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第5部 天然女子高生のための真そーかつ
第127話 ノマドワーカー
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
「へー、カイちゃんってもうそんなに難しい参考書で勉強してるんだ。見たことない単語ばっかり」
「迅速英単語上級編が難しい参考書かどうかはともかく、英語圏に3か月も留学していればね。勉強の相談にはいつでも乗るよ?」
「その参考書ってゼータ会のやつ? 朝日さん、と……えーと」
ある日の昼休み、私、野掘真奈は女友達が持ってきた英語の参考書を見て驚いていた朝日千春さんに話しかけていた。
朝日さんが会話していたのはワンレングスの黒髪とスマートな体型が特徴的な女の子で、私は顔に見覚えがあるのに名前を思い出せなかった。
「おやおや、たった3か月で忘れられているとは残念だね。ボクは野掘さんと同じクラスの石北香衣で、1学期の途中からイギリスに3か月短期留学していたんだよ。夏休み明けに合わせて復帰したという訳さ」
「なるほど、だから先生から紹介がなかったんだね。名前忘れててごめん」
「カイちゃんはこの高校から難関大学を目指してて、元々このクラスでは5番目ぐらいに成績が良かったんだよ。今度から勉強の相談はカイちゃんにしてみようかなって」
私立高校では大してレベルが高くない部類に入るマルクス高校でクラス内5位と言われてもいまいち優等生とは思えないが、石北さんは見るからに真面目そうなので勉強法を教えるのは上手なのではないかと思われた。
その翌日、珍しく学生食堂で昼食を取った私は石北さんが大きめの単語カードをめくりながら座席に座っているのを見かけた。
「石北さん、学食で勉強してるの? その単語カード何か大きいね」
「調理師長さん自慢の特製サムゲタンを久しぶりに注文したんだけど、待ち時間が10分ぐらいかかるからその時間を無駄にせずに勉強しているのさ。このカードは京都大学式情報カードといって、普通の単語カードよりもまとまった情報を書き込めるから効率的な学習に有効なんだよ。詳しくは大和田行長先生の受験技法指南本に書かれているよ」
「へえー、流石は石北さんだね。ちょっと違うかもだけどノマドワーカーの人みたい」
石北さんは普通は勉強する場所ではない所でも空き時間を見つけて勉強に励んでいるらしく、喫茶店や図書館でパソコンを開いて仕事をするというノマドワーカーの人々に通じる所があると思った。
「そうかっこつけた名前で呼ばなくても、ボクは時間を大切に使いたいだけさ。そうだね、今日は昼食という大切な時間を野掘さんとお話するのに使いたいかな。一緒にどうだい?」
「ぜひぜひ、私も石北さんと仲良くなりたいし。ちょっとラーメン注文してくるね」
一緒に学食でご飯を食べようと誘ってくれた石北さんに私は嬉しさを感じ、その日はテーブルで向かい合って昼食を取った。
石北さんは真面目かつ打ち解けやすい性格で、何も問題はないと思っていたのだが……
「あの、石北さん、数学のお勉強は大事だけど今は倫理の時間だから……」
「えっ、何か問題がありましたか? ボクは大学受験では世界史Bと政治・経済を選択するつもりですから、倫理は必要最低限だけ学習するつもりなのですが」
週1回の倫理の授業中、数学の問題集を解いていた石北さんに公民科担当の路堂久美子先生は恐る恐る注意しようとしていた。
「いやでも、流石に最前列で内職されるのは教師として辛いの。週1回だし、どうか授業を聞いてくれないかしら?」
「何ということを仰るのですか、自分が必要だと思う学習のために授業時間を有効活用する行為を内職などと侮蔑されたいわれはありませんし、ボクは先生を満足させるために授業を受けている訳ではありませんよ。それこそノマドワーカーの精神に則って」
「推薦入試の調査書に『2』って付けていい?」
「申し訳ありませんでした、今後は真面目に授業を聞くことを約束します」
表情に静かな怒りを込めて言った路堂先生に、石北さんは冷や汗をかきながら数学の問題集を片付けたのだった。
(続く)
「へー、カイちゃんってもうそんなに難しい参考書で勉強してるんだ。見たことない単語ばっかり」
「迅速英単語上級編が難しい参考書かどうかはともかく、英語圏に3か月も留学していればね。勉強の相談にはいつでも乗るよ?」
「その参考書ってゼータ会のやつ? 朝日さん、と……えーと」
ある日の昼休み、私、野掘真奈は女友達が持ってきた英語の参考書を見て驚いていた朝日千春さんに話しかけていた。
朝日さんが会話していたのはワンレングスの黒髪とスマートな体型が特徴的な女の子で、私は顔に見覚えがあるのに名前を思い出せなかった。
「おやおや、たった3か月で忘れられているとは残念だね。ボクは野掘さんと同じクラスの石北香衣で、1学期の途中からイギリスに3か月短期留学していたんだよ。夏休み明けに合わせて復帰したという訳さ」
「なるほど、だから先生から紹介がなかったんだね。名前忘れててごめん」
「カイちゃんはこの高校から難関大学を目指してて、元々このクラスでは5番目ぐらいに成績が良かったんだよ。今度から勉強の相談はカイちゃんにしてみようかなって」
私立高校では大してレベルが高くない部類に入るマルクス高校でクラス内5位と言われてもいまいち優等生とは思えないが、石北さんは見るからに真面目そうなので勉強法を教えるのは上手なのではないかと思われた。
その翌日、珍しく学生食堂で昼食を取った私は石北さんが大きめの単語カードをめくりながら座席に座っているのを見かけた。
「石北さん、学食で勉強してるの? その単語カード何か大きいね」
「調理師長さん自慢の特製サムゲタンを久しぶりに注文したんだけど、待ち時間が10分ぐらいかかるからその時間を無駄にせずに勉強しているのさ。このカードは京都大学式情報カードといって、普通の単語カードよりもまとまった情報を書き込めるから効率的な学習に有効なんだよ。詳しくは大和田行長先生の受験技法指南本に書かれているよ」
「へえー、流石は石北さんだね。ちょっと違うかもだけどノマドワーカーの人みたい」
石北さんは普通は勉強する場所ではない所でも空き時間を見つけて勉強に励んでいるらしく、喫茶店や図書館でパソコンを開いて仕事をするというノマドワーカーの人々に通じる所があると思った。
「そうかっこつけた名前で呼ばなくても、ボクは時間を大切に使いたいだけさ。そうだね、今日は昼食という大切な時間を野掘さんとお話するのに使いたいかな。一緒にどうだい?」
「ぜひぜひ、私も石北さんと仲良くなりたいし。ちょっとラーメン注文してくるね」
一緒に学食でご飯を食べようと誘ってくれた石北さんに私は嬉しさを感じ、その日はテーブルで向かい合って昼食を取った。
石北さんは真面目かつ打ち解けやすい性格で、何も問題はないと思っていたのだが……
「あの、石北さん、数学のお勉強は大事だけど今は倫理の時間だから……」
「えっ、何か問題がありましたか? ボクは大学受験では世界史Bと政治・経済を選択するつもりですから、倫理は必要最低限だけ学習するつもりなのですが」
週1回の倫理の授業中、数学の問題集を解いていた石北さんに公民科担当の路堂久美子先生は恐る恐る注意しようとしていた。
「いやでも、流石に最前列で内職されるのは教師として辛いの。週1回だし、どうか授業を聞いてくれないかしら?」
「何ということを仰るのですか、自分が必要だと思う学習のために授業時間を有効活用する行為を内職などと侮蔑されたいわれはありませんし、ボクは先生を満足させるために授業を受けている訳ではありませんよ。それこそノマドワーカーの精神に則って」
「推薦入試の調査書に『2』って付けていい?」
「申し訳ありませんでした、今後は真面目に授業を聞くことを約束します」
表情に静かな怒りを込めて言った路堂先生に、石北さんは冷や汗をかきながら数学の問題集を片付けたのだった。
(続く)
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