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第1部 天然女子高生のためのそーかつ

第17話 非正規雇用

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)


「皆おはよう! 僕はこの高校に教育実習生として赴任した赤城あかぎ点太郎てんたろう。今日から君たちに2週間化学基礎を教えるから、分からないことがあればぜひ聞いてくれ!」
「よろしくです、赤点先生!」

 初っ端からひどいあだ名を付けられた教育実習生は珍しい名字で、私はその名字に聞き覚えがあった。


「ああ、その人は私のお兄ちゃんだよ。6歳上で、今は共産きょうさん大学の教育学部に通ってるよ」
「やっぱりはたこ先輩のご親戚だったんですね。真面目そうな大学生じゃないですか」

 赤点先生は硬式テニス部所属の2年生である赤城あかぎ旗子はたこ先輩の兄だったらしく、左派系の有名大学にしてマルクス高校の系列校でもある共産大学の教育学部生とのことだった。

「お兄ちゃん真面目だけど昔からポンコツで、高校の成績が悪すぎて共産大学には内部進学できなかったんだよ。うちの理事長に頼み込んで、非正規学生として入学させて貰ったみたい」
「ひ、非正規……?」

 はたこ先輩の口にした言葉はこの時点では意味不明だったのだが……


「水素原子の原子かくは陽子1個だけで構成されていて、中性子を持たないのが特徴だよ。電子かくはこうなっているから、水素分子になると……」
「先生、原子『核』と電子『殻』がなぜ平仮名なのですか」
「実は漢字をよく間違えるので……」
「は?」

「1種類の元素からなる物質を単体、2種類以上の元素からなる物質を化合物といいます。皆さんは化合物の恋をしちゃいけませんよ」
「先生、上手くないです」

「化学物質の量は一般にモルという単位で表されます。モルが結局何なのかはよく分からないのですが」
「いや分からねえのかよ!」


「お兄ちゃん今年は契約更新されなかったから、来年からは自宅警備員の仕事に就くんだって!」
「は、ははは……」

 兄の失業を明るく伝えてくるはたこ先輩に、私は苦笑いしてごまかすしかなかった。


 (続く)
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