがアデーラには感慨深く、嬉しかった。

「ママ、ダーシャお母さんのお誕生日のときは、協力してくれる?」
「ケーキ、多分、僕とレオシュだけじゃ作れないんだ」

 相談してくるレオシュとルカーシュに、アデーラは快く了承する。
 早春のダーシャのお誕生日には苺のケーキを作ろうか。ダーシャは苺が大好きだったことをアデーラは思い出していた。
 幼い頃からずっと一緒だったダーシャは、食べることが大好きで、好き嫌いはなかったが、特に苺が好きだったなんて、レオシュとルカーシュがダーシャのお誕生日を祝おうと言わなければ思い出さなかっただろう。
 アデーラとダーシャの食生活は、完全にレオシュとルカーシュが中心になっていた。

「ケーキより、ラザニアがいいわ」
「ラザニア?」
「すごく手間のかかる料理よ。レオシュもルカーシュも、アデーラによく教えてもらわないとできないわね」

 大人になったダーシャはケーキよりもラザニアを食べたいという。そういえばラザニアは作ったことがなかったとアデーラが思っていると、ルカーシュがにっと笑った。

「ケーキもラザニアも作るよ!」
「お誕生日だもんね! 私も頑張る!」
「それは楽しみね」

 来る春には苺のケーキとラザニアでダーシャのお誕生日を祝う。
 春が待ち遠しくなりそうだった。
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