魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

135.ルカーシュ、17歳の想い

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 ルカーシュのお誕生日は祭典の次の日に魔女の森で祝うのが恒例だった。
 それを変更しようと申し出て来たのはエリシュカだった。

「あたしやブランカが魔女の森の秘密を探っているのを、よく思わない魔女がいてもおかしくはない」
「冬にアデーラはエリシュカのふりをしたエディタに捕まったものね。あの犯人もまだ足取りを掴めていないのよ」
「あたしたちよりも上手の老獪な魔女だと思われる。残念ながら、あたしたちでも敵わないようだよ」

 冬にアデーラが攫われた事件もあるし、魔女の森でお祝いをするのは難しいと告げるエリシュカとブランカに、ルカーシュは聞き分けよく頷いた。

「エリシュカお祖母様とブランカお祖母様は来てくださるのでしょう? オルシャーク領のお祖父様とお祖母様も呼んで、離れの棟でお祝いするのも素敵だと思います」
「ルカーシュ、せめてあたしたちの家は安全だって言ってやりたかった」
「ごめんなさいね、ルカーシュ」
「謝らないで、エリシュカお祖母様、ブランカお祖母様。僕は、僕の我が儘でアデーラお母さんやダーシャお母さんが危険に晒される方がつらいです」

 いい子で答えるルカーシュにエリシュカもブランカも申し訳なさそうに頭を下げていた。
 ルカーシュの17歳のお誕生日の祭典では、話題になったのはルカーシュの結婚のことだった。

「国王陛下も王立高等学校を卒業と同時に結婚していらっしゃる」
「まだ一年以上先というが、もう一年と少ししかないのです」
「ルカーシュ殿下によいお相手はおられるのですか?」

 興味津々の貴族たちにルカーシュがはっきりと答えた。

「私には長年想う方がいます。その方のおかげで私は健やかに成長できました。今は明らかにするときではないと思っていますが、来年の誕生日にはきっとその方を紹介できると思います」

 それまでは待ってほしいというルカーシュに、追及することを国王陛下は許さない。

「ルカーシュの心に決めた相手については、私も認めている。この国はこれから変わっていかなければいけない。その一歩となるだろう」

 今は触れてはいけない話題となったが、それでも貴族たちは気になる様子だった。

「ルカーシュ殿下は学友のイロナ様とずっと一緒におられるとか」
「やはりイロナ様なのでしょうか」
「ルカーシュ殿下の想いびとはどなたなのでしょう」

 何も聞かないふりをしてルカーシュはお祝いに来てくれていたバジンカとマルケータの方に歩み寄った。バジンカとマルケータはルカーシュを見て目を細めている。

「長い髪がとてもよくお似合いです」
「リリアナを思い出します。本当にルカーシュ様もレオシュ様もリリアナによく似て」
「母と似ていると言われるのは嬉しいです。お祖父様とお祖母様の中に、母上はずっと生きていらっしゃるのですね」
「リリアナのことを忘れたことはありません」
「リリアナは私たちの光りでした」

 本当に娘を愛していて、その娘が産んだ孫も愛してくれていることが分かるバジンカとマルケータに、ルカーシュはお誕生日に呼ぶことを忘れなかった。

「明日、私のお誕生日を離れの棟で祝ってもらいます。お祖父様とお祖母様も来て下さい」
「喜んで行かせてもらいます」
「ルカーシュ様とレオシュ様にお渡ししたいものがあったのです」

 快い返事をもらってルカーシュはバジンカとマルケータに微笑みかけていた。
 翌日の離れの棟でのお誕生日会では、国王陛下が堂々と宣言していた。

「私は箸も練習したし、手巻き寿司も自分で巻けるようになった。ヘルミーナ殿が私に教えてくれた。ルカーシュは私に遠慮することはないのだぞ」
「ありがとうございます、父上」

 それが誇れることなのか分からないが、なぜか誇らしげに告げる国王陛下に、アデーラはレオシュと似ているとつい思ってしまった。こんなことをレオシュに告げたら毛を逆立てて激怒するだろう。
 ご飯を炊いて、刺身を切って、卵を焼いて、キュウリとたくあんも切って、イクラとウニも準備して、手巻き寿司の用意がされる。新鮮な刺身はきらきらと皿の上で輝いていた。

