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第1部 天然女子高生のためのそーかつ

第13話 インフレーション

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。


「ゆき先輩、私に相談っていうのは?」

 ある日の放課後、私、野掘のぼり真奈まなは硬式テニス部所属の2年生である堀江ほりえ有紀ゆき先輩に呼ばれて誰もいない部室を訪れた。

「来てくれてありがとう。実はかくかくしかじかですの」
「ええー、それは大変ですね……」

 没落令嬢であるゆき先輩は以前から自分とデートする権利と引き換えのチケットを校内で売りさばいて儲けていたが、特定の男子生徒が大量に買い込みすぎて最近では同じ相手とばかりデートする羽目になっているとのことだった。

「流石に飽きたので踏み倒し、いえ、デートの約束をなかったことにしたいのですけど、マナは何かいい考えありませんこと?」
「私はすぐに思い付かないですけど、詳しそうな人がいるので聞いてみます。それでいいですか?」
「ありがとう。持つべきものは頼りになる後輩ですわね」


 その翌日の昼休み、私は2年生の教室に行ってある先輩を図書館まで連れ出した。

「……という訳で、金原先輩にアドバイスを頂きたいんです」
「相談してくれて嬉しいけど、どうして私に?」
「何か先輩って債務不履行デフォルトとかそういう系の話題に詳しそうだなと思って」
「あら、聞かなかったことにするわね」

 元生徒会長である金原かねはら真希まき先輩は物知りとして有名で、知識は信頼できそうな先輩に私は助言を求めることにしたのだった。


「チケットは結構な値段で売った訳だし、普通にお金を返せばいいんじゃない?」
「うーん、ゆき先輩は却下しそうですし、相手の男子の気持ちを考えるとそれはちょっと」
「なるほどね。……でも、堀江さんはうらやましいな。好きな人といる時間ってあっという間に過ぎるけど、その男子は高いお金を払ってまで堀江さんと一緒に過ごしたいんでしょう?」
「ロマンチックですね。それでは、ゆき先輩には普通にデートしたらって言ってみます」

 金原先輩が言外に込めた意図を察し、私はゆき先輩に率直な意見を伝えることにした。


 ゆき先輩は私の意見を真面目に聞いてくれて、今週日曜日のデートで問題を解決するのでこっそり見に来て欲しいと私に話した。

 そしてデート当日……

拓雄たくおさん、次はあのコーヒーカップに乗りません? わたくし、一人では怖くって」
「いいよいいよ、ほっちゃんの身体が揺れるの見てみたいっ! ホアーッ!!」

 デイトレーダーを父親に持つ3年生の秋葉あきば拓雄たくお先輩は憧れのゆき先輩とのデートに興奮しており、全額自腹でゆき先輩と地元の遊園地を楽しんでいた。


「あら、そろそろ時間ですわね。60分チケットを6枚頂きますわ」
「ええっ、6枚? ほっちゃん、まだ1時間しか経ってないよぉ?」

 入場から1時間が経った所でゆき先輩は秋葉先輩にチケット6時間分を要求し、一体何を言うつもりなのだろうと私は近くのベンチから耳を傾けた。


「拓雄さん、わたくし、あなたと過ごしている時間が本当に楽しくて仕方ないんです。たった10分が1時間に感じるほどで、その気持ちをあなたと共有したくて……」
「そうなの!? ありがとうっ! ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」

 妖艶ようえんな笑みを浮かべて言ったゆき先輩に秋葉先輩は大喜びで6枚のチケットを差し出し、私は美人って残酷だなあと思った。


 (続く)
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