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第3部 天然女子高生のための超そーかつ

第84話 ネガティブオプション

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


「お疲れ様です。休日に野掘さんにお会いできて嬉しいです」
「こちらこそ。三島さんもこの近くに家があるの?」
「ええ、自宅からはマルクス高校の方が近いのです。今日は知人と待ち合わせをしていまして、といってもテニス部の先輩なのですが……」

 ある日曜日の昼、ショッピングの帰りに行きつけの喫茶店でプリンパフェを食べていた私は見覚えのある顔の美人に話しかけられた。

 彼女は私立ケインズ女子高校の1年生で硬式テニス部所属の三島みしま右子ゆうこさんで、私がよく知っている彼女の先輩というと2人しかいなかった。

 その1人である2年生の宇津田うつだ志乃しのさんもすぐに店に入ってきて、今日も何やらトラブルに巻き込まれそうな予感がした。

「待たせてごめんなさい。野掘さんもちょうど来てたの……?」
「私も先ほど来た所ですよ。野掘さんとは偶然居合わせただけですが、せっかくなので宇津田先輩と一緒に相談に乗って頂けませんか? 追加のデザート代は持ちますので」
「うん、全然いいよ。じゃあ後で何か注文させてね」

 店員さんに頼んで3人で4人掛けのテーブルに移ると、三島さんは私に一から事情を説明してくれた。


「……という訳で、その殿方とのがたに交際を申し込まれて困っているのです。私はまだ男性とお付き合いするつもりはありませんし、そもそも成人する前に男性と交流を持つのも避けたいのですが……」
「元はと言えば私が悪いの。ミト君に頼まれたから無理にお願いしちゃって、これじゃ先輩失格ね……」
「いやー、確かに面倒な状況ですね……」

 近場にある男子校である私立アダムスミス高校に通う宇津田さんの彼氏が男友達から合コンの人数合わせを頼まれ、女子高生を1人紹介して欲しいと宇津田さんに頼んだ結果として予定が空いていた三島さんが合コンに参加したところ相手側の男子高校生が三島さんに一目惚れしてしまったという経緯らしく、三島さんはやんわり断ったものの今でも数日に1回はスマホにメッセージが届くらしい。

 三島さんはあまり男性に興味がなさそうだし、やんわり断っている女の子にしつこく交際を迫るような男子は怒らせると面倒そうだと思った。

「こっちが頼んでもないのにメッセージを送ってきて無視するとまた面倒になりそうって、何かネガティブオプションみたいですよね。警察とまでは言いませんけど、宇津田さんの彼氏さんから注意して貰うとかできないんでしょうか?」
「ミト君はその子と普段交流がないらしいのよね。……あら、ネガティブオプション? それなら三島さんの実家に頼れば何とかなるかも。実家で使われてる封筒ってあるかしら?」
「ええ、お父様に頼めば頂けると思います。それは確かにいい案ですね」

 三島さんはそう言うと宇津田さんと交際を断る決定的な方法を相談し始め、私の役目は終わったようなので追加のデザートを食べ終えると先に店を出た。


 その数日後、私立アダムスミス高校に通うとある男子生徒の自宅で……

「おっ、三島さんの名前で手紙が!? これラブレターじゃないの!? どれどれ……」

 三島さんに交際を迫っていた男子生徒は封筒の印字を見ずに中身を取り出し、

>うちの娘が大変お世話になっているようですね。
>本当にうちの娘と交際したいというのなら、まず一度私に顔を見せてくれませんか。
>君の自宅から一番近い事務所に招待するので、指定した日時に来なさい。
>この手紙に返事がない場合は組員が迎えに参るから、覚悟しておくように。

>民族政治結社 大日本尊皇会会長 三島行成


「野掘さん、あれから例の男子からは1回もメッセージが来なくなりました。この度は本当にありがとうございました」
「は、ははは……」

 登校中に会った際に続報を伝えてくれた三島さんに、私は具体的にどういうネガティブオプションだったのかは聞かないでおこうと思った。


 (続く)
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