孤独の王と後宮の青葉

秋月真鳥

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本編

4.告白

 側近が持ってきた箱には、宝石やガラス細工、金属細工のついたブローチが入っていた。
 ずっと埋められない欲望と孤独の中にいたジャファルを満たしてくれた、少女のような愛らしい少年、ルカ。彼と一夜を過ごしたことは、王宮中に知れ渡っていた。
 今まで後宮にどれだけ美しい女性が来ようと、発情期のオメガがいようとも、全く手を出すことなく、一人だけの部屋に閉じこもって眠っていたジャファルが、初めてその部屋に他人を入れた。それが美しいオメガの少年だということになっていて、ジャファルはどう反応して良いのか分からないまま、否定も肯定もしなかった。
 発情期の間は後宮の部屋に籠るジャファルは、三か月に一度息抜きをしているのだと言われていた。幼い頃に王位について以来、ずっと働きづくめのジャファルが三か月に一度くらい一週間の休みを欲しがってもおかしくはないと、周囲は考えてくれているようだった。それがオメガの発情の周期などと勘繰られることもない。
 発情期の間は自分の指で慰めようとして満たされず、苦しくつらく、誰にも助けを求められなかったのが、ルカを受け入れた翌日は妙に体がすっきりとしていた。まだ発情期特有の火照りはあるものの、欲望で塗り潰されて自分で処理して、風呂場と寝台を行き来することもない。
 扉を開けると、側近からどうしてもジャファルでなければいけない資料と共に、手の平に少し余るくらいの箱が置いてあった。部屋には誰も入れないし、後宮には基本的に妾妃とその世話をする侍従しか入れないことになっている。後宮を守る側仕えの兵士も、屈強な女性を選んで雇ってある。
 持ち上げた箱の中に入っていたブローチは、あのルカと言う少年が持ってきたものだと書かれた紙が添えられていた。針が危険だと検査官が取り上げたが、寵愛を受ける身となったルカの持ち物だということで処分はできず、ジャファルに判断を任されたのだ。
 抱き上げたら軽々と寝台まで運ばれた。発情期のフェロモンのせいもあったが、全く抵抗できずにジャファルに乗られて搾り取られてしまった。そんなルカがブローチの細い針でジャファルを傷付けられるとは思わない。
 暗殺を予測してジャファルは日ごろから鍛えているし、あの美しい少年は外を走ったことがないように細い脚で華奢だった。
 眩い金色の髪も、血管が透けて見えそうな白い肌も、大きな緑の瞳も、全て美しい。あんなに美しい少年は後宮に各国の美姫を集められた中でも、見たことがなかった。
 細工を凝らしたブローチもあの美しさの前では霞む。
「私の、ルカ」
 そうであったらいいのにという願望が口を突いて出て、ジャファルは頬を引き締めた。ここに来たのはルカの意志ではない。望んで来たわけではないルカを、ジャファルはフェロモンで誘って、自分の欲望を満たすために利用してしまった。
 10年間、苦しさに耐えて来た。少しくらいはジャファルも満たされてもいいのではないか。
 自分勝手な本能と、ルカの意志を尊重したい理性の間で、ジャファルは揺れていた。
 机の端にブローチの入った箱を置いて、書き物をしながらジャファルは夜を待った。ただ苦しくて、厭わしくてならない発情期に、こんなに穏やかに待ち遠しく夜が来るのを望んでいるなんて、初めてのことだ。書類に身が入らなくても仕方がないことだろう。
 控えめなノックと共に、ルカは約束通り現れた。
 昨夜のことで嫌がってはいないか。こんな屈強な男を抱くのは恐ろしくないのか。嫌悪感がないのか。
 探り探り膝の上に乗せて話をして口付ければ、ルカは意外なことを口にした。
「美しい……」
「え?」
「王様は、とても美しいです」
 厳ついとか、筋肉質だとか、逞しいとか、強そうだとか、そういう評価は大量に貰ったが、美しいと言われたことはない。美しいのはルカの方だ。言い返そうとしても照れてしまって言えずに、ブローチを返せば、ルカの頬がぽうっと赤くなった。喜色に輝く緑の瞳を見て、やはりこれは大事なものだったのだと悟る。
 返せて良かったと同時に、布の巻き方を言われて、ルカの巻く布の下が気になりだした。乾いた唇を舌で舐め潤すと、フェロモンが漏れ出したのだろう、ルカが蕩けた瞳でジャファルを見ている。
 抱き上げて寝台に連れて行けば、抵抗せずに自ら布を解いて素肌を晒してくれた。昨夜は初めてで余裕もなくじっくり見ることができなかったが、滑らかな染みのない白い肌と不似合いな立派な中心に鼓動が早くなる。
 ジャファルよりずっと小さな白い手が震えながら伸びてくる。抵抗するのかと身構えたら、ルカは蚊の鳴くような声で問いかけて来た。
「触れても、よろしいですか?」
 どこにとは言わなかったが、触れてもらえるならばどこでも感じてしまうくらいオメガの発情期は激しい。
「どこでも、ルカの好きなところに」
 白い小さな手に手を重ねると、ルカはジャファルの褐色の胸に触れて来た。褐色の中で淡く色付く頂に指で触れ、摘ままれると快感に声が漏れる。
「んぁぅ!」
「い、嫌でしたか?」
「そうではない……悦いのだ」
 そんな場所で感じるなど恥ずかしくもあったが、正直に言わなければルカは二度と触れてくれないだろう。羞恥に耐えながら答えれば、ルカの手が大胆になる。胸全体を揉まれて、手の平で乳首を捏ねられるのも、指で摘ままれて引っ張られるのも、電流が走ったかのように快感が襲ってきて、今まで経験したことのない感覚に腰が砕ける。
「いい匂い……王様、あまぁい匂いがします」
「ジャファル、だ」
「え?」
「二人きりのときは、ジャファルと呼んで欲しい」
 王の名前は神聖なもので、呼べる相手は限られている。王は王であり、個人としての名前は近親者くらいしか知らないものなのだ。それを呼ばせる意味を、ルカは知らない。知らないままでも、ジャファルはルカに自分の名を呼んで欲しかった。
「ジャファル様……あの、僕が、してもよろしいですか?」
 大胆になってきたルカに、ジャファルは期待する気持ちを抑えきれなかった。欲しくて堪らないアルファが、後宮に転がり込んできた。ジャファルの目を引く美しさで一目で虜にさせて、しかもジャファルを求めてくれる。
「ここに、ルカが欲しい」
 脚を抱えて恥ずかしげもなく後孔を晒せば、真っ赤な顔のルカが覆いかぶさって来る。口付けは、ジャファルが教えたもの。体を交わすことはなかったが、後宮の女性たちと試してみたときに、口付けだけは覚えた。女性たちとの口付けは気持ちのいいものとは感じられなかったのに、ルカの唇は甘く感じられる。
「ん、ふっ」
 昨夜もルカを受け入れて解れた後孔に、中心が宛がわれて、ゆっくりと押し入って来る。みっしりと中を埋める圧迫感に、ジャファルの頬を涙が伝った。
「くるしい、ですか?」
「いや……あっ、やめない、で」
 快楽で流す涙だと説明できないままに、ジャファルはルカの華奢な腰に脚を巻き付けて引き寄せ、奥まで導いていた。アルファ特有の逞しい立派なものが、全部納まると先端が最奥を擦って、悦すぎて涙と嬌声が止まらない。
「ひぁっ! そんな、しめないでぇ! でちゃうぅ!」
「だしてっ! わたしの、なかに……あぁっ!」
 最奥を熱い飛沫で濡らされる感覚にジャファルは恍惚とする。それでも足りずに達した余韻で倒れそうになっているルカの身体を寝台の上に倒し、腰に跨った。
 入ったままの中心を腰を振って擦り上げると、ルカの口から悲鳴が上がる。
「あぁっ! だめぇっ! まだ……あぁっ!」
「もっともっと、私を満たしておくれ」
 理性などとうに吹き飛んでいた。腰を振り立てるジャファルの下で、ルカは腰を跳ね上げながら立て続けに達していた。
 たっぷり交わった後にはルカを抱き上げて湯浴みをする。湯船に浸からせている間に、後孔に放たれた白濁を指で掻き出していると、ルカが意識を取り戻し、耳まで真っ赤になっていた。
「僕、そんなに……も、申し訳ありません」
「物凄く悦かった、ルカ、良い子だ」
 指を引き抜いて手を洗って柔らかな金髪を撫でると、ルカの瞳が潤む。見る見るうちに雫が盛り上がり、大粒の涙が零れた。
「好きです……」
 ぞわりとジャファルの全身が歓喜に包まれる。中で放たれて絶頂したときよりも、ずっと深く激しい歓喜。
「ジャファル様にとっては、大勢の中の一人かもしれないけれど、僕は、ジャファル様が……」
「ルカ、そなたは私の特別な相手だ」
「ジャファル様、どこにも行かないで……僕をどこにもやらないで」
 この関係が続けば、いずれジャファルは妊娠するだろうし、そのときにはジャファルがオメガでルカがアルファだと発覚してしまう。
 それでも、ジャファルはルカを手放す選択肢はなかった。
「愛している」
 その言葉にますますルカが泣いてしまっても、ジャファルは自分の気持ちを抑えることができない。初めてジャファルが受け入れ、ジャファルを求めてくれたルカ。愛しくないはずがない。
 自分がオメガだと発覚する日が来ようとも、ジャファルは決してルカから離れることはできなかった。
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