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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

112.国王陛下の結婚式

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 国王陛下とヘルミーナの結婚式の準備が整っていく。
 そんな中でヘドヴィカがヘルミーナとアデーラとダーシャ、そしてイロナとフベルトに報告があると嬉しそうに言ってきた。

「ペツィナ伯爵の紹介で会ってみた方とのお話が進んでいます」
「それでは、ヘドヴィカも結婚するのですね?」
「はい……そのつもりです」

 頬を染めるヘドヴィカはとても美しい。

「私が平民育ちで、高等学校にも行ったことがないと正直に話したんです。そしたら、お相手の方も実は自分が平民育ちだということを明かしてくれました」

 平民と貴族との間に生まれた庶子で、平民として育っていたけれども、結局奥方との間に子どもは生まれず、愛情もなく冷めていたということで、相手の男性の父親である伯爵は奥方と別れて、相手の男性を跡継ぎにするために養子にして、母親と共に屋敷に招いたのだという。

「元々、その方のお母様と伯爵は恋に落ちて結婚を誓っていたのに、身分違いの恋を反対されて他の方と結婚しなくてはいけなくなって。そのときにはその方がお母様のお腹には宿っていたのです」

 その後もずっと密かに会いながら愛を育んできた伯爵は、一度も床を共にせぬままに子どもの生まれなかった奥方とは別れて、庶子の息子と愛していた女性を迎えに行った。

「平民として育ったので、その方も高等学校には行っていないのだと言っていました。家庭教師を雇って、高等学校での勉強を共に教えてもらって習おうと話しています」

 結婚後には家庭教師から勉強を習う約束までしているというヘドヴィカに、ヘルミーナは涙を流してその幸せを喜んでいた。

「いい方なのですね?」
「とても優しい方です。苦労をなさっているし、平民の暮らしもよく分かっていらっしゃいます。そういう方だから、ペツィナ伯爵は私に紹介してくださったのだと思います」

 ペツィナ伯爵の養子の子どもで、義理の孫になるのだが、ペツィナ伯爵はヘドヴィカのことをよく考えてお相手を選んだようだ。アデーラもダーシャも話を聞いていて安心する。

「あの方も平民育ちということで貴族社会に慣れずに悩んでいました。共に勉強をして、貴族社会のこと、この国の政治を理解していきたいと思っています」
「ヘドヴィカ、幸せになるのですよ」
「お母さんが国王陛下と結婚するおかげで、私は国王陛下の義理の娘として、堂々と伯爵家に嫁ぐことができます」

 抱き合っている母子の姿にアデーラもダーシャも感動していた。
 国王陛下の結婚式が終わらなければ、伯爵家の結婚式は行えるはずがない。それでも国王陛下の結婚式が終わったらすぐに結婚式が行えるようにアデーラはヘドヴィカのドレスを作り始めた。

「たっぷりと生地を使った、ボリュームのあるスカートのドレスに憧れているんです」
「上半身は背中を見せますか?」
「少しだけなら」

 ヘドヴィカの要望を聞いてウエディングドレスを作っていると、ヘドヴィカはヘルミーナにお願いに行っていた。

「お母さんが使うヴェールを、私にも使わせてほしいの」
「私が使った後のヴェールでいいのですか?」
「お母さんが使ったものがいいのよ!」

 母親であるヘルミーナの使ったヴェールをヘドヴィカも使いたいと言っている。ヘルミーナの幸せにあやかりたいという気持ちと、母親からヴェールを引き継ぎたいという気持ちがあるのだろう。

「ヘルミーナさんとヘドヴィカちゃんは身長も同じくらいだから、ヴェールの長さもちょうどいいと思いますよ」
「アデーラ様の作って下さったヴェールを親子二代で使えるなんて幸せです」

