12 / 181
第1部 天然女子高生のためのそーかつ
第11話 裁量労働制
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「梅畑君、そろそろ起きなよ」
「ん……ああ、野掘さんか。もう授業終わったの?」
おじいさん先生の長話で眠くなると評判の6限目の物理基礎の授業が終わり、私は後ろの席でいびきを立てて爆睡していた梅畑伝治君を起こした。
「また深夜までゲームしてたの?」
「ああ、ゲームは俺の唯一の生きがいだからな。かったるい勉強なんてやってらんねえよ」
「でも、ちゃんと勉強しないとご両親も心配するんじゃない? 高校生の本分は勉強だし」
「よくそう言われるけどさ、スポーツ推薦狙って部活三昧のアメフト部員とか全然勉強してねえじゃん。何でゲームだけ悪く言われるんだろうな?」
「うーん、確かにそれも正論のような……」
マルクス高校では伝統的にアメリカンフットボール部が強豪で、アメフト部のエースはスポーツ推薦で有名大学に進学できるため確かに勉強はほとんどしていなかった。
「そうだ、いいことを思いついたぞ。なあ野掘さん、この高校では文武両道のために部活動は週に20時間までと決められてるけど、これってスポーツ推薦狙ってる運動部員にとっては何の意味もないよな。部活がなくたってどうせ勉強なんてしねえし」
「ちょっと言いすぎかもだけど、確かにわざわざ制限する意味もないと思う」
「よっしゃ、じゃあ俺は今からあいつらを助けてくる。また成果を報告するぜ!!」
梅畑君は元気よくそう言うと教室を飛び出していき、私は別に報告しなくてもいいのにと思いながら彼を笑顔で見送った。
梅畑君は生徒指導担当の先生に部活動の制度改革を直訴し、彼の提案が受け入れられたことでマルクス高校では授業への出席と部活動への参加の比率を任意で調整できる裁量授業制度が導入された。
「梅畑君、アメフト部の友達が授業で寝てた時間を練習に回せるようになって助かったって言ってたよ。良いことしたね」
「まったくだ。そして俺はこの高校にコンピュータゲーム研究部を設立した。部員は現時点で何と12名」
「えっ?」
「5限目が終わったから俺は今から部活に行ってくる。それではまた明日!」
梅畑君の目論見は裁量授業制度を導入した上で部活という名目でゲーム三昧の高校生活を送ることだったらしく、私は彼を見直しそうになっていた自分に後悔した。
「放課後に部室で20時までゲームしてたら校長に怒られた……」
「そりゃそうでしょ」
翌日の朝、目にクマを浮かべた梅畑君は涙目で私にそう報告してきた。
「遊びたいからって変に小細工するんじゃなくて、ちゃんと授業受けて放課後に目一杯遊んだら?」
「……そうだな、遊びたいからってゲーム三昧は良くないよな。遊びたいからっていうのはな」
「どういうこと?」
「ゲームは遊びじゃねえ! 俺の人生なんだ!! ゲーム王に俺はなるっ!!」
梅畑君はそう言うと朝から教室を飛び出していき、私は彼がついに正気を失ったと思った。
その翌月……
『ウメハタがぁ!! 捕まえてぇ!! ウメハタがぁ!! 画面端ぃ! バースト読んで、まだ入るぅ!! ウメハタが決めたあああああああああ!!!』
電器店に並んでいるテレビモニターの向こう側には国際的なゲーム大会で活躍する梅畑君の姿があり、テンションが高すぎる実況者は格闘ゲームで海外のプロゲーマーと互角に渡り合う梅畑君の活躍を伝えていた。
「凄いですわね、この高校から世界的プロゲーマーが生まれるなんて。ゲーム研究部の設立を許可した校長の判断もマスコミで絶賛されているそうですわ」
「は、ははは……」
ショッピング中に見かけた梅畑君の勇姿を絶賛する堀江有紀先輩に、私はこれを結果オーライと呼んでいいのだろうかと思った。
