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第4部 天然女子高生のための大そーかつ
第97話 ロジカルハラスメント
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
ある日の放課後。硬式テニス部の練習がない日なので直帰しようとしていた私、野掘真奈は書道部所属の2年生である金原真希先輩が小型犬を連れて廊下を歩いている姿を見かけた。
「お疲れ様です先輩。よく見たらおもちゃの犬みたいですけど、家から持ち込まれたんですか?」
「あら野掘さん。この前深夜の通販番組で偶然見かけて、面白そうだから買ってみたの。税抜で9800円もしたのよ」
「9800円? 中々お高いですね。というと何か便利な機能があるんですか?」
「ええ、もちろん。この愛くるしい愛犬ロボ『ひろ』は、リモコンのこのボタンを押すと……あ、ごめんなさい。何か質問してみてくれる?」
「分かりました。えーと、ひろ君は何歳なのかな?」
『薄学で申し訳ないんですけど、機械に年齢っていう概念あるんですか?』
「うわっ喋った!!」
金原先輩が連れていたおもちゃの犬には飼い主がボタンを押している時に話しかけられると返事をする機能があるらしく、返事の内容も複雑だったので私は素直に驚いた。
「これは面白いですね、AIが搭載されてて9800円は確かにお値打ちです」
『えっ、そんなこと言っちゃっていいんですか? 9800円がお値打ちかどうかなんて高校生の身分で分かるんすかね』
「しばいていいですか?」
「これからこの愛犬ロボを使う用事があるから、今は勘弁してあげて。……あら、来たわね」
「真希、ここにいたのか。今学期から応援団の予算が減らされてたから生徒会に問い合わせてみたら書道部からのクレームが理由だったらしいんだけど、一体どういうことなんだ?」
金原先輩を探して廊下の向こうから歩いてきたのは彼女の従兄である裏羽田由自先輩で、部活の予算を巡って何やらトラブルが起きているようだった。
「どういうことも何も、部活の予算を削減する流れなんだから自前で何も生み出さない部活の予算は少なくて結構でしょう? その分だけ創造的な活動をしている運動部や文化部に予算を回すべきよ」
「そんな発言は言語道断だ! 公式戦での僕たちの応援を楽しみに練習している運動部員は沢山いるんだぞ!!」
『何かそういうデータあるんですか? 応援を楽しみにしてるってどうして他人の思考が読めるんすかね?』
「うわっ犬が喋った!! データも何も、僕たち応援団員はこれまで彼らの喜ぶ顔を見てきている訳で……」
『それってあなたの感想ですよね? 応援団の活動って自己満足のためにやってるんすか?』
「しばいていいか?」
「あら、言い返せないようね。これからあんたが何を言ってきても、この愛犬論破ロボ『ひろ』に敵うはずはないわ! 悔しかったらもっと論破力を身に付けることね!!」
「こ、こんなロジカルハラスメントロボに負けるなんて。帰ってYoutubeでも見て論破の勉強だ!!」
裏羽田先輩は潔く負けを認めると走り去り、好感が持てるかはともかくこの愛犬ロボのAIは高度だと思った。
その翌週……
「ちょっとあんた、用もないのに学校まで付いてこないでよ! 言うこと聞かないなら電池抜くわよ?」
『その発言パワハラですよね? 大体僕充電式なんで簡単に電池外せないですよ』
「ムキー!! こんな犬今すぐ保健所送りにしてやるわ! クーリングオフで返品よ!!」
『いやもう返品期限過ぎてるんで。もうちょっと考えてから物を言われた方がいいですよ』
登校中の路上で愛犬論破ロボと言い争っている金原先輩を見て、私はこのAIはもうちょっとまともな用途に使えないのだろうかと思った。
(続く)
ある日の放課後。硬式テニス部の練習がない日なので直帰しようとしていた私、野掘真奈は書道部所属の2年生である金原真希先輩が小型犬を連れて廊下を歩いている姿を見かけた。
「お疲れ様です先輩。よく見たらおもちゃの犬みたいですけど、家から持ち込まれたんですか?」
「あら野掘さん。この前深夜の通販番組で偶然見かけて、面白そうだから買ってみたの。税抜で9800円もしたのよ」
「9800円? 中々お高いですね。というと何か便利な機能があるんですか?」
「ええ、もちろん。この愛くるしい愛犬ロボ『ひろ』は、リモコンのこのボタンを押すと……あ、ごめんなさい。何か質問してみてくれる?」
「分かりました。えーと、ひろ君は何歳なのかな?」
『薄学で申し訳ないんですけど、機械に年齢っていう概念あるんですか?』
「うわっ喋った!!」
金原先輩が連れていたおもちゃの犬には飼い主がボタンを押している時に話しかけられると返事をする機能があるらしく、返事の内容も複雑だったので私は素直に驚いた。
「これは面白いですね、AIが搭載されてて9800円は確かにお値打ちです」
『えっ、そんなこと言っちゃっていいんですか? 9800円がお値打ちかどうかなんて高校生の身分で分かるんすかね』
「しばいていいですか?」
「これからこの愛犬ロボを使う用事があるから、今は勘弁してあげて。……あら、来たわね」
「真希、ここにいたのか。今学期から応援団の予算が減らされてたから生徒会に問い合わせてみたら書道部からのクレームが理由だったらしいんだけど、一体どういうことなんだ?」
金原先輩を探して廊下の向こうから歩いてきたのは彼女の従兄である裏羽田由自先輩で、部活の予算を巡って何やらトラブルが起きているようだった。
「どういうことも何も、部活の予算を削減する流れなんだから自前で何も生み出さない部活の予算は少なくて結構でしょう? その分だけ創造的な活動をしている運動部や文化部に予算を回すべきよ」
「そんな発言は言語道断だ! 公式戦での僕たちの応援を楽しみに練習している運動部員は沢山いるんだぞ!!」
『何かそういうデータあるんですか? 応援を楽しみにしてるってどうして他人の思考が読めるんすかね?』
「うわっ犬が喋った!! データも何も、僕たち応援団員はこれまで彼らの喜ぶ顔を見てきている訳で……」
『それってあなたの感想ですよね? 応援団の活動って自己満足のためにやってるんすか?』
「しばいていいか?」
「あら、言い返せないようね。これからあんたが何を言ってきても、この愛犬論破ロボ『ひろ』に敵うはずはないわ! 悔しかったらもっと論破力を身に付けることね!!」
「こ、こんなロジカルハラスメントロボに負けるなんて。帰ってYoutubeでも見て論破の勉強だ!!」
裏羽田先輩は潔く負けを認めると走り去り、好感が持てるかはともかくこの愛犬ロボのAIは高度だと思った。
その翌週……
「ちょっとあんた、用もないのに学校まで付いてこないでよ! 言うこと聞かないなら電池抜くわよ?」
『その発言パワハラですよね? 大体僕充電式なんで簡単に電池外せないですよ』
「ムキー!! こんな犬今すぐ保健所送りにしてやるわ! クーリングオフで返品よ!!」
『いやもう返品期限過ぎてるんで。もうちょっと考えてから物を言われた方がいいですよ』
登校中の路上で愛犬論破ロボと言い争っている金原先輩を見て、私はこのAIはもうちょっとまともな用途に使えないのだろうかと思った。
(続く)
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