クラッシャー建!

輪島ライ

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クラッシャー建!

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 地球上において局地的に平和を享受する日本に、宇宙から侵略者の魔の手が迫っていた。

「フフフ……何事もない日々が続くと信じる地球人よ、我らフラーグ星人の前にひれ伏すがよい」

 悪のフラーグ帝王が高笑いを上げる中、侵略軍の旗艦に高速で迫る機影があった。

「あれは何だ?」

 機影が旗艦に激突して穴を空けると何者かが内部に侵入した。

「ぐああっ!!」

 フラーグ帝王が状況を確認する間もなく配下の兵士たちは次々に光線で撃ち抜かれてゆく。帝王は自らの玉座に不可視のバリアーを展開すると侵入者を怒鳴りつけた。

「貴様、何者だ!」
「私の名はクラッシュマン。非日常的なフラグを建て、人々の平和な生活を乱す者は私が成敗する!」
「クラッシュマンだと? こしゃくな……」

 帝王の返事を待たずクラッシュマンは右腕から必殺のクラッシュレーザーを発射した。

 光線はバリアーを貫き、フラーグ帝王に直撃した。

「やったか!?」

 そう叫んだクラッシュマンの目の前にはレーザーを吸収してパワーアップしたフラーグ帝王の姿があった。

「何だと!?」
「尺が足りん、消えろ!」

 フラーグ帝王は反物質光線を放ち、クラッシュマンを消滅させた。

「典型的な敗北フラグ台詞を言っておいて何がフラグクラッシュだ。第一、私がいきなり負けてはショートショートにもならんだろう」

 メタ的な発言を繰り返すフラーグ帝王だが、クラッシュマンの意識はまだ生きていた。

(……私は思念体として地球へ行く。そして、遺志を継ぐ地球人に協力を求めよう)

 意識だけの存在となったクラッシュマンの思念体はそのまま地球へと降下していった。



「おはよう、建くん」
「やあ、渚ちゃん」

 県立茶島ちゃじま高校に通う和泉いずみけん吉高よしたかなぎさは幼馴染である。自宅は同じ町内にあり両親も知り合いで、お互いに幼稚園からの付き合いだった。

 登校中に出合うなり、渚は建に話しかけた。

「あの、建くん……」
「何だい?」
「私、志望校は克明館大学の法学部にしようと思ってるんだけど、建くんも一緒に受けない?」

 渚が少し照れながらそう言うと、建は、

「いや、無理だな。僕の家は私立受けられないし、工学部志望なら別の大学の方がいいから」

 と即答した。

「でも、克明館大学の理工系なら奨学金もあるし……」

 渚は断られることを予想してあらかじめ下調べをしていたのだった。

「奨学金って言っても借金でしょ? それに僕、そこまで成績良くないし」

 やはり建は即答した。


「……もう知らない!」

 渚は建の態度に怒り、そのまま走っていってしまった。

「なんで怒ってるんだろう? まあ追いかけなくてもいいか」

 いつもの授業開始時刻までは充分時間があるので建はそのまま普通に歩いていった。


「よう建、また渚ちゃん泣かせたのか?」

 建に馴れ馴れしく声をかけたのは同級生の山村やまむらおさむ。中学校こそ別だが建にとっては親友の一人だ。

「別に泣いてはないと思うけど」
「そういう意味じゃないだろ……」

 建の発言に呆れつつ、治は腕時計を見て言った。

「おい、やばいぞ建」
「何が?」
「今日は特別学年集会だから授業開始が10分早いんだ。すっかり忘れてたな」
「大変だね、走ろう」

 走り出した建を追いかけて治もコンクリートの道路を走っていく。

 しばらく走ると治はあることに気付いて建に呼びかけた。

「おい、建!」
「どうしたの?」
「ここの路地を通ると高校までショートカットになるんだよ。こっち行こうぜ」
「いや、通学のルールは守るべきでしょ。僕は通学路で行くよ」
「そうかよ……」

 建は治を無視して通学路を走っていったので治もやむなくそれに従った。


(感じる。……この近くに、高いフラグクラッシャー適性を持つ地球人がいる)

 クラッシュマンの思念体は既に建の存在を察知していた。しかし思念体は大気圏突入でエネルギーを使い果たし、通学路からのショートカットとなる路地に漂っているしかなかった。



「侵略開始の時は来た。いざ行け、フラーグ怪人よ!」
「シャー!」

 フラーグ帝王の命令を受け、恐ろしい姿をしたフラーグ怪人は旗艦から地球上へと空間転移していった。

「まずは偵察用に1体を向かわせる。その情報を受けて次々と怪人を送り込むのだ……」

 自らの謀略を口にしつつ、帝王はやがて来る地球征服の日を待ち望んでいた。



「忘れ物をするなんて珍しいなあ……」

 息を切らして走りながら建は呟いた。

 建と治は結局学年集会には開始3分前に到着したが、建は保健委員の仕事で作成したスライドのデータを自宅に忘れてしまい急いで取りに帰っていた。

「チャイム押してる時間もないな」

 建がカバンから鍵を取り出そうとすると背後からけたたましい声がした。

「シャー!」

 振り返った建の目の前には不完全な人型をした怪物が立っていた。

「うわっ、何だこいつ!」
「シャアアアッ!」

 襲いかかる怪人に対し、建は必死で逃げつつスマートフォンを取り出した。

「もしもし、警察ですか? 自宅の前に不審物が……いや、爆弾とかじゃなくて」

 建が慌てて通報するとスマホの位置を探知した警察がすぐに駆け付けた。

「手を上げろ!」
「シャー!」

 拳銃を突きつけた警官に対し、怪人は警告を無視して襲いかかった。

「危ない!」

 隣に控えていた別の警官が怪人を拳銃で数発撃ち抜いた。

「シャ、シャー……」

 拳銃弾の直撃を受けた怪人は弾丸に含まれる鉛に反応して融解し、そのまま死亡した。


「何だったんだ?」

 呆気にとられた警官に建は声をかけた。

「何らかの生物兵器の可能性があります。自衛隊や米軍に通報するべきでは?」
「確かにそうだな。すぐに連絡しよう」

 警察はそう言うと建を参考人として交番へと連れていった。



 それから数日後。

「偵察に向かわせた怪人はどうした?」
「はっ、今のところは連絡がありません」

 苛立つフラーグ帝王に対し、部下の兵士は冷静に事実を伝えた。

「一体どうしたことだ。仕方ない、旗艦を降下させるぞ」
「承知致しました。……あれは?」

 兵士が確認する間もなく、旗艦は米軍の放ったミサイルの直撃を受け爆散した。

 フラーグ星人は地球人の技術力や情報伝達網を侮っていたが、彼らが地球侵略に失敗した最大の理由を考えるなら、現実の社会には未知の怪人に自力で立ち向かおうとする青年はいなかったということに尽きるだろう。


 (完)
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