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本編
3.二人の語らい
脳髄を溶かしてしまうような甘い香りに包まれて、何が起きているのかルカにはほとんど分かっていなかった。寝台の天蓋が見えていて、そこで布が揺れている。揺れているのは布だけでなく、自分もだと遅れて気付く。
王の猛る中心を舐めたり、手で扱いたり、ご奉仕するのは自分の方だとばかり思っていた。それが、王は恍惚の表情でルカの中心に頬ずりをして、口の中にそれを納めてしまった。
こんなことを高貴な方にさせてしまっていいのか。
何よりも、ルカのそこが反応したことはこれまで一度もなく、精を零したこともない。
それが、甘い香りに誘われて、自分でも見たことのないくらい立派に逞しくそそり立っている。
腰に跨られて、後孔に飲み込まれる間も、快楽しか感じなかった。重さや苦しさを、王は一切ルカに与えなかった。気持ちよすぎて、訳が分からなくなって、怖くて泣いてしまったが、叱責もされなかった。
たっぷりと交わった後で、ルカが動けなくなっても、王はルカを責めずに、抱き上げて湯浴みまでさせてくれた。
凛々しく、男らしく、それでいて妖艶で、優しい王。
自分が抱かれる方だとばかり思っていたから、驚きはしたものの嫌なことは何もされなかった。
部屋に戻って寝台に倒れ込んだルカは、熱い頬を押さえて、高鳴る鼓動に困惑していた。
「どうして……」
あの甘い香りはなんだったのだろう。そして、それに反応してしまった自分はどうしてしまったのだろう。
疑問の先に辿り着いた答えは、王がオメガで、自分がアルファという結論だった。
そんなはずはない、王はアルファだと周辺諸国にも知れ渡っていて、優秀で立派な体躯で、見目も麗しく、気高く、国と国民を愛する良き統治者と慕われている。オメガと言えば、優秀な子どもを孕むためにアルファの胤をフェロモンで誘って奪い取る、淫魔のように聞かされていたルカにとっては、王がオメガとは俄かに信じがたかった。
何より、細い手足に華奢な腰つきで、少女と間違われる自分が優秀な遺伝子を持つアルファだとはとても思えない。
「毎晩、僕に来るように仰った……」
後宮は女性やオメガなど、抱かれる存在ばかりで、王を抱く相手はいない。ずっとこれが欲しかったと、臆面なく王はルカの中心に頬を寄せた。濃厚な甘い香りの中、自分の後孔に指を差し入れて、自分で慰めていた。
王はオメガなのか。そして、自分はアルファなのか。
混乱したルカは答えが出せなかった。
なかなか寝付けずに昼前まで寝てしまったルカに、侍従は気遣って食べやすい粥や果物を持ってきてくれた。王がルカを気に入って、部屋から朝方まで返さなかったことは、既に後宮内に知れ渡っているらしい。それどころか、王宮内にも知れ渡っているのかもしれない。
今まで誰も求めなかった王が初めて求めたオメガ。
周囲のルカへの認識はそうなっていた。
木匙で粥を掬って食べると、蜂蜜の甘い味がする。甘さに王の部屋に充満していた香りを思い出して、ずくんと中心が疼いた気がする。食べながらも、ルカは今夜のことばかり考えていた。
夜になると、王の訪れない部屋は扉が閉じられて、廊下から侍従も側仕えの兵士もいなくなる。激しい交わりの余韻で膝が笑っていたが、ルカは湯浴みを終えて、母が特別気に入っていた布を纏って、廊下を歩きだした。一番奥の部屋に辿り着くと、恐る恐る扉を叩く。
「ルカか? 入るがいい」
「失礼いたします」
昨夜とは打って変わって、王は理性的に見えた。机についてインク壺にペン先を浸して、何か書き物をしている。
「来るのが早かったでしょうか?」
仕事が終わっていないのならば、邪魔になるから部屋に戻ろうとすると、王は軽々とルカを膝の上に抱き上げてしまった。
「この時期は、部屋から出られないから、仕事の方が部屋にやってくるんだ」
「お忙しいのですね」
「王は、国民を導き、良い国を作る。その見返りとして、良い生活ができる」
