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第1部 天然女子高生のためのそーかつ

第14話 自己責任論

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)


「ミス野掘、君のクラスの国靖くにやすさんって彼氏いるのか?」
「いや、それはちょっと個人情報なので」
「頼む! これまで告白した女の子に彼氏がいなかった試しがないんだよ! この前は堂々と二股かけられたし!!」
「ああ……」

 廊下ですれ違った際、元生徒会長にして金髪天然パーマの治定度じじょうどりょく先輩に執拗しつような質問を受けた私は、しぶしぶ同じクラスの国靖くにやすまひるさんに彼氏がいないことを伝えた。


「それにしても治定度先輩、国靖さん狙うなんて頭大丈……いやセンスが良いですね」
「俺様に彼女がいないのは自己責任だって認めたくないんだよ。あの子ぐらいかわいければ俺様に釣り合うんじゃないかと思ってな」
「あはは、お似合いだと思いますよー」

 中身に問題がある人物同士ちょうどいいのではないかと思い、私は棒読みで返事しつつ治定度先輩の恋路を興味本位で応援することにした。


「狙うからにはちゃんと準備をしておきたいんだけど、国靖さんってどんな男がタイプなんだ?」
「そうですね、何よりも真面目な男の人が好きみたいですよ。チャラい感じの男性はあんまり好きじゃないみたいなんで、今の先輩では駄目だと思います。あと武道の心得がある男性にグッとくるみたいですね」
「よーし、じゃあ俺様の自助努力を見せてやる! 行くぞオオオオオオ!!」

 治定度先輩はそう言うと階段を下の階に向けて駆け下り始め、私は何か大切なことを伝え忘れているような気がした。


 それから治定度先輩は頭髪を黒髪に戻した上で丸坊主にし、空手道場に個人で通ってあっという間に高い身体能力を身に着けた。

 先輩は自助努力にかけては右に出るものがなかったらしく、国靖さんの理想の男性になれるよう全力を尽くした先輩ならば彼女も振り向いてくれるのではと私は期待していた。


 ある日の放課後、治定度先輩はついに国靖さんをラブレターで校舎裏に呼び出した。

「お疲れ様です。先輩、私にお話って?」
「国靖さん、俺は君のような素晴らしい女性と恋仲になりたい! 君に見合う男になれるよう、俺は自分を磨いてきた。その証拠に……たあっ!!」
「先輩……かっこいいです」

 治定度先輩はあらかじめ用意しておいたらしい数十枚のかわらを国靖さんの目の前で叩き割り、その勇姿に彼女は惚れ惚れとしていた。


「ありがとう。俺と君がこの高校で出会えたのは、運命だったのかも知れないな」

 にこやかに笑ってそう言った治定度先輩に、国靖さんはわなわなと身体を震わせると、

「自分の努力を運命論で片づけようとする男性となんてお付き合いできません! そんなに配慮に欠けた人とは思いませんでした。資本論で顔を洗って出直してください!!」

 治定度先輩に怒りをぶつけて、そのまま走り去っていった。


「……ミス野掘、これも俺の自己責任か」
「他己責任でいいと思います」

 地面にくずおれた治定度先輩を眺めつつ、私は自分に責任がないといいなあと思った。


 (続く)
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