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五章 この街で、貴方と。
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「……ニィド」
「あれ、ウィルド。眠れない?」
常夜の街の洋館のニィドの部屋を、ウィルドは訪ねた。
この街は永遠に夜で赤い月が浮かんでいるが、満ち欠けはある。
今日は満月だった。
「血が足りなかった?」
「いや、昔の夢を見たんだ。前世から、こうしてニィドとここに来る前までの長い夢」
ニィドは何も言わずにウィルドを抱きしめる。
「そうだね。本当に色々あった。蒼月薔薇のココアを作ろう。座ってて」
「ありがとう」
ユニシアからこの常夜の街に渡ったのは再会からすぐの満月の夜だった。
「やあ、ユル。運命の人にはちゃんと会えたんだね。そしてニィド。君は本当によく頑張った。ふたりを常夜の街に迎えよう。そしてニィド。君の記憶の欠落も埋めてあげる」
「記憶の欠落、とかそういうの何も……」
ウィルドにじとっとした目で見られて、
「言わなくてもいいかなーって。まあだから日記を書いてたんだけどね。本当はウィルドと再会した時、名前とユルが恋人って事と魂の感じぐらいしか覚えてなかったけど。それに、ウィルドだってあんまり前世の自分と今の自分を同一視されたら嫌かなーーって」
ニィドは頭を掻いた。
「ニィドは本当無理しすぎ。今の俺は昔みたいにもやしじゃないし。これでもずっと戦ってきたからさ、俺のこと頼って」
「努力します……」
月神に導かれたふたりは、無事に常夜の街へ渡ったのだった。
「お待たせ」
「ありがとう。ニィドは本当料理上手だよな」
蒼月薔薇のココアは、青い色をしている。味は普通のココアと変わらず、甘い。
「ウィルドも初めに比べたら上手くなったよ」
「うう。転生前の料理スキルは引き継げなかった……」
「これから上手くなったらいいよ。ここに来て一ヶ月か。だいぶ慣れたね」
「そうだな。いくらでも時間はある」
こんな時間を、ずっと望んでいた。
愛しい人とただ、穏やかに平凡な日々を重ねて。
喜怒哀楽を共にしたかった。
「そういえば、月ひよこ明日来るんだっけ」
「そうだよ。ウィルドはなんて名付けるのかな」
ようやく叶えられたふたりのささやかな願い。
前世から月を追いかけた青年の指は、ようやく月に届いた。
「ニィド、俺は今とっても幸せだよ」
「うん、僕も」
「あれ、ウィルド。眠れない?」
常夜の街の洋館のニィドの部屋を、ウィルドは訪ねた。
この街は永遠に夜で赤い月が浮かんでいるが、満ち欠けはある。
今日は満月だった。
「血が足りなかった?」
「いや、昔の夢を見たんだ。前世から、こうしてニィドとここに来る前までの長い夢」
ニィドは何も言わずにウィルドを抱きしめる。
「そうだね。本当に色々あった。蒼月薔薇のココアを作ろう。座ってて」
「ありがとう」
ユニシアからこの常夜の街に渡ったのは再会からすぐの満月の夜だった。
「やあ、ユル。運命の人にはちゃんと会えたんだね。そしてニィド。君は本当によく頑張った。ふたりを常夜の街に迎えよう。そしてニィド。君の記憶の欠落も埋めてあげる」
「記憶の欠落、とかそういうの何も……」
ウィルドにじとっとした目で見られて、
「言わなくてもいいかなーって。まあだから日記を書いてたんだけどね。本当はウィルドと再会した時、名前とユルが恋人って事と魂の感じぐらいしか覚えてなかったけど。それに、ウィルドだってあんまり前世の自分と今の自分を同一視されたら嫌かなーーって」
ニィドは頭を掻いた。
「ニィドは本当無理しすぎ。今の俺は昔みたいにもやしじゃないし。これでもずっと戦ってきたからさ、俺のこと頼って」
「努力します……」
月神に導かれたふたりは、無事に常夜の街へ渡ったのだった。
「お待たせ」
「ありがとう。ニィドは本当料理上手だよな」
蒼月薔薇のココアは、青い色をしている。味は普通のココアと変わらず、甘い。
「ウィルドも初めに比べたら上手くなったよ」
「うう。転生前の料理スキルは引き継げなかった……」
「これから上手くなったらいいよ。ここに来て一ヶ月か。だいぶ慣れたね」
「そうだな。いくらでも時間はある」
こんな時間を、ずっと望んでいた。
愛しい人とただ、穏やかに平凡な日々を重ねて。
喜怒哀楽を共にしたかった。
「そういえば、月ひよこ明日来るんだっけ」
「そうだよ。ウィルドはなんて名付けるのかな」
ようやく叶えられたふたりのささやかな願い。
前世から月を追いかけた青年の指は、ようやく月に届いた。
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