転生したら倉庫キャラ♀でした。

火の都サラマン激突編

224話 大切な人

　今、この瞬間――暴食の条件は満たした。

「……約束を、守るよ」
「ありがとう、ございます」

　ナコが僕の頬に手を添える。
　最後の力を振り絞るよう、真っ直ぐな瞳で僕を見つめながら、

「……クーラ、気付いていましたか？　私、あなたのことが、大好きです。クーラといると心が、温かくて、一人の、男性として」

　そう言い残し、瞼を閉じた。
　気を失ったのだろう。奴隷輪の契約、効力が薄れていくのがわかる――最早、一刻の猶予もない。
　間際の告白、そんな想いの伝え方――僕は許さない。

「ナコを喰らう」
「クーにぃ、駄目だよっ！　待って――本気で言ってるのっ？！」

　ライカが僕を制止するよう、抱き締める力を強める。

「まだ、まだ、黒猫ちゃん、助かるかもしれないでしょっ！　なにか考えよう、一緒に考えてみようよっ！！」
「ライカ」

　僕はライカの名前を呼ぶ。
　ナコをどうにか救いたいという、その温かい気持ちに応えるように――ライカは驚くほどに成長した。
　人の命を軽んじて、笑っていたライカの姿は――もうない。

「大丈夫。僕は諦めていない」
「クーラ、妾の話を聞いていたのか？　事例がない――助かる見込みはないのだぞ」
「事例がないのなら僕が作り出す」

　僕は黒い糸、白い糸、触手をフル展開させる。

「ナコの体内に蔓延する魔石を――暴食で喰らう」
「……貴様、本気で言っているのか？」
「本気だ」

　即答する。

「今から僕はナコだけに意識を集中させる。何度もお願いをして悪いけれど――師匠は僕の護衛、ライカは他にも囚われている人がいないか艦内を再確認してほしい」

　僕の言葉に、二人が――顔を見合わせ頷き合う。

「弟子のワガママに最後まで付き合ってやろう。覚悟を決めたからには――やり通してみせろよ」
「クーにぃ」

　ライカが僕の頬にキスをする。
　突然の行動に、ライカを見ると――ニコッと、重たい空気を振り払うよう、晴れやかな笑顔を浮かべる。

「ライカから、絶対に成功するおまじない」
「ありがとう。ライカの気持ちは――僕の勇気になる」

　事例がないことをやり遂げるのだ。
　失敗すれば、ナコは――いや、そんな未来は考えるな。
　目の前にいる大切な人を救う。
　僕は黒と白、全ての触手をナコの体内に入れ込む。

「魔石を取り除く施術を始める」

　絶対に――死なせはしない。
　君の口からまた、クーラと僕の名前を呼んでもらうために。