304 / 426
もふもふの都開国編
303話 ドキドキ
しおりを挟む
工房内、僕たちは別室に案内される。
ここはマイマイの私室、依頼者にだけ入室が許された場所、いわば面談室みたいなようなものだった。マイマイはいつもこの部屋で質疑応答をして、どのようなアイテムを求めているか依頼者とすり合わせをしていく。僕たちを入れてくれたということは、協力を得られたといっていいだろう。
過酷な要求をされることもなく、ゴザルを連れて来てよかったと心底思う。
マイマイがお茶を運んで来ると席を外す。続けて、ナコもお手伝いするとマイマイの後を付いていった。
残された僕たち、ゴザルがジト目で睨みながら、
「ソラ、あなた――こうなるって予想していたわね」
「……少しだけ」
「ふーん。私はいいように使われたわけね」
「ごめん。全部が全部そんなつもりじゃなかったけれど、結果的にはそう思われても仕方ないよね」
「私、ソラと冒険できるのを楽しみにしていたのに」
「うぐっ」
「ソラが来て欲しかったのは、天凪璃々の方だったのね」
ゴザルが悲しそうに呟く。
「必ず埋め合わせはする。今回だけは――許してくれないかな」
「じゃあ、今度私とデートして」
「そんなことでいいの?」
「手も繋いで」
「わかった」
「っっっ」
パァッと、花開いたようにゴザルが微笑む。
機嫌は直ったようだが、こんな些細なことでいいのかと――逆に申しわけなく思ってしまう。その嬉しそうな表情を見てなんて可愛らしい女の子なのだろうと、不覚にも胸がドキッとした。
ついつい、意地悪したくなり――僕はゴザルの耳もとで囁く。
「キスはしなくていいの?」
「……キス?」
「前は素直にして欲しいって言ってたじゃないか」
「……っ! あ、あの時は、私、冷静じゃなかった、から」
強気になったり、弱気になったり、ゴザルの反応に吹き出してしまう。
そんな僕にゴザルがムッとしながら――膝の上に乗っかってくる。突然の行動にフリーズする僕に対し、ゴザルは精一杯に強がった顔で首に手を回す。
ゼロに近い距離、視線が――交わり合う。
「いつもいつも、ソラの余裕な態度がムカつく」
「余裕なわけじゃないよ」
「本当? 少しはドキドキしてる?」
「少しどころじゃない。今も――心臓が張り裂けそうだ」
正直な気持ちを伝える。
僕の見た目がどうであれ――中身は男、男なのだ。こんな綺麗な女性に密着されて冷静でいられるわけがない。
手を伸ばせば、どこにでも触れることができる。
もし、僕が男の身体であったなら――色々と大変なことになっていただろう。
今も勝手に動きそうな両手を無理やり抑え込んでいる。
「ゴザル、僕が男だってこと忘れないでね」
「……発情しちゃったの?」
「何度も言っているけれど、バリバリに性欲のあるお年ごろだよ」
「……ま、また触ってもいいわよ」
「普通に許可されると困っちゃう」
そう、困っちゃう。
「……クーラ、なにをしているんですか?」
ゴザルの背後、黒いオーラを放ちながらナコが立っていた。
一体、いつから見ていたのか――ここが重要なポイントだろう。なんかこの光景デジャブなくらいに見覚えがある。
僕は答えを探るべく口を開こうとして、
「お侍さんの耳もとで――キスはしなくていいの? と、囁いていたところから見ていましたよ」
最早、息つく暇もない強烈な先制攻撃である。
ミミモケ族ってすごいなぁ、あんな小さな声でも聞き取っちゃうんだ。
僕はゴザルをそっと膝の上から下ろし、ナコの持ってきた湯呑みを手に取り――啜る。
「うわぁ、美味しいね」
「今、マイマイさんが粉末茶を探していまして――それ、まだお湯ですよ」
逃げられない。
ここはマイマイの私室、依頼者にだけ入室が許された場所、いわば面談室みたいなようなものだった。マイマイはいつもこの部屋で質疑応答をして、どのようなアイテムを求めているか依頼者とすり合わせをしていく。僕たちを入れてくれたということは、協力を得られたといっていいだろう。
過酷な要求をされることもなく、ゴザルを連れて来てよかったと心底思う。
マイマイがお茶を運んで来ると席を外す。続けて、ナコもお手伝いするとマイマイの後を付いていった。
残された僕たち、ゴザルがジト目で睨みながら、
「ソラ、あなた――こうなるって予想していたわね」
「……少しだけ」
「ふーん。私はいいように使われたわけね」
「ごめん。全部が全部そんなつもりじゃなかったけれど、結果的にはそう思われても仕方ないよね」
「私、ソラと冒険できるのを楽しみにしていたのに」
「うぐっ」
「ソラが来て欲しかったのは、天凪璃々の方だったのね」
ゴザルが悲しそうに呟く。
「必ず埋め合わせはする。今回だけは――許してくれないかな」
「じゃあ、今度私とデートして」
「そんなことでいいの?」
「手も繋いで」
「わかった」
「っっっ」
パァッと、花開いたようにゴザルが微笑む。
機嫌は直ったようだが、こんな些細なことでいいのかと――逆に申しわけなく思ってしまう。その嬉しそうな表情を見てなんて可愛らしい女の子なのだろうと、不覚にも胸がドキッとした。
ついつい、意地悪したくなり――僕はゴザルの耳もとで囁く。
「キスはしなくていいの?」
「……キス?」
「前は素直にして欲しいって言ってたじゃないか」
「……っ! あ、あの時は、私、冷静じゃなかった、から」
強気になったり、弱気になったり、ゴザルの反応に吹き出してしまう。
そんな僕にゴザルがムッとしながら――膝の上に乗っかってくる。突然の行動にフリーズする僕に対し、ゴザルは精一杯に強がった顔で首に手を回す。
ゼロに近い距離、視線が――交わり合う。
「いつもいつも、ソラの余裕な態度がムカつく」
「余裕なわけじゃないよ」
「本当? 少しはドキドキしてる?」
「少しどころじゃない。今も――心臓が張り裂けそうだ」
正直な気持ちを伝える。
僕の見た目がどうであれ――中身は男、男なのだ。こんな綺麗な女性に密着されて冷静でいられるわけがない。
手を伸ばせば、どこにでも触れることができる。
もし、僕が男の身体であったなら――色々と大変なことになっていただろう。
今も勝手に動きそうな両手を無理やり抑え込んでいる。
「ゴザル、僕が男だってこと忘れないでね」
「……発情しちゃったの?」
「何度も言っているけれど、バリバリに性欲のあるお年ごろだよ」
「……ま、また触ってもいいわよ」
「普通に許可されると困っちゃう」
そう、困っちゃう。
「……クーラ、なにをしているんですか?」
ゴザルの背後、黒いオーラを放ちながらナコが立っていた。
一体、いつから見ていたのか――ここが重要なポイントだろう。なんかこの光景デジャブなくらいに見覚えがある。
僕は答えを探るべく口を開こうとして、
「お侍さんの耳もとで――キスはしなくていいの? と、囁いていたところから見ていましたよ」
最早、息つく暇もない強烈な先制攻撃である。
ミミモケ族ってすごいなぁ、あんな小さな声でも聞き取っちゃうんだ。
僕はゴザルをそっと膝の上から下ろし、ナコの持ってきた湯呑みを手に取り――啜る。
「うわぁ、美味しいね」
「今、マイマイさんが粉末茶を探していまして――それ、まだお湯ですよ」
逃げられない。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる