メテオサイド 断罪の巨神と宿命の宙域

輪島ライ

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第1節 アンノウン破壊指令

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「私が……ですか?」
「そうだ。聞こえなかったのかね、救国のエース君。耳鼻科の軍医を呼ぶか?」

 メテオ強化アクリルの窓から、広大な宇宙と星々を見渡せる司令室。

 窓際に固定された回転椅子に座ったまま、多分に嫌味を含みながら、直属の上官であるナヴィ上級大佐はそう言った。


「しかし、アンノウンの撃破というのは……」
「何を言うか。ワグネルの反逆者どもはともかく、奴は我が軍の将兵にも多大な損害を与えている。それを果敢にも打ち倒そうというのだ。この上なき名誉だとは思わんかね?」
「……」

 起床時刻になり、数十分遅れでベッドを離れたところに、単身で呼び出しを受けた。

 その俺に下されたのは、耳を疑うような命令だった。


 低血圧で機嫌が悪いのか、皮肉にも八つ当たりのようなものが含まれている。

 それを感じ取る余裕もないほどに、その内容は衝撃的なものだった。


 沈黙する俺に向かって、ナヴィは容赦なく言葉をぶつける。

「第一、貴様らが任務に口出しできる身分だとでも思うのか。陛下の恩寵おんちょうで、将官にも匹敵する待遇を与えられたからと、思い上がるのではない」
「その通りです。……承知致しました」


 この程度の会話は慣れたもので、張り詰めた空気はもはやない。

 今の俺はそんなことより、与えられた特殊任務の内容に脳を支配されていた。


 アンノウンの、破壊。

 可能ならば、捕獲。


 それが、俺が率いる部隊が与えられた任務だった。


 記録上、アンノウンに戦闘を挑んだ将兵がいなかった訳ではないが、それもアンノウンの異常な力が知られていなかった頃の話だ。

 その当時、大きな戦闘の中で奴の襲撃を受ければ、どちらの艦隊も敵のことは忘れ、闇雲に艦砲射撃を繰り返した。

 出撃している機体は全武装を用いて攻撃を加え、防衛衛星はレーザーやミサイルを乱射した。


 そして言うまでもなく、それらの全ては、奴に一片の傷をも与えることができなかった。


 最前線で戦う中で、俺も奴には何度も遭遇したことがあるが、どの機会にも殺されずに済んでいた。

 というのは、アンノウンが出現すれば即座に撤退するということが、その時点で既に軍の中での常識になっていたからだ。


 それでも、奴が掌から放つ謎の波状光を、機体のブースターを全開にして避けて。

 全ての武装を捨て去って、死に物狂いで母艦へ帰投した、あの日のことは今でも忘れられない。


 アンノウンは、強い。

 いや、その表現では足りない。


 この宇宙において奴は、無敵に近い存在だった。


 その存在に、たった一部隊で挑みかかろうというのだ。



「……続けて構わんかね?」

 もはや上官の顔も見られず、無言で頷く。

 無表情から何かしらの反応を読み取りつつ、ナヴィは再び口を開いた。


「作戦は一週間後、リーザス標準時で7時を予定している。先日、ウォーディム宙域においてアンノウンの姿が確認されており、その近辺には敵の宇宙要塞がある。我々から事を起こす」

 白髪の見え始めた髪を整えつつ、ナヴィは続ける。


「なるべく大規模にやりたい。対艦レーザーで防衛衛星を叩き、迎撃部隊が出てくれば一斉に部隊を出す。敵には要塞攻略を見せかけるが、あくまでフェイクだ。全てはアンノウンをおびき寄せるための作戦だ」
「しかし、それでは……」
「分かっている」

 それだけ大規模に部隊を出せば、アンノウンが現れた場合、多大な損害を被ることになる。

 即時撤退が常識となっているとはいえ、被害は免れないだろう。

 俺がそう提言する前に、ナヴィは言葉を遮った。


「だがな、これは陛下直々のご命令であり、それだけの準備もしている」
「準備?」
「勘違いしているようだが、私は貴様らを捨て石にする訳ではない。アンノウンを攻略する算段は整えてあるし、貴様らを安易に殺したとあっては世論が承知せん」

 告げられた言葉に、俺は半ば安堵し、同時に奇妙さを感じた。

 軍には俺たちをついに処分してやろうという気はないらしい。


 生き残ったところでこの地獄が続くことには変わりないが、失敗が見えている作戦に放り込まれるよりはましだ。

 あの時から、俺の生き甲斐は戦うことだけだからだ。


 だが、奴を倒す算段と言っても、艦隊でさえ歯が立たない相手を、一部隊でどうしようというのか。

 アンノウンを破壊するのは、あくまで俺の部隊。

 ナヴィはそう告げたはずだ。


「その具体的な内容については、今から伝える。見せると言った方が正しいか」
「どういう意味でしょうか?」
「聞かずとも分かることだ。付いてこい」

 ナヴィはそう言うと腰を上げ、床に固定された椅子から立ち上がった。

 机の上の書類を引き出しに片付けると、鍵を閉め、入口のドアに向かってさっさと歩き出す。

 無愛想なりに、几帳面さが強い。そういう男だった。


 俺のような人間に敬礼を要求する人間ではないから、そのまま離れ過ぎない程度に気を付け、ナヴィの後を歩き始める。

 センサーが司令官であるナヴィの退室を探知すると、スライドドアは数秒後に閉まり、ロックがかかる。

 このシステムの存在により司令室に無断で侵入することは不可能であり、司令も鍵の開け閉めを気にする必要はない。

 ナヴィなどは特に気に入っているであろう機能だった。


 重力発生装置は発明されて久しいが、環境により、重力の大きさには変動がある。

 椅子や机などクルーに危害を与えかねない構造物は床に固定され、ドアにはスライド式のものを採用するのが宇宙居住区内での常識だった。
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