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第5部 天然女子高生のための真そーかつ
第144話 ギグワーカー
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
ある日曜日の昼、私はお隣さんの6歳児である村田蓮くんを自宅から少し離れた公園に連れてきていた。
「うおーー!! とりゃーー!!」
「蓮くん頑張ってー! 疲れたらすぐ休みにきてね」
蓮くんが通う私立紅衛幼稚園の年長クラスでは2週間後に運動会が予定されていて、蓮くんは年長クラスの恒例行事である徒競走で優勝するために練習を重ねていた。
私はそれぞれ別の用事で来られない蓮くんの両親の代わりにスポーツドリンクを持参して付き添っており、保護者や近隣住民からのクレームにより遊具がほとんど撤去されている公園で蓮くんは大声で叫びながらダッシュしていた。
「あーつかれたー。でもこれでゆうしょうできるかな?」
「他にも足が速い子はいるかも知れないけど、今のうちから練習してたら絶対上位に入れるよ。……あっ、向こうでバルーンアートを作ってる人がいるよ?」
休憩を挟みつつ1時間半ほどの練習が終わり、スポーツドリンクを小さな口でこくこくと飲む蓮くんを眺めてから一緒に帰っていると、道端で見覚えのある顔の男性がバルーンアートを作って披露していた。
「さあ、まだバルーンを貰ってない子はいるかな? あっ、どうも野掘さん。そこのボク、この剣のバルーンアート1つどうだい?」
「わーい、ほしいほしい! おじちゃんすっごくじょうずだね!!」
「点太郎さんじゃないですか。町内会のボランティアか何かですか?」
集まった子供たちにバルーンアートを披露して1人1人にプレゼントしていたのはマルクス高校2年生の赤城旗子先輩のお兄さんである赤城点太郎さんで、子供たちから特に代金などは貰っていなかったのでこの仕事はボランティアなのだろうかと思った。
「いや、実はこの近くで町内会の総会が開かれてて、その間子供たちにバルーンアートを見せてあげて欲しいって町内会長さんに依頼されたんだよ。書店員のお給料だけじゃ貯金ができないから休みの日を使って副業をしてるんだけど、最近は単発で仕事の依頼を受けられる仲介サイトまであってね。僕みたいな労働者をギグワーカーとか言うらしいよ」
「便利な時代になりましたね。でも子供たちもすごく喜んでて何よりじゃないですか」
点太郎さんはフリーター時代の経験を活かして書店の仕事がない日にインターネットを通じて請け負う副業に励んでいるらしく、今日も町内会から正式に依頼料を受け取って仕事をしていたようだった。
「今の日本では副業はあまり良く思われないけど、正規の仕事をちゃんとこなして余力があればむしろどんどんやった方がいいと僕は思うね。パワフルに身体を動かせるのも若いうちだけだし、そこのボクも今のうちに目一杯動き回るといいよ」
「よくわからないけど、ぼくもはしりまわってみんなのやくにたちたい! こんどおじちゃんのまねをしてみるね!!」
蓮くんは点太郎さんの話を聞いて何かを思いついたらしく、私は幼稚園児の発言なので深く考えずそのまま蓮くんを連れて帰宅した。
その翌週、私は蓮くんを再び公園に連れて行くためお隣の家を訪ねた。
「さあ、今日も一緒に練習しよっか。あれっ、その箱は何かな?」
蓮くんは虫取りかごを吊るすようにして何かが入ったプラスチック製の箱を首から紐でぶら下げており、私はその中身について聞いてみた。
「ようちえんのともだちからぽけっとぺけちゅーをかりてきて、ともだちのかわりにはしってほすうをかせぐの! ひとりおかし2こでおしごとをひきうけたんだよ!!」
「今すぐ部屋に置いてきなさい」
6歳で副業を始めようとした蓮くんを制止しつつ、私は実際こういう仕事をしている大人もいるのかも知れないと思った。
(続く)
ある日曜日の昼、私はお隣さんの6歳児である村田蓮くんを自宅から少し離れた公園に連れてきていた。
「うおーー!! とりゃーー!!」
「蓮くん頑張ってー! 疲れたらすぐ休みにきてね」
蓮くんが通う私立紅衛幼稚園の年長クラスでは2週間後に運動会が予定されていて、蓮くんは年長クラスの恒例行事である徒競走で優勝するために練習を重ねていた。
私はそれぞれ別の用事で来られない蓮くんの両親の代わりにスポーツドリンクを持参して付き添っており、保護者や近隣住民からのクレームにより遊具がほとんど撤去されている公園で蓮くんは大声で叫びながらダッシュしていた。
「あーつかれたー。でもこれでゆうしょうできるかな?」
「他にも足が速い子はいるかも知れないけど、今のうちから練習してたら絶対上位に入れるよ。……あっ、向こうでバルーンアートを作ってる人がいるよ?」
休憩を挟みつつ1時間半ほどの練習が終わり、スポーツドリンクを小さな口でこくこくと飲む蓮くんを眺めてから一緒に帰っていると、道端で見覚えのある顔の男性がバルーンアートを作って披露していた。
「さあ、まだバルーンを貰ってない子はいるかな? あっ、どうも野掘さん。そこのボク、この剣のバルーンアート1つどうだい?」
「わーい、ほしいほしい! おじちゃんすっごくじょうずだね!!」
「点太郎さんじゃないですか。町内会のボランティアか何かですか?」
集まった子供たちにバルーンアートを披露して1人1人にプレゼントしていたのはマルクス高校2年生の赤城旗子先輩のお兄さんである赤城点太郎さんで、子供たちから特に代金などは貰っていなかったのでこの仕事はボランティアなのだろうかと思った。
「いや、実はこの近くで町内会の総会が開かれてて、その間子供たちにバルーンアートを見せてあげて欲しいって町内会長さんに依頼されたんだよ。書店員のお給料だけじゃ貯金ができないから休みの日を使って副業をしてるんだけど、最近は単発で仕事の依頼を受けられる仲介サイトまであってね。僕みたいな労働者をギグワーカーとか言うらしいよ」
「便利な時代になりましたね。でも子供たちもすごく喜んでて何よりじゃないですか」
点太郎さんはフリーター時代の経験を活かして書店の仕事がない日にインターネットを通じて請け負う副業に励んでいるらしく、今日も町内会から正式に依頼料を受け取って仕事をしていたようだった。
「今の日本では副業はあまり良く思われないけど、正規の仕事をちゃんとこなして余力があればむしろどんどんやった方がいいと僕は思うね。パワフルに身体を動かせるのも若いうちだけだし、そこのボクも今のうちに目一杯動き回るといいよ」
「よくわからないけど、ぼくもはしりまわってみんなのやくにたちたい! こんどおじちゃんのまねをしてみるね!!」
蓮くんは点太郎さんの話を聞いて何かを思いついたらしく、私は幼稚園児の発言なので深く考えずそのまま蓮くんを連れて帰宅した。
その翌週、私は蓮くんを再び公園に連れて行くためお隣の家を訪ねた。
「さあ、今日も一緒に練習しよっか。あれっ、その箱は何かな?」
蓮くんは虫取りかごを吊るすようにして何かが入ったプラスチック製の箱を首から紐でぶら下げており、私はその中身について聞いてみた。
「ようちえんのともだちからぽけっとぺけちゅーをかりてきて、ともだちのかわりにはしってほすうをかせぐの! ひとりおかし2こでおしごとをひきうけたんだよ!!」
「今すぐ部屋に置いてきなさい」
6歳で副業を始めようとした蓮くんを制止しつつ、私は実際こういう仕事をしている大人もいるのかも知れないと思った。
(続く)
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