天然女子高生のためのそーかつ

輪島ライ

文字の大きさ
143 / 181
第5部 天然女子高生のための真そーかつ

第126話 トレーサビリティ制度

しおりを挟む
 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)


「本当はガスコンロを使いたい所ですが……おっと、できました。今からそちらにお持ちしますので野掘さんはお茶とお箸の用意をお願いします」
「こっちもおにぎり作れたわよ。1人2つでよかったかしら?」
「お二人ともお疲れ様です。美味しそうな香りですね」

 ある日の放課後、私は家庭科室で同じクラスの国靖くにやすまひるさんがジンギスカンを作り、2年生で書道部員の金原かねはら真希まき先輩が塩むすびを作るのを見学していた。

 この高校では家庭科室をはじめとしてどの教室も申請すれば個人で利用できることになっていて、今日の私はとある事情からジンギスカンを作ることになった北海道出身の国靖さんに誘われてここまで来ていた。

 IHクッキングヒーターで調理されたジンギスカンと1人2つの塩むすびが3枚のお皿にそれぞれ盛り付けられ、私は3人分の割り箸と自販機で買ったペットボトルのお茶を座席に用意した。

「それでは金原先輩、どうぞ召し上がってみてください。食べやすいようラムの肉を取り寄せたのですよ」
「分かったわ。それじゃ勇気を出して……うぇぐうっ!!」

 金原先輩は国靖さんに促されてジンギスカンを恐る恐る口に運んだが、飲み込んだ瞬間むせかえって苦しみ始めた。

「無理、もう無理! 私羊のお肉ってどうしても無理なの!! いくら宇都木うつぎ君のためでもこれは無理!!」
「まあまあ、そう仰らずに。食わず嫌い……ではありませんけど羊肉も慣れれば美味しいのですよ?」
「私は普通に好きだけどなー。牛肉と豚肉のいいとこ取りって感じですごく美味しい」

 金原先輩がむせながら泣いているのは決して国靖さんの料理が下手だったからではなく、彼女は以前からジンギスカンなど羊肉を使った料理を受け付けない体質なのだった。

 先輩は同じ予備校に通っている他校の男子に恋をしており、その男子も北海道出身だと先日聞いたことから羊肉嫌いを克服しようと国靖さんにジンギスカンの調理を頼んだという経緯だった。

「こんなんじゃ宇都木君とお付き合いなんてとてもできないわ。でも実は今度ジンギスカン弁当を作ってあげるって約束しちゃったの……」
「流石にそれは早計でしたね……」

 金原先輩のお皿にあるジンギスカンは国靖さんと分けて食べることにしたが、元々料理が得意な訳でもない先輩が全く食べられないものを好きな男子に作ってあげられるかはかなり微妙だと思った。

「せめてこれが牛肉のジンギスカンだったら……そうよ、国靖さんって確かパソコンに詳しかったわよね? トレーサビリティ制度って知ってる?」
「牛肉のトレーサビリティ制度ですか? 名前は存じ上げていますが……」

 先輩は何かを思いつくと国靖さんにIT関連の依頼を持ちかけ始め、私は今回も事態がややこしくなりそうだと思いながら3人分のお皿を洗剤で洗った。


 その翌月。私は飼っているハムスターの餌を買いにデパートに行った帰り道、金原先輩が他校の男子と公園でデートしている姿を見かけた。

「宇都木君、今日は宇都木君が好きなジンギスカンのお弁当を作ってきたの。私ももちろんお揃いのお弁当よ」
「そうなの? 女友達がお弁当を作ってくれるなんて、ぼかぁ幸せだなぁ」

 朴訥ぼくとつな雰囲気の優しそうな男子は例の宇都木さんらしく、同じジンギスカン弁当ということは先輩も苦手を克服できたのかと思いつつ私はこっそり様子を見ていた。

「あれぇ? 美味しそうなジンギスカンだけど、これは牛肉じゃないのかい?」

 お弁当の蓋を開けてすぐにそう尋ねた宇都木さんに、金原先輩は不敵な笑みを浮かべるとバッグからA4コピー紙の文書を取り出した。

「宇都木君、それは紛れもなく羊のラム肉だから大丈夫よ! ほら見て、これは羊肉トレーサビリティ制度の証明書で、この文書にそのお肉の元となった羊の飼育開始から解体・出荷・流通まで全ての記録が残されているのよ! これで心配ないでしょう?」
「そうなんだなぁ、確かにこういう味の羊肉もあるかもしれないんだなぁ。僕ぁ幸せだなぁ~」

 深く考えずお弁当のジンギスカンを食べ続ける宇都木さんの横で美味しそうにジンギスカンを食べている金原先輩を見て、私は羊肉にトレーサビリティ制度ってあったっけと思った。


 (続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...