魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

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第21話 魔王様は発情しない

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 魔王城に帰還し、リューナと解散する。
 僕はコットンのいる場所へと足早に向かっていた。道中、先ほどの感触を思い出すがごとく手が勝手にグーとパーを繰り返すのは致し方ないことだろう。
 コットンの部屋の前に到着、コンコンと数回ノックする。
 中から「どうぞ」と返事があったので、僕はゆっくりと扉を開き――そっとコットンの様子を伺う。

「ぴょえっ! は、晴人、様?」
「コットン、少しいいかな?」
「……」

 コットンが無言で頷きながら――僕から視線をはずす。
 やはり、まだ桃尻事件のことで怒っているのだろう。リューナにも忠告されたが、僕が変にフォローしてしまったからという線は濃厚だろう。

「コットン、怒らせてしまったことで謝ろうと思って」
「……」
「あの、こんなことで許してもらえるかわからないけど――今日、リューナと特訓してる最中にキレイな花がいっぱい咲いている場所があってさ」

 僕はコットンの頭に赤い花冠をかぶせる。

「これ、お詫びというかなんというか――コットンにプレゼントしたかったんだ。それだけだから、急に来ちゃってごめんね」

 長居しても迷惑だろう、僕はコットンの部屋から退散しようとし、

「ま、待ってください、晴人様」

 その声に振り返ると、コットンは顔を真っ赤にしながら潤んだ瞳で、

「……ち、違うのです」

 もごもごと、一生懸命に言葉を紡ぎだそうとしながら、

「べ、別に怒っているわけでは、ないのです。ただ、あのような醜態を晒してしまいましたので、どんな顔をすればいいのか、わからなかったのです」
「そっか、そうだったのか。今のコットンの言葉を聞いてすごく安心したよ」
「そ、そうなのですか?」
「きらわれたかと思ったから」
「き、きらいになんてなりません。わぅ、私は、晴人様は、いつも優しく声をかけてくれますので、どちらかといわれれば、好きな方です。ど、どうですか? わぅ、私にお花なんて、似合う、でしょうか?」

 にこりと、コットンが暖かい笑顔を向けてくれる。

「うぉおおん、コットンんんんんんんっ!」
「は、晴人様?! よ、よしよし、よしよしです」

 感激で泣き崩れる僕を見て、コットンが優しく頭をなでてくれた。
 ああ、なんか安心したらどっと今日一日の疲れが押し寄せてきた。それが表情にでてしまったのか、コットンが奥の方からなにかを運んで戻って来る。
 ビーカーに入った赤紫色の液体、コットンは僕にそれを差し出し、

「じ、自作の栄養ドリンクです。よかったら、飲んでください」
「ありがとう、助かるよ」

 一気飲みする。
 ちょっと不可思議な色をしているな、なんてことは関係ない。コットンが差し出してくれたものであればなんであろうとゴートゥー体内である。

「うん! なんか疲れが取れた気がするっ!」
「よ、よかったです。それと次回は、わぅ、私が晴人様の特訓の担当となっています。し、下準備に、タイミングもバッチリでした」

 下準備? タイミング?
 コットンの言葉の意味はよくわからないが――僕は笑顔で頷き返す。花冠は大切に保管してくれたのだろう、いつの間にかコットンの頭から消えていた。わだかまりも解けて、次回のコットンとの特訓は楽しくなりそうな予感がする。
 コットンの部屋から退出すると、ワンワが目の前を通りがかる。

「あ、晴人見つけた! 手が空いたらニャンが魔王の間に来てって言ってたよ!」
「もしかして、探してくれてた?」

 ワンワは太陽のような笑顔で、

「うん、お疲れさまって言いにきたんだ」

 い、癒されるぅうう。
 僕は今日あったことをワンワに話す。ワンワは先日の件を気にしてか、少し元気がない様子だった。

「そうだ。ワンワにプレゼント」

 一輪の花をワンワに手渡す。
 せっかくなので、ワンワとニャンニャにも一輪ずつ摘んでおいたのである。色は別々にしておりワンワには黄色の花、ニャンニャにはピンク色の花だ。

「わぁ、ありがとう! これ瑞々しくて美味しいんだよねっ!」
「……美味、しい?」

 言うが早いか、ワンワが頭から花に噛り付く。
 シャキシャキと爽やかな音を鳴らしながら、ワンワはあっという間に花を胃袋へと詰め込んでしまった。
 ワンワはぱちんと両手を合わせながら、

「ご馳走さまでしたっ!」
「喜んでくれたならよかったよ」

 ちょーっと、自分の想像とは違っていたけれど――まあ、いいか。
 場所は変わって魔王の間にて、

「とまあ、報告は以上です」
「天音さんは毎回なにかトラブルに巻き込まれていますね」
「日々濃厚すぎるよ」

 今はニャンニャと二人きり、僕は普段の喋り口調で話す。

「ふふ、濃いからこそ成長も早いかもしれませんよ? ですが、くれぐれも無茶だけはしないでくださいね」
「最近ニャンニャ優しいよね」
「えっ? ゃ、やさ?」
「喋り方も柔らかいし、僕を心配してくれるし」
「そ、それは、その、この呪いを解くといった約束を守ってもらうためです。死んでしまったら元も子もないでしょう」

 ふっ、ニャンニャさん照れ隠しが見え見えだぜ。
 ニャンニャの反応が変わったことくらいは重々承知――魔王城の一員として認めてきてくれているに違いない。

「そうだ。ニャンニャにプレゼント」

 一輪の花をニャンニャに手渡す。
 ニャンニャにはピンク色の花、その花を見た瞬間――ニャンニャの頬が真っ赤に染まり、明らかな動揺を見せる。

「ぇゃっ! そ、それを、私に、ですか?」
「食べたかったら食べてね」
「な、なにを言っているんですか! 食べるわけないでしょう?!」
「いや、さっきワンワは思いっ切り食べてたから」
「……もしかして、それは黄色の花だったんじゃありませんか」

 ニャンニャは次いで、

「この花の名は『フラ・フラワー』と言いまして、それぞれ色によって特殊な意味を持つ花です。黄は食用、赤は滋養、ピンクは――」
「ピンクは?」
「――ぴ、ピンクは」
「ピンクは?」
「出て行ってください! 天音さんの馬鹿バカド馬鹿っ!」

 罵声と共に強制的に追い出される。
 なんだったんだ? 丁度、リューナが通りがかったので聞いてみる。

「ピンク色の花? ああー、精力剤です。プロポーズの時とかに渡すことが多いっすよ。あなたと一生添い遂げたい、あなたとの子供をこの世界に宿したいという意味を持っています」
「マジで?」
「マジっす」

 その日部屋に帰ってからというもの、ニャンニャは一度も目を合わせてくれなかった。
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