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黒鉄の獅子
黒鉄の獅子
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古城におけるダイアメトロンの一件から数週間、士官学校は初夏の薫風が吹き抜けていく心地よい時期になった。内務省や憲兵隊からの事情聴取などが4月中には何度かあったが、それも5月に入るとなくなり、本来の講義が行われるようになり、俺たちも士官学校の一般的な生活に慣れ始めていた。
だが、どうも俺たちS組はごく一般的な士官候補生としての生活とは無縁らしく、今日も今日とて太陽が地平線を登り始めた頃、S組を構成する9人のうち6人は士官学校の寮を出てとある場所に向かっていた。残りの3人は別実習が課されて俺たちとは別行動をしているが、それは適正面や一度に実習できる人数的にも難しかったことが理由になるだろう。
そもそも、今回俺たちに課された特別実習は同期の他のクラスでもE組くらいしか行うことがない。なんでまた、こんな実習を俺たちが課されているのか、さっぱりわからない。
ただ、一つ言えることはただ一人テンションがおかしい奴がいると言うことだ。
「まさか、士官学校でこの実習を受けることになるとは思わなかったぜ!」
朝からハイテンションで小躍りしている名門伯爵の次男坊は他の誰よりもこの実習が楽しみでならないようだ。
確かに好き好んでその道に進んでいるE組なら兎も角、普通の士官候補生にとっては殆ど縁の無い実習がこれから行われるわけで、そういう意味では興味深いのかも知れない。だが、それは外野が思っていることに過ぎないだろう。
なにせ、これから行われる実習が文字通り体力勝負のそれであるからだ。軍人になることを前提にしている士官候補生であるから体力勝負は日常の出来事だが、それとはまた意味合いが違ってくる。それも今日日、ダイアメトロンというある種万能な動力源、エネルギー源がある世の中で、原始的な力仕事万歳なそれに喜々として飛びつくのは相当な酔狂であると言えるだろうからだ。
しかし、俺たちを待っている今回の指導教官たちはその道のプロであり、そして生き証人だ。
「前からここに来てみたかったんだ、帝国内でも数少なくなった生きているアレに出会えるのはここくらいなものだからな」
オリヴァーはそう言って小走りで目的のものに近寄っていく。そこは観光地化されたそれではなく、現役の施設であり、間違っても防護目的の柵や標識なんてない。不用意に近づいて轢かれても自己責任というものだが、奴はそこに突貫していく。
「死にたいのか若造!」
相手が名門貴族様であることを一向に介しない罵倒が飛んでくる。そこの主たちにとって目の前の貴族のボンボンなどは眼中にない。仮に彼を轢いたところで『死にたがりな貴族が飛び込んできた』で、終わりなのだろう。
「伝説の勇者に出会い、思わず飛びついてしまいました、申し訳ありませんでした!」
オリヴァーは最敬礼で主たちに謝罪しつつ最敬礼をもって敬意を示す。ここまでくるとホンモノかも知れない。
「なんだ、若造。貴様、よくわかっているじゃないか! 気に入ったぞ! お前たちは今日の実習のひよっこか? なら、今日はビシバシ鍛えてやるからな!」
「はっ、お世話になります!」
なぜか、オリヴァーがリーダーっぽく挨拶をしてしまう。実際オリヴァーはリーダー役を務めることが多く不満はないが、なぜか納得がいかない。
主に気に入られたオリヴァーを先頭に俺たちは主たちの根城に案内されていく。その途中、いつの間にか俺たちは前後左右に屈強な体つきをした主たちに取り囲まれていた。
俺たちが連れて行かれた場所、そこには黒鉄の獅子がいくつも横たわっている。黒鉛で磨き込まれ、鈍い光沢を放つ、圧倒的な存在がそこには居た。その存在感には思わず息を飲み込んでしまう。
「お前さんたちはこれを初めて見たのか?」
主の一人が俺たちに問い掛ける。
「俺は・・・・・・私は東海岸本線のイベント列車で何度か、しかし、アレと違って、これはホンモノだと思います」
オリヴァーがそう言うと主は浅黒く日焼けした顔にまぶしい白い歯を見せて笑みを浮かべる。
「そうかそうか、貴様は見所がある。鍛え甲斐があるってもんだ。他の若い衆はどうだ?」
俺たちは皆揃って首を横に振る。こんな骨董品に一喜一憂、まして見物しに行くなど余程の物好きくらいなものだ。
「お前さん、アイアンサイド・インダストリーの御曹司じゃねぇか? これはお前さんとこの製品だが、知らないのか?」
アレクサンダーの顔を知っていたのか、主が悲しそうな表情を浮かべつつ尋ねるが、アレクサンダーは申し訳なさそうに、再度、首を横に振る。
「教官殿、IICの博物館にもこういったものは無かったかと記憶しています」
「寒い時代になったものだな。製造した側が、モノの価値がわからんとは・・・・・・」
主たちは一様に表情を暗くするが、それも一瞬のことであった。
「まぁ、それは良い。だが、今回お前さんたちが実習をするのは聞いていると思うが、この代物をきっちりと仕上げて運転してみせることだ。いいな?」
