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火の都サラマン激突編
191話 太陽の姫
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「ほいよ。面白いもの見せてもらったお礼だ」
店主がライカに唐揚げ串を手渡す。
ライカの分身してまで勝つという荒技は、街の人たちにとってはかなり面白かったらしく大盛況となっていた。
勝ったライカに盛大な拍手が送られている。
「えーっ! 全部無料でもらっていいのぉっ?!」
「ああ。よかったら姫様にも一本くらいあげてやってな」
「姫様?」
店主の言葉にライカが首を傾げる。
「ん? 気付いてなかったのか? そこにいる女の子は――陽の国サンサンの君主、鈴華姫だぞ?」
そ、そうだったのか。
局長が街中で普通に会えるかもとは話していたが――まさか、こんなに早く出会えるとは予想外だった。
しかし、この方が姫様――ひと目でわかる強気で勝ち気な性格、おてんば姫というあだ名が似合いそうな子である。
鈴華姫はライカに手を差し出し、
「ほれ、店主もこう言っておる。一本くらい鈴華に渡すがよい」
「えっ? やだよ」
「は? お主、えっ? マジか? 店主の話聞いておった?」
「よかったら一本くらいあげてでしょ? ライカに選択権あるよねぇ? ライカがまず一本あげるのは――クーにぃっ!」
ズボッ。
ライカが満面の笑みで僕の口に唐揚げ串を押し込む。
ほとばしる肉汁、薄すぎず濃すぎず、何個でも食せそうな絶妙な味バランス。
「んぐっ、めちゃくちゃ美味しいっ!」
「そうだろう? うちの唐揚げ串は特別な肉を使っているからな。紅桜組に依頼して仕入れているんだよ」
紅桜組ってそういう仕事も請け負っていたのか。
「……じろーっ」
鈴華姫が唐揚げ串を食べる僕のことを指を咥えて見ている。
これは食べづらい上、胸が痛い――僕は鈴華姫にも一本あげてと、ライカにアイコンタクトを送る。
「あとの残りはライカが食べてってことだねぇっ!」
全然違う。
パクパクモグモグと、鈴華姫のことなど我関せずにライカが食べ進めていく。
一本、二本、三本――あっという間にラストとなった。
鈴華姫は消えていく唐揚げを凝視している。
「うぅう、あぅう」
「仕方ないなぁ、負け犬ちゃん」
唐揚げ串は3個で一本となっている。
ライカが2個食べて――最後の1個を鈴華姫の口に放り込んだ。もらえるなんて微塵も思っていなかったのだろう。
驚いた顔付きで鈴華姫が唐揚げを頬張る。
「最後の1個はねぇ、特別なんだよ」
「……特別、とはどういうことじゃ?」
「もうこれを食べたら終わりなんだぁ。しみじみとした気持ちにさせてくれる、また食べたい気持ちが湧いてくる――感情がいっぱい込もった1個なんだよ」
「そ、そんな素晴らしいものを鈴華にくれたというのか」
なんか感動している。
言葉巧みに、ライカに誘導されているだけのような――いや、鈴華姫本人が納得しているのならいいか。
鈴華姫は満面の笑顔でライカに右手を差し出し、
「ライカ、お主とは友達じゃなっ!」
「友達? ライカが?」
「同じ唐揚げ串を分け合った仲、最後の宝物をくれたとあらば――それは友情を交わし合ったようなものっ!」
「ライカ、友達とかよくわかんない。もとの世界でも周りに同年代の子いなかったし」
「もとの世界とはなんじゃ?」
「もとの世界はもとの世界だよ」
「んむぅ? 頭でハテナマークが渦巻いておる」
「ほら、ライカせっかく言ってくれてるんだから――握手したら」
僕は会話に割り込み、今の発言を有耶無耶にする。
ここでもとの世界に関する話をしても、鈴華姫からすれば――意味不明以外のなにものでもないだろう。
「んんー。クーにぃがそう言うなら、仕方ないなぁ――スズリ姫だっけ?」
「す・ず・か・じゃっ! お主は習字でも始めるつもりか? わざと間違えておらんかのっ?!」
「はいはい。鈴華姫ねぇ」
「姫はいらぬ。気軽に名前で呼ぶとよい」
「……じゃあ、鈴華」
「よろしくじゃ、ライカ」
ライカが握手をする。
「そろそろ、鈴華は門限なので帰らねばならぬ。ライカ、またよかったら鈴華の屋敷まで遊びに来るがよい」
そう言い残し、鈴華姫は元気に走り去って行った。
無邪気な笑顔、裏表のない純粋さ、まさに陽の国サンサン――その象徴、太陽みたいに明るい子だった。
「クーにぃ、NPCも手は暖かいんだねぇ」
「ゲーム時とは違う。この世界は現実――皆生きているんだから、僕たちとなんら変わりないよ」
