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第2部 天然女子高生のための再そーかつ
第38話 反出生主義
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「あれっ、どうしたんですか先輩。そんな今にも死にそうな顔して」
「ああ……ミス野掘か、久しぶりだな……」
ある日の早朝。硬式テニス部の朝練を終えて教室に向かっていた私は、元生徒会長にして金髪天然パーマの治定度力先輩が生気を失った表情で廊下を歩いているのを目にした。
「前に合コンで知り合った女の子と何回かデートしたんだけど……俺の全てが生理的に受け付けないって言われて……連絡先も全部ブロックされて……」
「それはお気の毒です……」
治定度先輩は以前からナルシシストの気があるため女好きなのに全くモテなかったが、何回かデートしたのにそこまでひどく拒絶されたのは確かにかわいそうだと思った。
「ただ、自分に悪意がある訳でもない人にそこまで言っちゃう女の子なんて、付き合っても仕方ないですよ。また別の相手を探せばどうですか?」
「それはもっともだけど、こんなに何回も振られるのは俺自身に問題があるからだと思うんだ。ああ、こんな辛い思いをするなら生まれてくるんじゃなかった……」
先輩は本気で落ち込んでしまっているらしく、このままでは自分自身の性格を反省するより先に精神を病んでしまうのではないかと私は心配した。
「そんな、そこまで落ち込まれなくても。元気を出して、もっと建設的な行動を考えましょうよ」
「確かにそうだな。……そうか、この世は誰でも大なり小なり辛いことだらけなんだから、生まれてこないのが一番の解決策じゃないか! 俺は今日から反出生主義で生きる!! 行くぞオオオオオオ!!」
治定度先輩はそう叫ぶと廊下を2年生の教室とは逆方向にダッシュしていき、私はこの人は相変わらずだと感じた。
その翌日……
「裏羽田先輩! あのっ、実はこれを受け取って欲しくて……」
「これを僕に? 綺麗なハンカチだけど、貰っていいのかい?」
「家庭科部で作ったものなんですけど、初めて綺麗に作れたので先輩に受け取って欲しくて。良かったら練習中に使ってください」
「へえー、雑貨屋さんの商品みたいに丁寧な作りだね。ありがとう、受け取っておくよ」
昼休みに中庭で後輩女子から手作りのハンカチを受け取っていたのは2年生で応援団長の裏羽田由自先輩で、必死でプレゼントを差し出した女の子に対してスマートな対応をしていた。
その時。
「待てっ! 先ほどのお前らの行為は反出生主義の観点から許されない!」
「そうだそうだ、不純異性交遊は許さないぞ!!」
私の背後から現れたのは治定度先輩が率いる集団で、黒シャツを着た先輩の後方には女の子にモテなさそうな男子生徒たちが黒シャツを着て立ち並んでいた。
「どうしたんだ治定度君、そんな格好をして。僕たちは不純異性交遊なんてしていないし、そもそも初対面だぞ」
「何を言う、先ほどの行為は異性間不必要物品授受に相当し、将来的な出生につながる問題行為だ! まだ未成年だというのにそのような破廉恥な行為をしていいと思っているのか!!」
「は、ハレンチだなんて、私は……」
困惑する裏羽田先輩を怒鳴りつけた治定度先輩に、私も見覚えのある1年生の女子は顔を真っ赤にしていた。
「今すぐそのハンカチを返却し、反出生主義に従いたまえ! そうでなければ爆発しろ!!」
「そんなバカな話があるものか! 日本国民には公共の福祉の範囲内で自由が認められているから、未成年である僕がこの子と(自粛)をしようと(規制)をしようと批判されるいわれはない!! 公権力でもないのに個人の自由を侵害するな!!」
自由主義の求道者である裏羽田先輩はピー音がしそうな用語を連発しつつ治定度先輩と言い争いを始め、後輩女子はドン引きした表情をしてさっさとその場から逃げ出していた。
「お前みたいな奴がいるから俺たちは反出生主義にならざるを得ないんだ! 爆発しろこの野郎!!」
「自由や権利には義務が伴うんだ! 君たちが(自粛)や(規制)をできないのは男としての義務を果たしていないからだ!! さっさと(削除)をして(伏字)でもしてぐふっ」
「いい加減にしなさい! 公共の場で醜い争いしてんじゃないわよ!!」
喧嘩を続ける裏羽田先輩に猛ダッシュで駆け寄ってきたのは彼の従妹でもある2年生の金原真希先輩で、金原先輩は裏羽田先輩の腹部に強烈な肘打ちを加えて黙らせた。
金原先輩はそのまま従兄の右腕を取ると背負い投げで地面に叩きつけ、裏羽田先輩は仰向けの姿勢で昏倒した。
「かっ、金原! いくら何でもそこまでしなくても」
「治定度君、あなたにも生まれてきたことを後悔させてあげるわね」
「ひいっ、すいませんでしたああああああああ!!」
金原先輩が振り返って冷徹な視線を向けると治定度先輩は仲間たちと共に逃げ出していき、この場は丸く収まった。
「ところで野掘さん、由自と治定度君ってどうして喧嘩してたの?」
「ものすごくどうでもいい理由なので知らなくていいと思います」
気絶した従兄を落ちていた木の枝でつつきながら質問した金原先輩に、私はこの人たちは何だかんだで面白いなあと思った。
(続く)
「あれっ、どうしたんですか先輩。そんな今にも死にそうな顔して」
「ああ……ミス野掘か、久しぶりだな……」
ある日の早朝。硬式テニス部の朝練を終えて教室に向かっていた私は、元生徒会長にして金髪天然パーマの治定度力先輩が生気を失った表情で廊下を歩いているのを目にした。
「前に合コンで知り合った女の子と何回かデートしたんだけど……俺の全てが生理的に受け付けないって言われて……連絡先も全部ブロックされて……」
「それはお気の毒です……」
治定度先輩は以前からナルシシストの気があるため女好きなのに全くモテなかったが、何回かデートしたのにそこまでひどく拒絶されたのは確かにかわいそうだと思った。
「ただ、自分に悪意がある訳でもない人にそこまで言っちゃう女の子なんて、付き合っても仕方ないですよ。また別の相手を探せばどうですか?」
「それはもっともだけど、こんなに何回も振られるのは俺自身に問題があるからだと思うんだ。ああ、こんな辛い思いをするなら生まれてくるんじゃなかった……」
先輩は本気で落ち込んでしまっているらしく、このままでは自分自身の性格を反省するより先に精神を病んでしまうのではないかと私は心配した。
「そんな、そこまで落ち込まれなくても。元気を出して、もっと建設的な行動を考えましょうよ」
「確かにそうだな。……そうか、この世は誰でも大なり小なり辛いことだらけなんだから、生まれてこないのが一番の解決策じゃないか! 俺は今日から反出生主義で生きる!! 行くぞオオオオオオ!!」
治定度先輩はそう叫ぶと廊下を2年生の教室とは逆方向にダッシュしていき、私はこの人は相変わらずだと感じた。
その翌日……
「裏羽田先輩! あのっ、実はこれを受け取って欲しくて……」
「これを僕に? 綺麗なハンカチだけど、貰っていいのかい?」
「家庭科部で作ったものなんですけど、初めて綺麗に作れたので先輩に受け取って欲しくて。良かったら練習中に使ってください」
「へえー、雑貨屋さんの商品みたいに丁寧な作りだね。ありがとう、受け取っておくよ」
昼休みに中庭で後輩女子から手作りのハンカチを受け取っていたのは2年生で応援団長の裏羽田由自先輩で、必死でプレゼントを差し出した女の子に対してスマートな対応をしていた。
その時。
「待てっ! 先ほどのお前らの行為は反出生主義の観点から許されない!」
「そうだそうだ、不純異性交遊は許さないぞ!!」
私の背後から現れたのは治定度先輩が率いる集団で、黒シャツを着た先輩の後方には女の子にモテなさそうな男子生徒たちが黒シャツを着て立ち並んでいた。
「どうしたんだ治定度君、そんな格好をして。僕たちは不純異性交遊なんてしていないし、そもそも初対面だぞ」
「何を言う、先ほどの行為は異性間不必要物品授受に相当し、将来的な出生につながる問題行為だ! まだ未成年だというのにそのような破廉恥な行為をしていいと思っているのか!!」
「は、ハレンチだなんて、私は……」
困惑する裏羽田先輩を怒鳴りつけた治定度先輩に、私も見覚えのある1年生の女子は顔を真っ赤にしていた。
「今すぐそのハンカチを返却し、反出生主義に従いたまえ! そうでなければ爆発しろ!!」
「そんなバカな話があるものか! 日本国民には公共の福祉の範囲内で自由が認められているから、未成年である僕がこの子と(自粛)をしようと(規制)をしようと批判されるいわれはない!! 公権力でもないのに個人の自由を侵害するな!!」
自由主義の求道者である裏羽田先輩はピー音がしそうな用語を連発しつつ治定度先輩と言い争いを始め、後輩女子はドン引きした表情をしてさっさとその場から逃げ出していた。
「お前みたいな奴がいるから俺たちは反出生主義にならざるを得ないんだ! 爆発しろこの野郎!!」
「自由や権利には義務が伴うんだ! 君たちが(自粛)や(規制)をできないのは男としての義務を果たしていないからだ!! さっさと(削除)をして(伏字)でもしてぐふっ」
「いい加減にしなさい! 公共の場で醜い争いしてんじゃないわよ!!」
喧嘩を続ける裏羽田先輩に猛ダッシュで駆け寄ってきたのは彼の従妹でもある2年生の金原真希先輩で、金原先輩は裏羽田先輩の腹部に強烈な肘打ちを加えて黙らせた。
金原先輩はそのまま従兄の右腕を取ると背負い投げで地面に叩きつけ、裏羽田先輩は仰向けの姿勢で昏倒した。
「かっ、金原! いくら何でもそこまでしなくても」
「治定度君、あなたにも生まれてきたことを後悔させてあげるわね」
「ひいっ、すいませんでしたああああああああ!!」
金原先輩が振り返って冷徹な視線を向けると治定度先輩は仲間たちと共に逃げ出していき、この場は丸く収まった。
「ところで野掘さん、由自と治定度君ってどうして喧嘩してたの?」
「ものすごくどうでもいい理由なので知らなくていいと思います」
気絶した従兄を落ちていた木の枝でつつきながら質問した金原先輩に、私はこの人たちは何だかんだで面白いなあと思った。
(続く)
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