魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

179.トマーシュ、3歳

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「ずるい! 私もそっちがよかった!」

 アデーラの出産方法についてダーシャに話すと、ダーシャは本気でアデーラを羨ましがっていた。

「まだ実験段階だったし、初めてだったから成功するかは分からなかったんだよ」
「私は実験台になったんだよ」
「痛くないとか! 苦しくないとか! 私は! ものすごく痛くて! 苦しかったのにぃ!」

 テーブルをバンバンと叩いて悔しがっているダーシャに、トマーシュが真似をしてテーブルを叩いている。

「アマーリエとダリナが起きるから、ダーシャ、止めて」
「悔しいのよー!」
「くやちいのー!」

 ダーシャの真似をしてトマーシュもテーブルの上に突っ伏しているが、完全にこれを遊びだと勘違いしているようだった。子ども部屋にはベビーベッドが二つと、子ども用のベッドが一つ置いてある。ベビーベッドにはアマーリエとダリナが眠っている。トマーシュは身体も大きくなってきたので、子ども用のベッドに移っていた。

「だーたん、あーたん、ねんね」
「早くトマーシュと遊べるようになるといいんだけどね」
「とー、あとんであげう」

 ダリナとアマーリエを自分の妹だと自覚しているトマーシュは、ベビーベッドを覗きに来てはうっとりしている。生まれたときは皺くちゃで赤かったダリナとアマーリエも、肌が白くなって、皺も伸びてほっぺたがふっくらと丸くなっていた。

「ふみゃー! ふみゃー!」
「みゃー! みゃー!」

 アマーリエが泣くと、ダリナもつられて泣き出す。オムツを見て汚れていないことを確かめて、ルカーシュがダーシャとアデーラを呼んだ。ダーシャはダリナを抱っこして、アデーラはアマーリエを抱っこしてお乳を飲ませる。ほとんど同じタイミングでお腹が空くのは、ダリナとアマーリエの生活時間がほぼ同じだからかもしれない。

「ダリナとアマーリエは双子みたいね」
「私とダーシャも双子みたいにして育ったじゃないか」
「そうだったわね。アデーラは冬生まれ、私は春生まれだったけどね」

 エリシュカとブランカの家で育ててもらった懐かしい思い出を語り合うと、アデーラもダーシャも自然と笑顔になっている。授乳のために夜も頻繁に起こされるのはつらかったが、アデーラもダーシャも同じなのだと思えば頑張ることができた。

「トマーシュが泣いたときはルカーシュは『いいから寝てて』って言ってくれるし、ダリナがオムツだけのときも、ルカーシュがやってくれるのよ」
「レオシュもアマーリエのオムツを替えてくれるし、授乳のときには起きて飲み物を用意してくれるよ」

 ダーシャがルカーシュのことを誇らしげに語るので、アデーラも負けじとレオシュのことを語る。アデーラの胸に執着している様子を見せたので、レオシュが本当に大丈夫かと心配したが、子育てを始めるとレオシュはとてもいい父親だった。
 夜中に何度起こされても、レオシュも必ず起きてくれるので苦ではない。昼間はヘルミーナの手も借りているので、ある程度は休むことができる。

「お兄ちゃんが『お父さんなんだから、自覚を持って』って教えてくれたんだ」
「レオシュもいい父親になれてるみたいでよかったよ」
「可愛い娘に嫌われたくないからね」

 にこにこと話しているレオシュとルカーシュを見ながら、アデーラはお乳を飲み終わったアマーリエを床の敷物の上に降ろした。ダーシャもダリナを床の敷物の上に降ろす。
 敷物の上でじたばたと手足を動かしているアマーリエの手が、偶然二人を覗き込んでいたトマーシュの尻尾に当たった。尻尾を掴んで口に持って行くアマーリエに、トマーシュが慌てる。

「まっまー! まっまー! あかたん!」
「アマーリエ、それはトマーシュの尻尾だよ」

 必死に握ってしゃぶっていたアマーリエの口から、トマーシュの尻尾を助け出すと、そこは唾液でぐっしょりと濡れていた。

「おちっぽ! おちっぽー! ふぇぇぇぇ!」

 自分の尻尾を舐められるとは思っていなかったトマーシュがショックを受けて泣いている。アマーリエは尻尾を取られて不満そうにしているが、そのアマーリエの尻尾をダリナが掴んで口に運んでいるのは止められなかった。
 トマーシュはバスルームに連れて行かれて、尻尾を綺麗に洗って出て来た。
 春が来てトマーシュが3歳になる前に、ルカーシュが研究課程を卒業した。

「これからは王宮で父上の補佐をしながら、子育ても勉強も頑張るよ」

 卒業式にはアデーラはアマーリエを抱いて、ダーシャはダリナを抱いて出席した。
 国王陛下はダリナがまだ小さいことも配慮して、ルカーシュの仕事は離れの棟でできるものに限らせていた。書類を呼んで内容を国王陛下に纏めて伝えたり、審議にかける価値があるか判断するのがルカーシュの役目だった。
 離れの棟の子ども部屋で仕事をしながら、ルカーシュはトマーシュとダリナとアマーリエの様子も見ていてくれた。

「われこそは、こねこたんかめん……ねー、ぱっぱ、われこそはってなぁに?」
「私がそうだよ、ってことだよ」
「わかったー!」

 大根マンドラゴラのダイコンノスケと蕪マンドラゴラのカブコと一緒に木刀を構えてトマーシュが遊んでいる姿には、アデーラはレオシュとフベルトの小さい頃を思い出す。
 レオシュもフベルトもこんな風に分からないことを何度も聞いて来ていた。

「びぎゃー!」
「びょえー!」
「なにぃ! やるな!」

 戦いごっこをしているトマーシュはとても楽しそうで、ベビーベッドの中からダリナとアマーリエが丸いお目目を見開いてじっと見つめていることもよくあった。ダリナとアマーリエにとっては、トマーシュが遊んでいるのを見るのはとても楽しいようだ。時々きゃっきゃと声を上げて笑っている。

「だーたん、あーたん、にぃに、みっちゅよ」
「うー?」
「あー」

 一生懸命指で三を作ろうとするが難しくて、右手の親指と人差し指を立てて、左手の人差し指を立てて、合計で三にしたトマーシュに、アデーラとダーシャが声をかける。

「トマーシュ、とても賢いね」
「二つのお手手で三を作ったのね。すごいわー」
「とー、しゅごい! かちこい!」

 誇らしげな顔をしているトマーシュのお誕生日のためにエリシュカとブランカが来てくれた。

「えーばぁば、ぶーばぁば!」
「トマーシュ、今日はご馳走をいっぱい作るわよ」
「お誕生日おめでとう、トマーシュ。立派な3歳だね」
「とー、りっぱ!」

 両手で作った三を見せてトマーシュがアピールすると、エリシュカもブランカも大袈裟に驚いてくれる。

「両手で三を作ったのかい?」
「とても頭がいいのね」

 褒められてトマーシュは鼻の穴を広げていた。

「トマーシュは僕よりもレオシュに似てるんじゃないかと思うんだけど」
「そうかもしれないわ。叔父に似るのもあり得ないことじゃないわ」

 ルカーシュの呟きにダーシャが笑う。
 穏やかな春の日に、トマーシュのお誕生日は祝われた。

「おたちみ! ごはん! まきまき!」

 手巻き寿司をリクエストするトマーシュに、ブランカが魚を捌いて、ご飯を炊いて、キュウリとたくあんを切って、卵焼きを焼く。
 研究課程から早めに帰って来たレオシュも食卓に加わった。

「ケーキは何がいい?」
「あいつ!」

 アイスクリームケーキと手巻き寿司。
 このメニューにはアデーラもダーシャもレオシュもルカーシュも見覚えがある。

「やっぱり、ルカーシュの息子じゃない」
「そうだったみたいだ」

 トマーシュがレオシュに似ているのかもしれないと言っていたルカーシュも、ダーシャに言われてにっこりと微笑んでいる。息子が自分に似ているのはやはり嬉しいようだ。

「アマーリエはどんな子に育つんだろうね」

 ベビーベッドを覗いてレオシュが呟くと、アマーリエと目が合って、アマーリエが泣き出す。

「甘え泣き!? もうそんなに賢くなっちゃったの?」

 抱っこしてほしいから泣くなどという高等技術ができるほどにアマーリエは賢くなっていたようだ。レオシュに抱っこされるとけろりと泣き止んで、レオシュの胸に顔を擦り付けている。
 ダーシャもダリナを抱いて、全員でトマーシュのお誕生日を祝った。
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