「……そっかぁ、そうなんだぁ」
握った後の手を見つめながら――ライカは静かにそう呟いた。
店主がライカに唐揚げ串を手渡す。
ライカの分身してまで勝つという荒技は、街の人たちにとってはかなり面白かったらしく大盛況となっていた。
勝ったライカに盛大な拍手が送られている。
「えーっ! 全部無料でもらっていいのぉっ?!」
「ああ。よかったら姫様にも一本くらいあげてやってな」
「姫様?」
店主の言葉にライカが首を傾げる。
「ん? 気付いてなかったのか? そこにいる女の子は――陽の国サンサンの君主、鈴華姫だぞ?」
そ、そうだったのか。
局長が街中で普通に会えるかもとは話していたが――まさか、こんなに早く出会えるとは予想外だった。
しかし、この方が姫様――ひと目でわかる強気で勝ち気な性格、おてんば姫というあだ名が似合いそうな子である。
鈴華姫はライカに手を差し出し、
「ほれ、店主もこう言っておる。一本くらい鈴華に渡すがよい」
「えっ? やだよ」
「は? お主、えっ? マジか? 店主の話聞いておった?」
「よかったら一本くらいあげてでしょ? ライカに選択権あるよねぇ? ライカがまず一本あげるのは――クーにぃっ!」
ズボッ。
ライカが満面の笑みで僕の口に唐揚げ串を押し込む。
ほとばしる肉汁、薄すぎず濃すぎず、何個でも食せそうな絶妙な味バランス。
「んぐっ、めちゃくちゃ美味しいっ!」
「そうだろう? うちの唐揚げ串は特別な肉を使っているからな。紅桜組に依頼して仕入れているんだよ」
紅桜組ってそういう仕事も請け負っていたのか。
「……じろーっ」
鈴華姫が唐揚げ串を食べる僕のことを指を咥えて見ている。
これは食べづらい上、胸が痛い――僕は鈴華姫にも一本あげてと、ライカにアイコンタクトを送る。
「あとの残りはライカが食べてってことだねぇっ!」
全然違う。
パクパクモグモグと、鈴華姫のことなど我関せずにライカが食べ進めていく。
一本、二本、三本――あっという間にラストとなった。
鈴華姫は消えていく唐揚げを凝視している。
「うぅう、あぅう」
「仕方ないなぁ、負け犬ちゃん」
唐揚げ串は3個で一本となっている。
ライカが2個食べて――最後の1個を鈴華姫の口に放り込んだ。もらえるなんて微塵も思っていなかったのだろう。
驚いた顔付きで鈴華姫が唐揚げを頬張る。
「最後の1個はねぇ、特別なんだよ」
「……特別、とはどういうことじゃ?」
「もうこれを食べたら終わりなんだぁ。しみじみとした気持ちにさせてくれる、また食べたい気持ちが湧いてくる――感情がいっぱい込もった1個なんだよ」
「そ、そんな素晴らしいものを鈴華にくれたというのか」
なんか感動している。
言葉巧みに、ライカに誘導されているだけのような――いや、鈴華姫本人が納得しているのならいいか。
鈴華姫は満面の笑顔でライカに右手を差し出し、
「ライカ、お主とは友達じゃなっ!」
「友達? ライカが?」
「同じ唐揚げ串を分け合った仲、最後の宝物をくれたとあらば――それは友情を交わし合ったようなものっ!」
「ライカ、友達とかよくわかんない。もとの世界でも周りに同年代の子いなかったし」
「もとの世界とはなんじゃ?」
「もとの世界はもとの世界だよ」
「んむぅ? 頭でハテナマークが渦巻いておる」
「ほら、ライカせっかく言ってくれてるんだから――握手したら」
僕は会話に割り込み、今の発言を有耶無耶にする。
ここでもとの世界に関する話をしても、鈴華姫からすれば――意味不明以外のなにものでもないだろう。
「んんー。クーにぃがそう言うなら、仕方ないなぁ――スズリ姫だっけ?」
「す・ず・か・じゃっ! お主は習字でも始めるつもりか? わざと間違えておらんかのっ?!」
「はいはい。鈴華姫ねぇ」
「姫はいらぬ。気軽に名前で呼ぶとよい」
「……じゃあ、鈴華」
「よろしくじゃ、ライカ」
ライカが握手をする。
「そろそろ、鈴華は門限なので帰らねばならぬ。ライカ、またよかったら鈴華の屋敷まで遊びに来るがよい」
そう言い残し、鈴華姫は元気に走り去って行った。
無邪気な笑顔、裏表のない純粋さ、まさに陽の国サンサン――その象徴、太陽みたいに明るい子だった。
「クーにぃ、NPCも手は暖かいんだねぇ」
「ゲーム時とは違う。この世界は現実――皆生きているんだから、僕たちとなんら変わりないよ」
「……そっかぁ、そうなんだぁ」
握った後の手を見つめながら――ライカは静かにそう呟いた。
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