 涙ぐむヘルミーナにヘドヴィカがその肩を抱いていた。
 ヘルミーナと国王陛下の結婚式は秋に行われた。国王陛下の結婚式なので小規模にしようと思っても、どうしても派手にはなってしまう。国を挙げて祝われるのも国王陛下の仕事なのだとヘルミーナも諦めていた。
 結婚式の日程の中には、レオシュのお誕生日と被っている日もある。
 結婚式を計画した宰相や有力貴族たちにしてみれば、息子のお誕生日に結婚式を挙げて、息子にも祝ってもらう国王陛下というのを演出したかったのだろう。
 結婚式に出席するためにレオシュとルカーシュとイロナとフベルトとヘドヴィカの衣装もアデーラは作っていたが、レオシュが微妙な顔をしているのには気付いていた。

「レオシュ、結婚式に出たくないのかな?」
「そんなことはないよ。ヘルミーナ先生の結婚式だし、ふーくんと私が兄弟になる日なんだからね」
「それにしては浮かない顔をしているよ。私には正直に話してくれる?」

 レオシュを引き寄せて腕の中に抱き締めると、こつんっとレオシュがアデーラの胸に額をくっ付ける。ぴったりとくっ付いて抱き付いてくるレオシュは、何か考えているようだ。
 急かすつもりはないので、アデーラはそのままレオシュをしばらく抱き締めていた。

「父上のこと、私は、ふーくんの父上と思っていいのかな?」
「どういうこと?」
「自分の父上だと思うと仲良くできる気がしないけど、ふーくんの父上だったら、友達のお父さんだから大事にしないといけないって思える気がするんだ」

 そういうのはよくない?
 純真な目で見つめられて、アデーラは「いけない」と答えられなくなった。

「いけなくないと思う。それで、レオシュが納得できるんなら、レオシュがそう思うのは自由だよ」
「父上とずっとわだかまりを抱えたままだと、お兄ちゃんもふーくんも悲しむと思うんだ。私なりのけじめのつけ方を考えてた」
「レオシュがそれでいいと思うなら、私は反対しないよ」

 アデーラが言えばレオシュはアデーラの胸に顔を埋める。

「ママ、二人だけの秘密にしてね」
「分かったよ、レオシュ」

 約束をして、アデーラはしばらくレオシュのことを抱き締めていた。
 結婚式の日には王宮の大広間でウエディングドレスを着たヘルミーナがタキシードを着た国王陛下と並んでいた。二人は集まった貴族たちの前で誓いの言葉を述べる。

「亡き妻、リリアナのことを忘れる日はこれからもずっと来ないだろう。しかし、私は未来に向かって生きなければいけない。過去ばかりを見て絶望しているわけにはいかない。私に未来を見せてくれたのはヘルミーナ殿だ。ヘルミーナ殿と共にこれからの人生を歩んで行こうと思う」

 国王陛下の宣言に貴族の中からはリリアナを思って啜り泣きが聞こえる。その中心にはバジンカとマルケータがいた。

「わたくしが国王陛下と会ったのはルカーシュ殿下の家庭教師として雇われるときでした。あのときから長い時間が経ちました。国王陛下はわたくしの子どもたちにも、皇子様たちにも分け隔てなく愛情を注いでくださいました。わたくしは子どもたちを大事にしてくださる国王陛下の姿に心を打たれました。これから国王陛下を支え、共に生きて行こうと思います」

 宣言の後にお祝いの暖かい拍手が巻き起こり、バジンカとマルケータがヘルミーナの元に歩み寄る。

「私たちの娘は国王陛下のお子を産んで亡くなりました」
「あなたはどうか、国王陛下を置いて行くようなことは絶対になさらないでください」
「ヘルミーナ様、国王陛下をよろしくお願いします」
「レオシュ様とルカーシュ様を愛情を込めて教育してくださってありがとうございます」

 国王陛下の亡き妻のリリアナの両親がこれだけヘルミーナとの結婚を祝福しているのだ。バジンカとマルケータは公爵家の夫妻で、この国では屈指の高位の貴族である。国王陛下の亡き妻もオルシャーク公爵家の出身だ。そんなバジンカとマルケータの態度は貴族たちを動かした。

「国王陛下万歳!」
「ヘルミーナ様、おめでとうございます!」

 貴族たちの中からも祝福の声が上がる。それを聞きながら、ヘルミーナはヘドヴィカとイロナとフベルトを抱き寄せていた。
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