「本物の刺身だ! 練習のときは、ハムとか卵ばっかりだったからな」
「ふーくん、お刺身、美味しいんだよ」
「うん、食べたい!」

 フベルトも目を輝かせているし、イロナも手巻き寿司に期待しているのは確かだった。
 バジンカとマルケータはルカーシュとレオシュにリリアナの遺品を渡していた。

「これはリリアナが身につけていた指輪です。国王陛下との婚約が決まったときにいただいたものです」
「こちらは、リリアナのために作らせた短剣です」
「え!? 母上は短剣を持っていたの!?」
「そうです。リリアナはとても勇敢な子で、剣術も練習していたのです」
「女性用の短剣です。公の場でドレスとも合わせて問題ないように作らせました」

 リリアナの新しい側面を知って、レオシュは驚きの声を上げていた。

「ルカーシュ様にはもう大事な方がおられると聞きました。その方に差し上げてください」
「レオシュ様にも大事な方が、おられるのでしょう?」
「はい。私はママが好きです」
「私もダーシャお母さんを愛しています」

 ここでは隠す必要がないとはっきり言うレオシュとルカーシュに、バジンカとマルケータは目に涙を浮かべている。

「好きなひとと結ばれることが難しい立場にお二人ともあると思います」
「レオシュ様とルカーシュ様の祖父母として、私たちだけは絶対にお二人の味方であることを誓います」
「ありがとうございます、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん」
「嬉しいです、お祖父様、お祖母様」

 魔女との恋が難しいものであってもバジンカもマルケータも応援すると言ってくれている。それにレオシュとルカーシュはお礼を言って、レオシュが短剣を、ルカーシュが指輪を受け取っていた。

「ママ、この短剣を受け取って欲しいって言ったら、どうする?」

 レオシュの問いかけに、アデーラは首を左右に振る。

「受け取れないよ。レオシュのお母様の大事な形見でしょう」
「ママはそう言うと思った。それでも、私はママに受け取って欲しい」
「レオシュ……」
「ママは平気な顔をしてるけれど、魔女の森で自分の家に閉じ込められたこと、とても怖かったんでしょう? ママにも身を守れるものがあった方がいいと思うんだ」

 手渡される短剣をアデーラはそれ以上拒めなかった。短剣を使うことがあるかどうかは分からないが、レオシュの気持ちとしてアデーラはポーチの中に入れた。

「ダーシャお母さん、受け取って欲しい」
「私でいいの?」
「ダーシャお母さんがいいんだ」
「ルカーシュが成人した暁には、受け取るわ。それまでは受け取れない」

 断るダーシャに、ルカーシュはそれ以上無理を言うことはなかった。
 ルカーシュとレオシュが席について、イロナとフベルトとヘルミーナと国王陛下とアデーラとダーシャとエリシュカとブランカは椅子が足りないので立ったままで手巻き寿司を食べ始めた。

「海苔の上にご飯を敷いて、その上に好きなものを乗せて、お醤油をつけて食べるんです」
「自分で巻くなんて初めてです」
「楽しいものですね」

 ヘルミーナに説明されて、バジンカもマルケータも楽しそうに手巻き寿司を自分で巻いて食べている。

「こっちの刺身も食べたいし、イクラも、ウニも食べてみたいし……」
「フベルト、迷ってたらなくなっちゃうわよ」
「全部美味しそうなんだもん!」

 どれを巻くかフベルトは迷っているようだ。
 国王陛下も自分で巻くことができて、楽しく手巻き寿司を食べていると、ブランカがキッチンからお皿を持って来た。

「味付き煮卵よ! これを巻いたら美味しいと思ってたのよ」
「卵だー! 私、食べたい!」

 卵という単語にレオシュが一番に反応する。ブランカに味付き煮卵を切ってもらって、レオシュは巻いて食べていた。
 味付き煮卵の黄身はとろりと流れ出るくらいに半熟で、海苔で巻いて食べるととても美味しい。
 手巻き寿司を食べ終わると、ブランカお手製のアイスクリームケーキが出てきて、一同はまた賑わった。
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