(続く)
「梅畑君、そろそろ起きなよ」
「ん……ああ、野掘さんか。もう授業終わったの?」
おじいさん先生の長話で眠くなると評判の6限目の物理基礎の授業が終わり、私は後ろの席でいびきを立てて爆睡していた梅畑伝治君を起こした。
「また深夜までゲームしてたの?」
「ああ、ゲームは俺の唯一の生きがいだからな。かったるい勉強なんてやってらんねえよ」
「でも、ちゃんと勉強しないとご両親も心配するんじゃない? 高校生の本分は勉強だし」
「よくそう言われるけどさ、スポーツ推薦狙って部活三昧のアメフト部員とか全然勉強してねえじゃん。何でゲームだけ悪く言われるんだろうな?」
「うーん、確かにそれも正論のような……」
マルクス高校では伝統的にアメリカンフットボール部が強豪で、アメフト部のエースはスポーツ推薦で有名大学に進学できるため確かに勉強はほとんどしていなかった。
「そうだ、いいことを思いついたぞ。なあ野掘さん、この高校では文武両道のために部活動は週に20時間までと決められてるけど、これってスポーツ推薦狙ってる運動部員にとっては何の意味もないよな。部活がなくたってどうせ勉強なんてしねえし」
「ちょっと言いすぎかもだけど、確かにわざわざ制限する意味もないと思う」
「よっしゃ、じゃあ俺は今からあいつらを助けてくる。また成果を報告するぜ!!」
梅畑君は元気よくそう言うと教室を飛び出していき、私は別に報告しなくてもいいのにと思いながら彼を笑顔で見送った。
梅畑君は生徒指導担当の先生に部活動の制度改革を直訴し、彼の提案が受け入れられたことでマルクス高校では授業への出席と部活動への参加の比率を任意で調整できる裁量授業制度が導入された。
「梅畑君、アメフト部の友達が授業で寝てた時間を練習に回せるようになって助かったって言ってたよ。良いことしたね」
「まったくだ。そして俺はこの高校にコンピュータゲーム研究部を設立した。部員は現時点で何と12名」
「えっ?」
「5限目が終わったから俺は今から部活に行ってくる。それではまた明日!」
梅畑君の目論見は裁量授業制度を導入した上で部活という名目でゲーム三昧の高校生活を送ることだったらしく、私は彼を見直しそうになっていた自分に後悔した。
「放課後に部室で20時までゲームしてたら校長に怒られた……」
「そりゃそうでしょ」
翌日の朝、目にクマを浮かべた梅畑君は涙目で私にそう報告してきた。
「遊びたいからって変に小細工するんじゃなくて、ちゃんと授業受けて放課後に目一杯遊んだら?」
「……そうだな、遊びたいからってゲーム三昧は良くないよな。遊びたいからっていうのはな」
「どういうこと?」
「ゲームは遊びじゃねえ! 俺の人生なんだ!! ゲーム王に俺はなるっ!!」
梅畑君はそう言うと朝から教室を飛び出していき、私は彼がついに正気を失ったと思った。
その翌月……
『ウメハタがぁ!! 捕まえてぇ!! ウメハタがぁ!! 画面端ぃ! バースト読んで、まだ入るぅ!! ウメハタが決めたあああああああああ!!!』
電器店に並んでいるテレビモニターの向こう側には国際的なゲーム大会で活躍する梅畑君の姿があり、テンションが高すぎる実況者は格闘ゲームで海外のプロゲーマーと互角に渡り合う梅畑君の活躍を伝えていた。
「凄いですわね、この高校から世界的プロゲーマーが生まれるなんて。ゲーム研究部の設立を許可した校長の判断もマスコミで絶賛されているそうですわ」
「は、ははは……」
ショッピング中に見かけた梅畑君の勇姿を絶賛する堀江有紀先輩に、私はこれを結果オーライと呼んでいいのだろうかと思った。
(続く)
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる