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第1部 天然女子高生のためのそーかつ
第10話 ベーシックインカム
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
「お疲れ様です、先輩。一緒に部室行きます?」
「ぐぬぬぬ……」
「また補習ですか?」
放課後に階段ですれ違った赤城旗子先輩に声をかけた私、野掘真奈は、見るからに悔しそうな先輩の表情を見て質問を投げた。
「私はもっとテニスの練習がしたいのに、先生たちはひどいよ! 文武両道の高校とか口だけだよ!!」
「いや、文がちゃんとしてないのに武を誇られても……」
はたこ先輩はそこまで偏差値の高くないマルクス高校でもかなり成績が悪い部類に入り、このまま行けば卒業はギリギリ何とかなるだろうという水準だった。
「大体、定期試験って全然フェアな勝負じゃないよ! 考えてもみてよ、同じ2年生でも私とゆきとなるみじゃ入試の成績がまるで違うのに、どうして定期試験は同じ条件で戦わなきゃいけないんだよ! アファーマティブアクションの精神はどこに行ったんだよ!?」
「うーん、何となく納得できるようなできないような……」
はたこ先輩は一度騒ぎ始めると面倒なので、私はこの場から逃げる準備をしながら返事をした。
「でも、入試の成績と定期試験の成績が相関するとは限らないんじゃないですか? ゆき先輩は入試では首席に近かったらしいですけど、今はお仕事が忙しくて成績良くないそうですし」
「確かにそれは言えてるよ。……そうだ、皆が幸せになれる試験制度改革を思い付いたよ! 補習の前に先生たちに直談判してくる! そーかつ!!」
はたこ先輩はそう言うと階段を下の階に向けて駆け下り始め、私は先輩が途中で事故らないことを祈りつついつも通り硬式テニス部の練習に向かった。
はたこ先輩の直談判は成功し、その翌月からマルクス高校では定期試験ですべての生徒にあらかじめ20点が加点されるベーシックインカム制度が導入された。
「やったよまなちゃん! 私、ベーシックインカムのおかげでテストで48点も取れた!!」
「良かったですね、先輩。これで久々に再試なしですね」
硬式テニス部の部室に飛び込んできたはたこ先輩は満面の笑みで私に現代文の定期試験の答案を見せてきて、この学校では40点未満が赤点なので先輩は合格できたことになる。
「まだ他のテストの結果は分からないけど、これで気兼ねなく練習できるよ! 今すぐ着替えるね!!」
「あら、赤城さん。ここにいたのね」
喜んでいる先輩の背後から部室に入ってきたのは、国語科教師にして硬式テニス部の顧問である金坂先生だった。
「先生、今日からまた練習頑張ります!」
「え、何言ってるの? ベーシックインカム制度の導入で赤点の基準も60点未満に改定されたんだけど……」
「ファッ!?」
「じゃ、赤城さん連れてくわね。野掘さんも文武両道で頑張るのよ」
金坂先生はにっこりと笑ってそう言うと、はたこ先輩を引きずって部室から連れ出した。
「うわあああああああ嫌だあああああああ!!」
「私だって毎回補習と再試に時間取られるのは嫌よ~」
駄々っ子のように地面に寝転がったまま連行されていくはたこ先輩を見て、私は自分も再試にかからないよう頑張ろうと思った。
(続く)
「お疲れ様です、先輩。一緒に部室行きます?」
「ぐぬぬぬ……」
「また補習ですか?」
放課後に階段ですれ違った赤城旗子先輩に声をかけた私、野掘真奈は、見るからに悔しそうな先輩の表情を見て質問を投げた。
「私はもっとテニスの練習がしたいのに、先生たちはひどいよ! 文武両道の高校とか口だけだよ!!」
「いや、文がちゃんとしてないのに武を誇られても……」
はたこ先輩はそこまで偏差値の高くないマルクス高校でもかなり成績が悪い部類に入り、このまま行けば卒業はギリギリ何とかなるだろうという水準だった。
「大体、定期試験って全然フェアな勝負じゃないよ! 考えてもみてよ、同じ2年生でも私とゆきとなるみじゃ入試の成績がまるで違うのに、どうして定期試験は同じ条件で戦わなきゃいけないんだよ! アファーマティブアクションの精神はどこに行ったんだよ!?」
「うーん、何となく納得できるようなできないような……」
はたこ先輩は一度騒ぎ始めると面倒なので、私はこの場から逃げる準備をしながら返事をした。
「でも、入試の成績と定期試験の成績が相関するとは限らないんじゃないですか? ゆき先輩は入試では首席に近かったらしいですけど、今はお仕事が忙しくて成績良くないそうですし」
「確かにそれは言えてるよ。……そうだ、皆が幸せになれる試験制度改革を思い付いたよ! 補習の前に先生たちに直談判してくる! そーかつ!!」
はたこ先輩はそう言うと階段を下の階に向けて駆け下り始め、私は先輩が途中で事故らないことを祈りつついつも通り硬式テニス部の練習に向かった。
はたこ先輩の直談判は成功し、その翌月からマルクス高校では定期試験ですべての生徒にあらかじめ20点が加点されるベーシックインカム制度が導入された。
「やったよまなちゃん! 私、ベーシックインカムのおかげでテストで48点も取れた!!」
「良かったですね、先輩。これで久々に再試なしですね」
硬式テニス部の部室に飛び込んできたはたこ先輩は満面の笑みで私に現代文の定期試験の答案を見せてきて、この学校では40点未満が赤点なので先輩は合格できたことになる。
「まだ他のテストの結果は分からないけど、これで気兼ねなく練習できるよ! 今すぐ着替えるね!!」
「あら、赤城さん。ここにいたのね」
喜んでいる先輩の背後から部室に入ってきたのは、国語科教師にして硬式テニス部の顧問である金坂先生だった。
「先生、今日からまた練習頑張ります!」
「え、何言ってるの? ベーシックインカム制度の導入で赤点の基準も60点未満に改定されたんだけど……」
「ファッ!?」
「じゃ、赤城さん連れてくわね。野掘さんも文武両道で頑張るのよ」
金坂先生はにっこりと笑ってそう言うと、はたこ先輩を引きずって部室から連れ出した。
「うわあああああああ嫌だあああああああ!!」
「私だって毎回補習と再試に時間取られるのは嫌よ~」
駄々っ子のように地面に寝転がったまま連行されていくはたこ先輩を見て、私は自分も再試にかからないよう頑張ろうと思った。
(続く)
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