35 / 426
クエスト攻略ランクアップ編
35話 家族
しおりを挟む
僕たちは宿屋の一室を借りる。
大きなベッドが人数分に水浴び可能な別室、部屋の中もかなり広く、数ある宿屋の中でランクは上の方だと主人が話していた。
倉庫キャラに貯蓄していたおかげで、お金にはかなり余裕がある。
ここまでの旅路のご褒美、多少贅沢しても罰は当たらないだろう。
僕とナコは久しぶりのベッドに歓喜し勢いよくダイブ、モフっとした柔らかい感触が全身を包み込んだ。
僕とナコはベッドの上で大の字に倒れ込みながら、
「……あぁ、今となってはこの感触が懐かしい」
「……わかります」
気持ち良すぎて動けない。
最近までこの環境が普通だったのに――常日頃は恵まれていたのだと、意図しない方向から感謝の気持ちが湧き出る。
「ナコ、ごめんね。一人一室借りようと思ったんだけど、セキュリティ的な意味合いで今は二人一緒の方がいいかなって」
「私はクーラと同じ部屋の方が嬉しいです」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど僕は男だからさ。いつかナコがもっと強くなって、独りでも問題なくなったら――って、ナコさん聞いてますか?」
どこ吹く風といった顔付き、ナコが僕をジッと見つめながら、
「私はクーラと共にいます」
「いつもと微妙に言い回しが違うっ?!」
ナコは本当に僕に懐いてくれている。
偶然の出会い、奇跡の出会いと言っても過言ではないだろう。この世界に飛ばされて巡り巡った運命が交差しなければ、僕とナコが交わることはなかった。
……その要因となったのが転生だ。
以前、ナコと家族の話をしたことはある。あの時はまだオンリー・テイルの世界に来たばかりで、情報が少なかったからこそまだ希望が――持てた。もとの世界に戻ることができるかもしれない、家族に会えることができるかもしれない、と。
この世界に来る直前の記憶が――全員一致している。
今までの情報から察するに、戻るべき世界は滅亡している可能性が高い。ナコもリーナの話を聞いていたのだ、言葉にはせずとも理解はしているだろう。
前向きに考えるなら、生きているだけ運がいい。
転生の確固たる条件は不透明だが、オンリー・テイルのゲームをプレイしていたという点は今のところ共通している。
僕の家族――もう妹には会えない、のだろう。
ゲーム嫌いだった妹に、楽しさを教えることができていたら、一緒にこのゲームをプレイしていたら、変わった未来があったのだろうか。
……落ち着いてくると、色々なことが脳内を駆け巡る。
このまま、全て有耶無耶にして王都を目指すというのは違う気がした。ナコとも現状を把握し合い、自分の気持ちを言葉にするべきだろう。
僕はベッドにうつ伏せになったまま、
「察しのいいナコのことだから、もうとっくにわかってると思うんだけどさ――もとの世界には戻れない可能性が高い」
「はい。理解しています」
「家族に必ず会える時が来るなんて、無責任なこと言ってごめんね」
「クーラ、泣いているんですか?」
「あれ、僕の方がなんか、こんなつもりじゃ、ないんだ。あはは、久々に落ち着ける場所に来たから、メンタルが弱っちゃったのかな。ナコだって悲しいはずなのに、僕がこんなんじゃ駄目だよね。ごめん、すぐに、立ち直るから」
僕は、情けないな。
言葉にしながら、一番諦めきっていなかったのは自分だった。まだどこかで戻れるかもしれないと頭の片隅に希望を残していた。
旅が進むに連れて、今の現実をさらに知って、その希望は打ち砕かれていく。
「クーラ、悲しい時は泣いてください」
ベッドが軋む音、ナコが僕の頭をなでる。
「確かに、家族に会えないというのは――とても悲しいです。まだ私自身受け入れられたわけではありません。でも、嬉しいこともありました。私はクーラに出会うという幸運を得たのですから」
僕の頭に水滴が降り注ぐ――ナコも、泣いている?
「顔を上げてください、クーラ」
言われるがまま、僕は起き上がる。
目は充血して泣きはらした顔、今僕の顔はひどいことになっているだろう。あまり見せたくはない有り様だが、きちんとナコの顔を見て話したいと思った。
ナコが僕の頬に両手を添え、優しく微笑みながら、
「クーラ、私たちで家族を作りましょう」
「……家族?」
「この世界では信頼し合う仲間を集めて、ギルドというものを作るんですよね? だったら、私たちもそうしましょう」
ナコは言う。
「家族だと胸を張って言える人たち、大好きな人たちだけで結成するんです。そこを笑顔で帰ることのできる私たちの新しい場所として」
ナコの言葉に、どれだけ救われてきただろう。
この世界で君に出会えたこと、今の僕にとってこれ以上の奇跡は――存在しない。
大きなベッドが人数分に水浴び可能な別室、部屋の中もかなり広く、数ある宿屋の中でランクは上の方だと主人が話していた。
倉庫キャラに貯蓄していたおかげで、お金にはかなり余裕がある。
ここまでの旅路のご褒美、多少贅沢しても罰は当たらないだろう。
僕とナコは久しぶりのベッドに歓喜し勢いよくダイブ、モフっとした柔らかい感触が全身を包み込んだ。
僕とナコはベッドの上で大の字に倒れ込みながら、
「……あぁ、今となってはこの感触が懐かしい」
「……わかります」
気持ち良すぎて動けない。
最近までこの環境が普通だったのに――常日頃は恵まれていたのだと、意図しない方向から感謝の気持ちが湧き出る。
「ナコ、ごめんね。一人一室借りようと思ったんだけど、セキュリティ的な意味合いで今は二人一緒の方がいいかなって」
「私はクーラと同じ部屋の方が嬉しいです」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど僕は男だからさ。いつかナコがもっと強くなって、独りでも問題なくなったら――って、ナコさん聞いてますか?」
どこ吹く風といった顔付き、ナコが僕をジッと見つめながら、
「私はクーラと共にいます」
「いつもと微妙に言い回しが違うっ?!」
ナコは本当に僕に懐いてくれている。
偶然の出会い、奇跡の出会いと言っても過言ではないだろう。この世界に飛ばされて巡り巡った運命が交差しなければ、僕とナコが交わることはなかった。
……その要因となったのが転生だ。
以前、ナコと家族の話をしたことはある。あの時はまだオンリー・テイルの世界に来たばかりで、情報が少なかったからこそまだ希望が――持てた。もとの世界に戻ることができるかもしれない、家族に会えることができるかもしれない、と。
この世界に来る直前の記憶が――全員一致している。
今までの情報から察するに、戻るべき世界は滅亡している可能性が高い。ナコもリーナの話を聞いていたのだ、言葉にはせずとも理解はしているだろう。
前向きに考えるなら、生きているだけ運がいい。
転生の確固たる条件は不透明だが、オンリー・テイルのゲームをプレイしていたという点は今のところ共通している。
僕の家族――もう妹には会えない、のだろう。
ゲーム嫌いだった妹に、楽しさを教えることができていたら、一緒にこのゲームをプレイしていたら、変わった未来があったのだろうか。
……落ち着いてくると、色々なことが脳内を駆け巡る。
このまま、全て有耶無耶にして王都を目指すというのは違う気がした。ナコとも現状を把握し合い、自分の気持ちを言葉にするべきだろう。
僕はベッドにうつ伏せになったまま、
「察しのいいナコのことだから、もうとっくにわかってると思うんだけどさ――もとの世界には戻れない可能性が高い」
「はい。理解しています」
「家族に必ず会える時が来るなんて、無責任なこと言ってごめんね」
「クーラ、泣いているんですか?」
「あれ、僕の方がなんか、こんなつもりじゃ、ないんだ。あはは、久々に落ち着ける場所に来たから、メンタルが弱っちゃったのかな。ナコだって悲しいはずなのに、僕がこんなんじゃ駄目だよね。ごめん、すぐに、立ち直るから」
僕は、情けないな。
言葉にしながら、一番諦めきっていなかったのは自分だった。まだどこかで戻れるかもしれないと頭の片隅に希望を残していた。
旅が進むに連れて、今の現実をさらに知って、その希望は打ち砕かれていく。
「クーラ、悲しい時は泣いてください」
ベッドが軋む音、ナコが僕の頭をなでる。
「確かに、家族に会えないというのは――とても悲しいです。まだ私自身受け入れられたわけではありません。でも、嬉しいこともありました。私はクーラに出会うという幸運を得たのですから」
僕の頭に水滴が降り注ぐ――ナコも、泣いている?
「顔を上げてください、クーラ」
言われるがまま、僕は起き上がる。
目は充血して泣きはらした顔、今僕の顔はひどいことになっているだろう。あまり見せたくはない有り様だが、きちんとナコの顔を見て話したいと思った。
ナコが僕の頬に両手を添え、優しく微笑みながら、
「クーラ、私たちで家族を作りましょう」
「……家族?」
「この世界では信頼し合う仲間を集めて、ギルドというものを作るんですよね? だったら、私たちもそうしましょう」
ナコは言う。
「家族だと胸を張って言える人たち、大好きな人たちだけで結成するんです。そこを笑顔で帰ることのできる私たちの新しい場所として」
ナコの言葉に、どれだけ救われてきただろう。
この世界で君に出会えたこと、今の僕にとってこれ以上の奇跡は――存在しない。
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる