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第2部 天然女子高生のための再そーかつ

第55話 メディアスクラム

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。


「うう、ネタがない……新聞部はもう終わりだあー……」
「朝日さん、そんなに落ち込んでどうしたの?」

 ある朝登校した私、野掘のぼり真奈まなは、同じクラスで新聞部員の朝日あさひ千春ちはるさんが机に突っ伏して嘆いているのを見かけた。

「ここしばらく校内新聞の記事の題材が全然思い浮かばなくて。このままじゃ2年生の修学旅行に付いていってサンゴに『K・Y』とか刻むしかなくなっちゃう……」
「そんな精神が貧しくて心がすさんだ人みたいなこと言わないで! まあ困ってるのは分かるけど」

 朝日さんは普段は次から次に記事の題材を見つけてくる人なので、アイディアが思い浮かばなくて戸惑う気持ちは私にも想像できた。


「最近はこれといった事件もないし、朝日さんが真面目な記事が得意なのも知ってるけど、たまにはお気楽な題材で書いてみたら? 人気の女子生徒にお洒落の秘訣を聞いてみるとか……」
「確かにそれいいね。よーし、じゃあ張り切っちゃうから。まずは素材を集めて……」

 朝日さんはそう言うとスマホを取り出して操作し始め、素材とは何のことだろうと私は疑問に思った。


 その翌日……

「という訳で新しい記事を書きました! 隠れファンの多い金原先輩、実は部室棟でメイド服を」
「それどう見ても合成でしょ!」

 朝日さんは書道部の活動で部室棟に入っていく金原かねはら真希まき先輩の隠し撮り写真にメイド服を合成して記事を捏造しようとしていたが、技術が不十分なのか合成写真は不自然極まりなかった。

「うーん、一撮いっさつだけなら誤写ごしゃで許されるかと思ったけど、確かにあんまりいいやり方じゃないかな。ここはもう金原先輩にメイド服を着て貰うようお願いするしか……」
「朝日さん、題材がいいか悪いかはともかくとしてあんまり取材対象に迷惑かけちゃ駄目だよ。メディアスクラムって言葉もあるし」

 やはり朝日さんはスランプ気味らしく、私は少なくとも他人に迷惑をかけないよう彼女を注意した。


「それはごもっとも。メディアスクラム……スクラム……そうだ、いい題材思いついた! 今すぐ部室行って書いてくるね!!」

 朝日さんは何かを思いつくとそのまま新聞部の部室に向けて走り去り、私は今度こそまともな記事を書いてくれればいいなと思った。


 そして翌週……


>マルクス高校新聞 号外
>「マルクス中高ラグビー部 夜のスクラム疑惑!?」

>強豪のアメフト部に押されていまいち存在感の薄い本校ラグビー部だが、夜のスクラムは絶好調のようだった。ラグビー部員の小室さん(仮名・中2)の証言によると、小室さんは合宿の日に2人の先輩である田中(仮名・中3)と二浦(仮名・高1)に大浴場へと誘われた。脱衣所で怖気おじけづく小室さんに、二浦はズボンを脱がせ、そのまま


「このマスゴミーー! 記事を撤回しろおおおおぉぉぉ!!」
「私たちには報道の自由があるんですー! きゃああーー!!」

 高校の廊下でラグビー部の皆さんに追い回されている朝日さんを見かけ、私は頑張って逃げてねと思った。


 (続く)
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