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第5部 天然女子高生のための真そーかつ

第140話 インフルエンサー

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 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)


『今日はこの最高に美味しいキャンディ、リベルタースオリジナルを10袋まとめて買ってきたで! せっかくやから10個同時に舐めるわ!』
『鳴海、あなた夕食前に何おやつを大量に食べているの!? 全部没収するざます!!』
『げっオカン!? ひぃー許してーなー!!』

「いわゆる親フラですけど結構面白いじゃないですか。素人のチャンネルなのに100人以上も登録してくれてますし」
「せやねん。でもうちはリベルタースオリジナルを買って欲しいから概要欄にリンク張っとんのに、2人しかクリックしてくれてへんねん」

 ある日の昼休み、私は1年生の教室で硬式テニス部所属の2年生である平塚ひらつか鳴海なるみ先輩が少し前に開設したというYoutubeのチャンネルを見せられていた。

 チャンネルではなるみ先輩本人が出演してよく分からないレトロなおもちゃやマイナーなお菓子を紹介しており、先輩が顔は美人なこともあって素人にしては再生数を稼げていたが、大好きな商品を個人的に宣伝したいという先輩の目的は達成できていないようだった。

「やっぱりYoutubeの宣伝はインフルエンサーがやってこそですからね。本気で宣伝したいならまずはゲームの実況プレイ動画とかでチャンネル登録者数を増やしてみては?」
「うーん、うちも努力はするつもりやねんけど、さっきの動画のリベルタースオリジナルって売り上げが最近どんどん減ってて、あと半年の間に回復せえへんかったら販売打ち切りになるねん。せやから今すぐ大規模な宣伝を打ちたいねんけど……」
「それは確かに待ってられないですよね……」

 なるみ先輩が数か月前から夢中になっているお菓子「リベルタースオリジナル」はドイツの会社が開発して日本でも販売されているキャラメル味のキャンディで、私たちが生まれるずっと前から販売されているらしいが先輩の話によるとあと半年で売り上げが回復しなければ販売が停止になるらしい。

 二人で悩んでいるとちょうど同じクラスの柔道部員である国靖くにやすまひるさんが教室に入ってきて、何か思いついた様子でなるみ先輩に話しかけた。

「平塚先輩、やや非合法的になりますけどそういうことならご協力できますよ。知人にインフルエンサーはおりませんが、いわゆるディープフェイク技術を利用することで擬似的にインフルエンサーに宣伝して頂くことができます」
「そうなん!? せやったらぜひお願いしたいわ! お礼はリベルタースオリジナル10袋でええか!?」

 国靖さんは例によってIT技能を活かして宣伝映像を作るつもりらしく、私はディープフェイクといっても一体誰の口からリベルタースオリジナルを宣伝させるのだろうと思った。


 その数日後、国靖さんの手によるディープフェイク動画は完成し……

『国民の皆さんに、大切なお話があります。私は日本国の上皇として、このリベルタースオリジナルをわが国の国菓こっかに指定することを決断致しました。思い返せば、リベルタースオリジナルは私の祖父がくれた初めてのキャンディでした。その時私は4歳で、その味は甘くてクリーミーでした。このような素晴らしいキャンディを貰える私は、きっと特別な存在なのだと感じました。今では私も祖父となり、孫にあげるのはもちろんリベルタースオリジナル。なぜなら孫たちもまた特別な存在だからです』


「同じ硬式テニス部の友人とはいえ、わたくしが敬愛する上皇さまへの侮辱は許せません! お覚悟ーっ!!」
「ひぃー許してーな、あんな動画誰も信じてへんって!! ちょっ、竹刀でそこ叩くんはあかん!! にぎゃあああああああ!!」

 Youtubeの動画を見て激怒したケインズ女子高校1年生の三島みしま右子ゆうこさんに中庭で追い回されているなるみ先輩と再生数が既に1000万を超えているディープフェイク動画を見て、私は日本最強のインフルエンサーは確かにあの方だと思った。


 (続く)
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