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第1部 天然女子高生のためのそーかつ

第18話 労働災害

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


「グッモーニンエヴリワン。今日からワタシと一緒に楽しくイングリッシュを学んでいきマショウ」

 今月からマルクス高校に着任されたガラー・スノハート先生はAET(英語指導助手)を務める英語圏ネイティブで、金髪碧眼と長身が特徴的な白人女性だった。
 外国人だが美人なので男子生徒からの評判は良く、発音やリスニングの指導も丁寧なので私はこの先生は人気になりそうだと思った。


「こら、津田。似合わない金髪はやめろと言っただろう」
「ごめんなさい先生、俺もモテる男になりたくて」

 ある日の授業中、英語の竹岡先生は一度指導されたのにまた髪を金色に染めてきた津田君を叱っていた。

「チョト待ってクダさい。今のジダイに金髪という理由ダケで生徒を叱るのはよくありマセン。その叱り方は人種差別につながりかねマセンし、生徒のハートを見て話をするべきデショウ」
「確かに、スノハート先生のご意見にも一理あります。津田、黒髪に染め直せとは言わないが、金髪にする意味があるのかは自分でよく考えるように」
「分かりました。スノハート先生もありがとうございます」

 スノハート先生はAETという立場から生徒に寄り添った教育を行い、厳しい校則を表立って批判するため生徒からの人気はますます向上していた。

 そこまでは良かったのだが……


「OH! 何というコトデショウ、私は傷つきマシタ」
「スノハート先生、どうしたんですか?」
「今日の食堂の定食メニューはトンカツ! これはワタシを白豚と侮辱してイルのデスカ!?」
「は?」

「スノハート先生、宿直室に土足で上がるのはやめて頂きたいのですが」
「ホワッツ!? この高校はノーマライゼーションを考慮していないのデスね!?」

「日本史の清水先生が結婚されますので、スノハート先生にもご列席をお願いしたいのですが」
「ジーザス! 29歳独身のワタシに結婚式に出ろ言いマスか!? これはハラスメントで労災デス! トラウマを受けマシタ!!」
「ええ……」


「マナちゃん、スノハート先生の奇行を号外にまとめて配ったら大人気だよ!」
「これは間違いなく労災だね……」

 スノハート先生は新聞部の朝日あさひ千春ちはるさんが書いた記事を見てからショックで出勤できなくなったらしく、私はこういう時のマスメディアの威力は凄いと思った。


 (続く)
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