主がそう言い放つと、黒鉄の獅子は一斉に汽笛を鳴り響かせる。それは黒鉄の獅子からの挑戦状であり、そしてここの主たちからの試練が始まったことを意味していたと言えるだろう。
だが、どうも俺たちS組はごく一般的な士官候補生としての生活とは無縁らしく、今日も今日とて太陽が地平線を登り始めた頃、S組を構成する9人のうち6人は士官学校の寮を出てとある場所に向かっていた。残りの3人は別実習が課されて俺たちとは別行動をしているが、それは適正面や一度に実習できる人数的にも難しかったことが理由になるだろう。
そもそも、今回俺たちに課された特別実習は同期の他のクラスでもE組くらいしか行うことがない。なんでまた、こんな実習を俺たちが課されているのか、さっぱりわからない。
ただ、一つ言えることはただ一人テンションがおかしい奴がいると言うことだ。
「まさか、士官学校でこの実習を受けることになるとは思わなかったぜ!」
朝からハイテンションで小躍りしている名門伯爵の次男坊は他の誰よりもこの実習が楽しみでならないようだ。
確かに好き好んでその道に進んでいるE組なら兎も角、普通の士官候補生にとっては殆ど縁の無い実習がこれから行われるわけで、そういう意味では興味深いのかも知れない。だが、それは外野が思っていることに過ぎないだろう。
なにせ、これから行われる実習が文字通り体力勝負のそれであるからだ。軍人になることを前提にしている士官候補生であるから体力勝負は日常の出来事だが、それとはまた意味合いが違ってくる。それも今日日、ダイアメトロンというある種万能な動力源、エネルギー源がある世の中で、原始的な力仕事万歳なそれに喜々として飛びつくのは相当な酔狂であると言えるだろうからだ。
しかし、俺たちを待っている今回の指導教官たちはその道のプロであり、そして生き証人だ。
「前からここに来てみたかったんだ、帝国内でも数少なくなった生きているアレに出会えるのはここくらいなものだからな」
オリヴァーはそう言って小走りで目的のものに近寄っていく。そこは観光地化されたそれではなく、現役の施設であり、間違っても防護目的の柵や標識なんてない。不用意に近づいて轢かれても自己責任というものだが、奴はそこに突貫していく。
「死にたいのか若造!」
相手が名門貴族様であることを一向に介しない罵倒が飛んでくる。そこの主たちにとって目の前の貴族のボンボンなどは眼中にない。仮に彼を轢いたところで『死にたがりな貴族が飛び込んできた』で、終わりなのだろう。
「伝説の勇者に出会い、思わず飛びついてしまいました、申し訳ありませんでした!」
オリヴァーは最敬礼で主たちに謝罪しつつ最敬礼をもって敬意を示す。ここまでくるとホンモノかも知れない。
「なんだ、若造。貴様、よくわかっているじゃないか! 気に入ったぞ! お前たちは今日の実習のひよっこか? なら、今日はビシバシ鍛えてやるからな!」
「はっ、お世話になります!」
なぜか、オリヴァーがリーダーっぽく挨拶をしてしまう。実際オリヴァーはリーダー役を務めることが多く不満はないが、なぜか納得がいかない。
主に気に入られたオリヴァーを先頭に俺たちは主たちの根城に案内されていく。その途中、いつの間にか俺たちは前後左右に屈強な体つきをした主たちに取り囲まれていた。
俺たちが連れて行かれた場所、そこには黒鉄の獅子がいくつも横たわっている。黒鉛で磨き込まれ、鈍い光沢を放つ、圧倒的な存在がそこには居た。その存在感には思わず息を飲み込んでしまう。
「お前さんたちはこれを初めて見たのか?」
主の一人が俺たちに問い掛ける。
「俺は・・・・・・私は東海岸本線のイベント列車で何度か、しかし、アレと違って、これはホンモノだと思います」
オリヴァーがそう言うと主は浅黒く日焼けした顔にまぶしい白い歯を見せて笑みを浮かべる。
「そうかそうか、貴様は見所がある。鍛え甲斐があるってもんだ。他の若い衆はどうだ?」
俺たちは皆揃って首を横に振る。こんな骨董品に一喜一憂、まして見物しに行くなど余程の物好きくらいなものだ。
「お前さん、アイアンサイド・インダストリーの御曹司じゃねぇか? これはお前さんとこの製品だが、知らないのか?」
アレクサンダーの顔を知っていたのか、主が悲しそうな表情を浮かべつつ尋ねるが、アレクサンダーは申し訳なさそうに、再度、首を横に振る。
「教官殿、IICの博物館にもこういったものは無かったかと記憶しています」
「寒い時代になったものだな。製造した側が、モノの価値がわからんとは・・・・・・」
主たちは一様に表情を暗くするが、それも一瞬のことであった。
「まぁ、それは良い。だが、今回お前さんたちが実習をするのは聞いていると思うが、この代物をきっちりと仕上げて運転してみせることだ。いいな?」
主がそう言い放つと、黒鉄の獅子は一斉に汽笛を鳴り響かせる。それは黒鉄の獅子からの挑戦状であり、そしてここの主たちからの試練が始まったことを意味していたと言えるだろう。
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