気分は基礎医学

輪島ライ

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2020年2月 病理学発展コース

271 青い鳥は傍にいる

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「……どう? ヤミ子、気持ち悪くなかった?」

 生まれたままの姿で隣に寝転んでいる理子に剖良はおずおずと尋ねた。


「はっきり言って気持ち良くはなかったけど……これぐらいなら、我慢できるよ。何ていうか自分と同じ身体の作りだし」
「それは良かったね。……あれ、ってことは……?」

 その瞬間、理子はベッドの上を這って剖良に抱きつき、


「そういうこと! 私、今日からさっちゃんの彼女!!」

 嬉しそうに言って、自分から剖良に口づけをした。


 それからは再び一緒にシャワーを浴び、晴れて恋人同士になった2人はリビングでこれからのことを相談した。

 元の服に着替えてダイニングテーブル上にある緑茶をすすりながら、剖良と理子は具体的な方針を検討していた。


「とりあえず私たちのことは他の人には内緒にしとこうね。といってもいつまでも隠せる訳じゃないから、ヤッ君とかマレー君とか研究医生の友達には教えてもいい?」
「うん、それは大丈夫。……でも、柳沢君のことはどうするの? まだ写真部に帰ってきてないんでしょ?」
「それはその通り。私がアセクシャルで、柳沢君のことは受け入れられなかったのにさっちゃんとは付き合えるって正直に言ったら彼はもっと傷つくと思う。だからね……」

 そう言うと理子は自分たちのことを柳沢にどう伝えるかを提案した。


「嘘をつくのは良くないかも知れないけど、こうでも言わないと彼に申し訳が立たないから。万が一柳沢君に言いふらされても、その責任は私にあるから我慢して当然だし」
「そうね。……柳沢君、多分そんなことはしないと思う。あくまで希望的観測だけど」

 気休めかも知れないと思いつつ言うと理子は静かに頷いた。

 仮に悪い噂が広まり理子が学内で孤立するようなことになっても、その時は自分がずっとそばにいて支えになろうと剖良は決意した。


「春台神戸校で初めて会った時は、まさかさっちゃんと恋人同士になるなんて思わなかった。幸せの青い鳥は、こんなに近くにいたんだね」
「私は、ずっとヤミ子と恋人になりたかった。その夢が本当に叶うなんて思わなかったけど」

 輝き始めた世界の中で、剖良は理子の両目を真っすぐに見つめて言った。


「性的に好きにはなれないけど、私はさっちゃんのことが世界で一番好きだから。……ごめんね。これまでずっと辛い思いをさせて」
「ううん、いいの。私もヤミ子も辛い思いをして他の人に辛い思いをさせて、ようやくここまで来られたから」

 一度は自分に告白した柳沢の顔とずっと優しく尽くしてくれた真琴の顔を思い浮かべつつ、剖良は笑顔で答えた。


 テーブルを挟んで向かい合いながら、剖良はこの瞬間がずっと続けばいいのにと思った。

 そして、この瞬間は続かなくても理子との関係をずっと続けていきたいと思った。
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