ルカの父も王だったが、そんな話を聞いたことはなかった。ほとんど会いに来ない父がどんな王だったかルカはよく知らないが、塔の下に見えるオリーブ農園も葡萄農園も、楽な暮らしをしているようには見えなかった。
王宮に来る途中に見た豊かな畑と地下水路の上を這うように生える草、働く人々の顔が脳裏を過る。この国は平和で豊かで、王も慕われている。
「良い王様なのですね」
「良いかどうかは、何百年も経って、歴史書に私の名前が載るようにならなければ分からない。私は目の前のことをこなしているだけだ」
素っ気なくも感じられる言葉だが、ルカの胸には暖かく響いた。このひとは国を愛し、国民を愛している。国民もまた、王としてのこのひとを愛している。
「王様……僕を口封じに処すのですか?」
知ってはいけない秘密を知ってしまった自覚はあった。アルファだと思われている王が、実はオメガだったなど、国の国家機密に違いない。その上、ルカはオメガではなく、恐らくはアルファだ。後宮にいても王の子を産むことはできない。
用なしになったルカは、処分される。
「口封じなど、誰が言った?」
「誰も……」
「そなたは、私がオメガだと気付いているな?」
「はい」
問いかけに正直に答えると、王は書き物を止めて、膝の上のルカを抱き締めた。
「正直、自分を偽るのはつらい……ルカは、私がオメガだと言いふらすつもりか?」
「言う相手がおりません」
後宮とはいえ、女性と男性が入り混じっている。間違いがあってはならないと、妾同士は互いに会えないようになっていて、庭にも塀が立てられている。それぞれの部屋に風呂とお手洗いがあり、食べ物や飲み物は毒の危険性がないように侍従に持ってきてもらうシステムで、基本的に王に呼ばれでもしない限りは部屋から出てはならない決まりになっていた。
「私を好きになれとは言わない。命じてもひとの心が動かないことなど知っている。番になれとも言わない。ただ、秘密を共有して欲しい」
王の言葉に、ルカは自分が衝撃を受けていた。好きになれ言わないと言われて、ルカは既に王に惚れている自分に気付いてしまった。後宮にいる大勢のうちの一人で、たまたまルカがアルファで、王の発情期に行きあったから身体を交わしただけで、王はそれ以上の感情はない。発情期を慰める相手が欲しかっただけ。
真実を突き付けられると、涙が出てきそうになる。
「僕は、王様のものです」
「そうか、良い子だ。口付けてもいいか?」
問わずとも奪って良いはずなのに、王は穏やかにルカにお伺いを立てる。後宮に入ったものは、全て王の手が付くことを望んで、王に好きにされるために存在するのに、このひとはこんなにも真摯だ。
震えながら小さく頷くと、顎に手をかけられて唇が重なった。何度か触れるだけの口付けをした後に、唇を開かされて、王の舌が入って来る。ぬるりとした感触と甘い唾液に、じんと頭が痺れて下半身に熱が集まる。口付けが深くなるにつれて、王の身体からも濃い甘い香りが漂ってきていた。
「んっ……ふぁっ」
「どうした?」
「い、いきが……」
口付けで息ができずに、陸に打ち上げられた魚のように口を開閉していると、王が吹き出したのが分かった。ちょんっと赤くなった鼻先を突かれる。
「鼻で息をするのだ」
「は、はい……」
すーはーと音を立てて鼻で息をしてみせると、王にまた笑われる。褐色の肌に白い歯が眩しい。
「美しい……」
「え?」
「王様は、とても美しいです」
口を突いて出た言葉が不敬にあたらないか青ざめて口を押えたルカに、顔を逸らして王は頭を掻いていた。視線の先に見えたものに気が付いたのだろう、机の上に置いてあった箱を引き寄せて、王はルカの膝の上に乗せた。
「そなたの所持品だったと言われた。大事なものだったのではないか?」
箱の中に入っていたのは、宝石やガラス細工、金属の細工のついた母の形見のブローチだった。針が危険なので取り上げられたのに返して良いのかと、ルカは王の膝の上に抱かれたままで王を見上げる。
「そんな細い針で私を殺せるほどの手練れではないだろう。この華奢な腕」
言われればその通りで、ルカの腕は王の三分の二くらいしかないし、胸の厚みは半分もないのではないだろうか。
「今は布を巻いておりますが、ブローチで留めるのが正式な着方なのです」
