疾風の蒼鉄 Rise and fall of Blue Iron -伯爵公子、激動の時代を駆け抜ける-

有坂総一郎

文字の大きさ
35 / 49
黒鉄の獅子

獅子を駆る者

しおりを挟む
 俺たちがぬしたちに連れて行かれた先にあった黒鉄の獅子、それは俺たちが受けた印象であったが、その印象に違わぬ存在感を放っているそれこそが、今回の特別実習の舞台であり、俺たちを待ち受けている試練と言っても良い蒸気機関車という代物だった。

 蒸気機関による産業革命または動力革命に対比して、ダイアメトロン、そしてルビノバイオンという鉱物をエネルギー源するそれは導力革命と言われている。ほんの三十数年前のことであるが、これによって帝国のエルネギー事情、そして産業は著しい進化を遂げたのだ。

 無限ではないが、とてもコンパクトで従来よりも効率的なエネルギー変換効率を示すダイアメトロン、そしてより細かい調整が可能なルビノバイオンという鉱物が帝国北辺とローゼリア自治国において発見され、その優位性に気付いた帝国の技術陣がいち早く実用化に取り組んだこと、そしてその鉱床を押さえたことで、周辺国に比べて十数年の技術的リードが出来たのだが、これによって蒸気機関車は一気に引退に追い込まれてしまったのだ。

 その背景には煙害や火の粉による火災など沿線から敬遠されていたこともあり、新技術であるダイアメトロンを使った導力機関の採用により無煙化が推進されてしまったことで蒸気機関車を筆頭にする蒸気機関、そして従来のレシプロ機関は軒並み過去の遺物へと追いやられたのである。

 しかし、ここ士官学校においてはこの過去の遺物が未だに現役であり、そしてE組の実習に用いられ、そして鉄道連隊、鉄道憲兵隊においてもなお予備役ながらも実働可能な状態で保存されている。

「今回の実習では、お前さん方にこの蒸気機関車を運転してもらう。とは言っても、E組と違って素人衆のお前さん方に動かせと言っても無理だろうから、最初は指導機関士と機関助士が指導してくれることになっている。まずは、彼らの運転で操車場まで出てもらい、そこで基本的なことをたたき込んでもらうから、そのつもりでいてくれ」

 ぬしがそう言うと、指導機関士と機関助士が2名ずつ彼のそばに寄ってきて敬礼を寄越してきた。

「ここにいる連中は皆、一流の機関士と機関助士だ。E組の連中は皆こいつらにしごかれている。今回は運転技術講習という形だが、それ以外についても質問してもらって構わない、彼らはそれらに必ず応えてくれる」

「俺はウィリアム・シュトラウス。元は鉄道省の特別急行列車ヴィーネス・ゴルトの機関士だったが、縁あってここの指導機関士をやっている。残念なのは特別急行列車ヴィーネス・ゴルトの機関士よりもこっちの指導機関士歴の方が長くなっちまったことだな」

「僕はハインリッヒ・ケラーだ。シュトラウス指導機関士の下で機関助士をしていたのだが、ある日、突然、鉄道省を退官すると言い出したシュトラウス指導機関士に拉致されて、ここで機関助士から機関士、指導機関士にまでなった。なんで、僕はここに居るんだろうね?」

 シュトラウス、ケラー両機関士の自己紹介が行われる。聞いている側にとっても何だかなぁという気がするが、気にしたら負けなんだろう。

「あぁ、そうだ。俺はカール・ワーグナー。ここの機関区長を務めている。まぁ、ここのぬしだ。そして、今回の指導教官でもある。よろしくな」

 ワーグナー機関区長が最後に自己紹介をして締めくくるとシュトラウス指導機関士がケラー指導機関士、そして二人の機関助士を連れて、俺たちを扇形機関庫へ案内していく。どうやら俺たちが運転することになる蒸気機関車は扇形機関庫に駐機しているらしい。

 集合を命じられていた操車場から扇形機関庫へ移動していく俺たちはただただ圧倒されていた。そこにあるのは骨董品同然の蒸気機関車が現役で動いていて操車場内において縦横無尽の活躍を見せていた。そして、その乗務員室で掛け声や指差し確認を行っているのはE組の生徒たちだった。彼らは指導教官たちの教練によって自分の手足のごとく蒸気機関車を動かしてみせていた。

「俺たちもあんな感じに動かせるのか?」

 俺はオリヴァーに尋ねてみるが、彼は意外にも弱気であった。

「実を言うとな、俺もこれは知識があるだけで、ちゃんと理解できているわけじゃないんだ。ただ、エドウィン、お前さんに比べると知識があるだけマシかも知れないと自分を慰めているのが実際だ」

 真性の鉄オタですらたじろぐくらいには大変なことなのだろうと認識を改める。彼に比べて事前知識がない分はハンディがあるのだが、ここは先入観がないだけ柔軟に対応できると前向きに考えることにした。

「大将、今回も俺たち三人で組むか?」

 アイザックがそう言ってくる。最近は何かあると二人と組むことが多い。野戦実習以来、戦友の絆的なものが生まれたのかも知れないが、アイザックもリリーも俺と組むことを選ぶことが多い。

「リリーはどう?」

「私はアシュモア卿と共に参ります。無論、アシュモア卿が他のものを望むなら仕方ありませんが」

 少し悲しそうな表情を浮かべるリリー。どうにも最近彼女を見ると、彼女の表情の後ろに忠犬リリーの幻影が見えてならない。今はその尻尾が力なく地面に垂れている感じに見えてしまう。

「リリーが居てくれると俺としては嬉しいかな。無論、アイザックも相棒として期待している」

 俺の言葉にリリーは笑みを浮かべ頷く。なぜ、俺は『助かる』ではなく、『嬉しい』と言ったのか、自分でも疑問に思えたが、大したことではないだろうか気にしないでおくとしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...