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第2部 天然女子高生のための再そーかつ

第36話 主体的・対話的で深い学び

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


 ある日の放課後、私は硬式テニス部の顧問でもある国語科の金坂かなさかえいと先生に職員室まで呼び出されていた。

「今日は忙しい中ごめんなさい。野掘さんにちょっとアドバイスして欲しいことがあって来て貰ったの」
「金坂先生の頼みですし、全然いいですよ。どういったご用件なんですか?」
「実は校長先生から、来年度の入試問題について形式を工夫して欲しいって言われて……」

 金坂先生が話した所によると、マルクス中高では能動的学習アクティブラーニングを重視する近年の教育改革の流れに乗り、中学入試の問題を「主体的・対話的で深い学び」を重視する内容に変更することになったらしい。


「私はこれまでも読解力や思考力を問う内容の入試問題を作ってきたつもりなんだけど、校長先生は今のままじゃまだ足りないって言うの。新しく作ってる入試問題はルール上見せられないけど、最近の過去問を見て何かアドバイスしてくれない?」
「分かりました。……うーん、でも先生はとても良質な出題をされてると思いますよ。ちゃんとうちの中学の受験生が解けるレベルになってますし」

 金坂先生は国語教師としてとても有能かつ真面目な人なので、そのことは直近の過去問の内容にも表れていた。

「そう言ってくれて嬉しいわ。実はもう1人助っ人を呼んでるから、その子の意見も聞いてみるわね。……あ、来た来た」
「遅れて申し訳ありません、美化委員の仕事が長引いてしまって。野掘さんも来てたのね」
「金原先輩じゃないですか。確かに、優等生の先輩の意見はすごく参考になりそうですね」

 速足で職員室に入ってきたのは元生徒会長の金原かねはら真希まき先輩で、彼女は色々とポンコツだが勉強はよくできるのでこの場には最適な人材だと思った。


「そうですね、金坂先生の作る問題は国語の入試問題としては王道かつ良質だと思いますけど、形式を根本こんぽんから変えてみてはいかがでしょう? ある大学の生物の入試問題を参考にして……」
「あら、これは面白そうね。この形式なら読解力や思考力を別の観点から問えるから、校長先生も納得してくれそう。野掘さん、金原さん、今日はありがとう」

 金原先輩は持っていたメモ帳にアイディアを書き込むとページを破って金坂先生に渡し、先生はそのアイディアを採用したらしかった。


 そして出来上がった試験問題は……



 次の小説文を読み、その内容を考察した論説文の空欄をそれぞれ6文字以内で埋めなさい。

 小説文

 親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。とはやしたからである。小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかとったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。
 (夏目漱石『坊ちゃん』より)

 論説文

 この小説の( 1 )は( 2 )な( 3 )のため( 4 )な( 5 )を送ってきたことが読み取れ、( 6 )から( 7 )したことを( 8 )から( 9 )されても( 10 )することはなかった。( 11 )にも関わらず( 6 )から( 7 )しても( 12 )で済んでいることから( 1 )の( 13 )は( 14 )であることも分かり、( 15 )を考慮すると( 1 )は( 16 )な( 17 )で育ってきたと推察される。なお、( 15 )は( 18 )や( 19 )といった表現から読み取ることができ、この小説の( 20 )が分からずとも( 21 )の( 22 )には支障がない。



「ちょっと簡単すぎたかと思ったけど、意外と点数低かったのよねえ。今度は文学史の問題であの形式を試してみようかしら」
「知識問題でやるのはやめといた方がいいと思います……」

 中学入試の終了後に感想を述べていた金坂先生に、私は知識問題でこの形式をやられたらたまったものじゃないなと思った。


 (続く)
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