転生したら倉庫キャラ♀でした。

ともQ

文字の大きさ
358 / 426
間章

『SS』 Naco視点 その3

しおりを挟む
「黒猫、うるせぇぞ。メソメソと泣くんじゃねえ」
「……っ」

 檻の横、銀髪のお兄さんが居座っている。
 どうやら、私の見張り役――コールディンの護衛を担当しているようだ。銀髪のお兄さんは泣き続ける私に、うんざりとした様子だった。

「泣く気力があるならなぁ、今の状況を打破するにはどうすればいいか、どう逆境を乗り越えたらいいか――考えたらどうだ」
「……私、子供ですよ。檻に入れられて、どう乗り越えるっていうんですか? そちらこそ現実的なことを言ってください」

 半ば、ヤケクソ気味に返す。
 ムッとはしたものの、会話しているだけでも――気が紛れた。
 そんな私の気持ちを察してか、銀髪のお兄さんも話すことをやめろとは言わなかった。

「忠告しておくがな、この世界を甘く見るんじゃねえぞ。子供だからって迷子になって泣き喚こうが、道端で倒れて呻こうが、誰も救いの手は――差し伸べちゃくれねえ」

 その言い回しが、気になった。
 比較する対象が存在しない限り、こんな言葉はでてこないはずだ。

「銀髪のお兄さんは、東京って知っていますか?」
「住んでた」

 即答だった。
 住んでた、ということは――地名だと理解している。
 私が目を丸くして驚くと、銀髪のお兄さんはお腹を抱えて笑い出した。

「ひゃははっ。なんとなく、お前の持つ雰囲気から――俺と同じ境遇だろうなってのは感じていたぜ」
「やっぱり、そうだったんですね」
「助けてほしいって言わねえのか」
「……私は一度、選択を誤っています。また突き放されるのが怖いです。あなたを信じていいかどうか、今の私にはわかりません」
「はっ、大人びた思考のガキだ」
「それに、お兄さんは雇われているんですよね? 私を助けたりなんかしたら、大変な目に合うかもしれません」
「自分どころか俺の心配するたぁ、頭がお花畑にもほどがあるだろ」

 不意に、銀髪のお兄さんが――カードを広げる。

「黒猫、占いは好きか?」
「好きです。信じ過ぎちゃう性格でして、普段は見ないように心懸けていました」
「じゃあ、お前の運命――これに託してみるか」

 銀髪のお兄さんは言う。
 色々な絵柄があり、手品のようにカードを空間に浮かべる。
 私の知識にはない、見たこともない占い方法だった。

「俺の占いは――当たるぜ。なんせ、カード師にそういったスキルがあるからなぁ。ゲーム時はその日の天気、運勢、クソみたいな性能だったが一気に変わった。今となっては頼れる相棒みたいなものだ」

 カード師? スキル?
 私にはよくわからない言葉ばかり、銀髪のお兄さんは空間に浮かんだカードの中から一枚を手に取る。

「面白いカードがでたじゃねえか」
「面白いカード、ですか?」
「こいつは待ち人来たる、なんて意味のカードじゃねえ。今回はお前を対象にしてあるんだが――中々に、アクティブな未来が待ち受けてそうだぜ。まあ、俺のお眼鏡にかなうかどうか軽く確かめてやるよ」

 銀髪のお兄さんが、私にハートの折り重なったカードを見せ付ける。

「もうすぐ、お前の運命の人が来るぜ」

 そして、私はクーラと出会った。
 占いが本当だったかどうかは――わからない。
 ただ、偶然が折り重なった結果の出会いだったかもしれない。 

「必ず君を連れて行く」

 心臓を貫かれた一言だった。
 二度と会えないと思っていた人が現れた衝撃、銀髪のお兄さんの言う通り、私は――運命を感じた。
 この人に付いて行く、付いて行きたいと心から思った。

「クーラ、到着しました」
「ありがとう」

 ファーポッシ村、お墓の前にフラリシアの花束を供える。
 あの日から今日まで、今もずっとクーラは私の側にいてくれる。
 優しい笑顔で仲間を第一に想ってくれる人、私の奇跡はこの世界で新たな生をもらったことじゃない。

「行こうか、ナコ」
「はい」

 どこまでも、私は付いて行く。
 この理不尽な世界の果てになにが起きようとも、世界の全てが敵に回ったとしても、私だけは――必ずクーラと共にいる。
 もう、選択は――絶対に誤らない。

「クーラ、おっぱいを揉むのは自分以外にしてくださいね」
「自分のおっぱいを? いくら、美少女の身体になったからって揉むわけな」

 言いながら、クーラがハッとした顔付きをする。

「私のなら、いつでもオーケーですよ」
「えぇ、いつでもオーケーって――というか、僕が揉んでたのどこで見たのっ?! お風呂、いやもっと前になるのかっ!?」
「ふふ。内緒です」

 クーラに出会えたことが、私にとってかけがえのない奇跡なのだから。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...