「それでは、正式な着方を明日は見せてもらわねば」
甘い香りが濃くなって、王がちろりと唇を舌で舐める。
今夜も激しい交わりの予感に、ルカはこくりと喉を鳴らした。
王の猛る中心を舐めたり、手で扱いたり、ご奉仕するのは自分の方だとばかり思っていた。それが、王は恍惚の表情でルカの中心に頬ずりをして、口の中にそれを納めてしまった。
こんなことを高貴な方にさせてしまっていいのか。
何よりも、ルカのそこが反応したことはこれまで一度もなく、精を零したこともない。
それが、甘い香りに誘われて、自分でも見たことのないくらい立派に逞しくそそり立っている。
腰に跨られて、後孔に飲み込まれる間も、快楽しか感じなかった。重さや苦しさを、王は一切ルカに与えなかった。気持ちよすぎて、訳が分からなくなって、怖くて泣いてしまったが、叱責もされなかった。
たっぷりと交わった後で、ルカが動けなくなっても、王はルカを責めずに、抱き上げて湯浴みまでさせてくれた。
凛々しく、男らしく、それでいて妖艶で、優しい王。
自分が抱かれる方だとばかり思っていたから、驚きはしたものの嫌なことは何もされなかった。
部屋に戻って寝台に倒れ込んだルカは、熱い頬を押さえて、高鳴る鼓動に困惑していた。
「どうして……」
あの甘い香りはなんだったのだろう。そして、それに反応してしまった自分はどうしてしまったのだろう。
疑問の先に辿り着いた答えは、王がオメガで、自分がアルファという結論だった。
そんなはずはない、王はアルファだと周辺諸国にも知れ渡っていて、優秀で立派な体躯で、見目も麗しく、気高く、国と国民を愛する良き統治者と慕われている。オメガと言えば、優秀な子どもを孕むためにアルファの胤をフェロモンで誘って奪い取る、淫魔のように聞かされていたルカにとっては、王がオメガとは俄かに信じがたかった。
何より、細い手足に華奢な腰つきで、少女と間違われる自分が優秀な遺伝子を持つアルファだとはとても思えない。
「毎晩、僕に来るように仰った……」
後宮は女性やオメガなど、抱かれる存在ばかりで、王を抱く相手はいない。ずっとこれが欲しかったと、臆面なく王はルカの中心に頬を寄せた。濃厚な甘い香りの中、自分の後孔に指を差し入れて、自分で慰めていた。
王はオメガなのか。そして、自分はアルファなのか。
混乱したルカは答えが出せなかった。
なかなか寝付けずに昼前まで寝てしまったルカに、侍従は気遣って食べやすい粥や果物を持ってきてくれた。王がルカを気に入って、部屋から朝方まで返さなかったことは、既に後宮内に知れ渡っているらしい。それどころか、王宮内にも知れ渡っているのかもしれない。
今まで誰も求めなかった王が初めて求めたオメガ。
周囲のルカへの認識はそうなっていた。
木匙で粥を掬って食べると、蜂蜜の甘い味がする。甘さに王の部屋に充満していた香りを思い出して、ずくんと中心が疼いた気がする。食べながらも、ルカは今夜のことばかり考えていた。
夜になると、王の訪れない部屋は扉が閉じられて、廊下から侍従も側仕えの兵士もいなくなる。激しい交わりの余韻で膝が笑っていたが、ルカは湯浴みを終えて、母が特別気に入っていた布を纏って、廊下を歩きだした。一番奥の部屋に辿り着くと、恐る恐る扉を叩く。
「ルカか? 入るがいい」
「失礼いたします」
昨夜とは打って変わって、王は理性的に見えた。机についてインク壺にペン先を浸して、何か書き物をしている。
「来るのが早かったでしょうか?」
仕事が終わっていないのならば、邪魔になるから部屋に戻ろうとすると、王は軽々とルカを膝の上に抱き上げてしまった。
「この時期は、部屋から出られないから、仕事の方が部屋にやってくるんだ」
「お忙しいのですね」
「王は、国民を導き、良い国を作る。その見返りとして、良い生活ができる」
ルカの父も王だったが、そんな話を聞いたことはなかった。ほとんど会いに来ない父がどんな王だったかルカはよく知らないが、塔の下に見えるオリーブ農園も葡萄農園も、楽な暮らしをしているようには見えなかった。
王宮に来る途中に見た豊かな畑と地下水路の上を這うように生える草、働く人々の顔が脳裏を過る。この国は平和で豊かで、王も慕われている。
「良い王様なのですね」
「良いかどうかは、何百年も経って、歴史書に私の名前が載るようにならなければ分からない。私は目の前のことをこなしているだけだ」
素っ気なくも感じられる言葉だが、ルカの胸には暖かく響いた。このひとは国を愛し、国民を愛している。国民もまた、王としてのこのひとを愛している。
「王様……僕を口封じに処すのですか?」
知ってはいけない秘密を知ってしまった自覚はあった。アルファだと思われている王が、実はオメガだったなど、国の国家機密に違いない。その上、ルカはオメガではなく、恐らくはアルファだ。後宮にいても王の子を産むことはできない。
用なしになったルカは、処分される。
「口封じなど、誰が言った?」
「誰も……」
「そなたは、私がオメガだと気付いているな?」
「はい」
問いかけに正直に答えると、王は書き物を止めて、膝の上のルカを抱き締めた。
「正直、自分を偽るのはつらい……ルカは、私がオメガだと言いふらすつもりか?」
「言う相手がおりません」
後宮とはいえ、女性と男性が入り混じっている。間違いがあってはならないと、妾同士は互いに会えないようになっていて、庭にも塀が立てられている。それぞれの部屋に風呂とお手洗いがあり、食べ物や飲み物は毒の危険性がないように侍従に持ってきてもらうシステムで、基本的に王に呼ばれでもしない限りは部屋から出てはならない決まりになっていた。
「私を好きになれとは言わない。命じてもひとの心が動かないことなど知っている。番になれとも言わない。ただ、秘密を共有して欲しい」
王の言葉に、ルカは自分が衝撃を受けていた。好きになれ言わないと言われて、ルカは既に王に惚れている自分に気付いてしまった。後宮にいる大勢のうちの一人で、たまたまルカがアルファで、王の発情期に行きあったから身体を交わしただけで、王はそれ以上の感情はない。発情期を慰める相手が欲しかっただけ。
真実を突き付けられると、涙が出てきそうになる。
「僕は、王様のものです」
「そうか、良い子だ。口付けてもいいか?」
問わずとも奪って良いはずなのに、王は穏やかにルカにお伺いを立てる。後宮に入ったものは、全て王の手が付くことを望んで、王に好きにされるために存在するのに、このひとはこんなにも真摯だ。
震えながら小さく頷くと、顎に手をかけられて唇が重なった。何度か触れるだけの口付けをした後に、唇を開かされて、王の舌が入って来る。ぬるりとした感触と甘い唾液に、じんと頭が痺れて下半身に熱が集まる。口付けが深くなるにつれて、王の身体からも濃い甘い香りが漂ってきていた。
「んっ……ふぁっ」
「どうした?」
「い、いきが……」
口付けで息ができずに、陸に打ち上げられた魚のように口を開閉していると、王が吹き出したのが分かった。ちょんっと赤くなった鼻先を突かれる。
「鼻で息をするのだ」
「は、はい……」
すーはーと音を立てて鼻で息をしてみせると、王にまた笑われる。褐色の肌に白い歯が眩しい。
「美しい……」
「え?」
「王様は、とても美しいです」
口を突いて出た言葉が不敬にあたらないか青ざめて口を押えたルカに、顔を逸らして王は頭を掻いていた。視線の先に見えたものに気が付いたのだろう、机の上に置いてあった箱を引き寄せて、王はルカの膝の上に乗せた。
「そなたの所持品だったと言われた。大事なものだったのではないか?」
箱の中に入っていたのは、宝石やガラス細工、金属の細工のついた母の形見のブローチだった。針が危険なので取り上げられたのに返して良いのかと、ルカは王の膝の上に抱かれたままで王を見上げる。
「そんな細い針で私を殺せるほどの手練れではないだろう。この華奢な腕」
言われればその通りで、ルカの腕は王の三分の二くらいしかないし、胸の厚みは半分もないのではないだろうか。
「今は布を巻いておりますが、ブローチで留めるのが正式な着方なのです」
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