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黒鉄の獅子
獅子を駆る者
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俺たちが主たちに連れて行かれた先にあった黒鉄の獅子、それは俺たちが受けた印象であったが、その印象に違わぬ存在感を放っているそれこそが、今回の特別実習の舞台であり、俺たちを待ち受けている試練と言っても良い蒸気機関車という代物だった。
蒸気機関による産業革命または動力革命に対比して、ダイアメトロン、そしてルビノバイオンという鉱物をエネルギー源するそれは導力革命と言われている。ほんの三十数年前のことであるが、これによって帝国のエルネギー事情、そして産業は著しい進化を遂げたのだ。
無限ではないが、とてもコンパクトで従来よりも効率的なエネルギー変換効率を示すダイアメトロン、そしてより細かい調整が可能なルビノバイオンという鉱物が帝国北辺とローゼリア自治国において発見され、その優位性に気付いた帝国の技術陣がいち早く実用化に取り組んだこと、そしてその鉱床を押さえたことで、周辺国に比べて十数年の技術的リードが出来たのだが、これによって蒸気機関車は一気に引退に追い込まれてしまったのだ。
その背景には煙害や火の粉による火災など沿線から敬遠されていたこともあり、新技術であるダイアメトロンを使った導力機関の採用により無煙化が推進されてしまったことで蒸気機関車を筆頭にする蒸気機関、そして従来のレシプロ機関は軒並み過去の遺物へと追いやられたのである。
しかし、ここ士官学校においてはこの過去の遺物が未だに現役であり、そしてE組の実習に用いられ、そして鉄道連隊、鉄道憲兵隊においてもなお予備役ながらも実働可能な状態で保存されている。
「今回の実習では、お前さん方にこの蒸気機関車を運転してもらう。とは言っても、E組と違って素人衆のお前さん方に動かせと言っても無理だろうから、最初は指導機関士と機関助士が指導してくれることになっている。まずは、彼らの運転で操車場まで出てもらい、そこで基本的なことをたたき込んでもらうから、そのつもりでいてくれ」
主がそう言うと、指導機関士と機関助士が2名ずつ彼のそばに寄ってきて敬礼を寄越してきた。
「ここにいる連中は皆、一流の機関士と機関助士だ。E組の連中は皆こいつらにしごかれている。今回は運転技術講習という形だが、それ以外についても質問してもらって構わない、彼らはそれらに必ず応えてくれる」
「俺はウィリアム・シュトラウス。元は鉄道省の特別急行列車の機関士だったが、縁あってここの指導機関士をやっている。残念なのは特別急行列車の機関士よりもこっちの指導機関士歴の方が長くなっちまったことだな」
「僕はハインリッヒ・ケラーだ。シュトラウス指導機関士の下で機関助士をしていたのだが、ある日、突然、鉄道省を退官すると言い出したシュトラウス指導機関士に拉致されて、ここで機関助士から機関士、指導機関士にまでなった。なんで、僕はここに居るんだろうね?」
シュトラウス、ケラー両機関士の自己紹介が行われる。聞いている側にとっても何だかなぁという気がするが、気にしたら負けなんだろう。
「あぁ、そうだ。俺はカール・ワーグナー。ここの機関区長を務めている。まぁ、ここの主だ。そして、今回の指導教官でもある。よろしくな」
ワーグナー機関区長が最後に自己紹介をして締めくくるとシュトラウス指導機関士がケラー指導機関士、そして二人の機関助士を連れて、俺たちを扇形機関庫へ案内していく。どうやら俺たちが運転することになる蒸気機関車は扇形機関庫に駐機しているらしい。
集合を命じられていた操車場から扇形機関庫へ移動していく俺たちはただただ圧倒されていた。そこにあるのは骨董品同然の蒸気機関車が現役で動いていて操車場内において縦横無尽の活躍を見せていた。そして、その乗務員室で掛け声や指差し確認を行っているのはE組の生徒たちだった。彼らは指導教官たちの教練によって自分の手足のごとく蒸気機関車を動かしてみせていた。
「俺たちもあんな感じに動かせるのか?」
俺はオリヴァーに尋ねてみるが、彼は意外にも弱気であった。
「実を言うとな、俺もこれは知識があるだけで、ちゃんと理解できているわけじゃないんだ。ただ、エドウィン、お前さんに比べると知識があるだけマシかも知れないと自分を慰めているのが実際だ」
真性の鉄オタですらたじろぐくらいには大変なことなのだろうと認識を改める。彼に比べて事前知識がない分はハンディがあるのだが、ここは先入観がないだけ柔軟に対応できると前向きに考えることにした。
「大将、今回も俺たち三人で組むか?」
アイザックがそう言ってくる。最近は何かあると二人と組むことが多い。野戦実習以来、戦友の絆的なものが生まれたのかも知れないが、アイザックもリリーも俺と組むことを選ぶことが多い。
「リリーはどう?」
「私はアシュモア卿と共に参ります。無論、アシュモア卿が他のものを望むなら仕方ありませんが」
少し悲しそうな表情を浮かべるリリー。どうにも最近彼女を見ると、彼女の表情の後ろに忠犬リリーの幻影が見えてならない。今はその尻尾が力なく地面に垂れている感じに見えてしまう。
「リリーが居てくれると俺としては嬉しいかな。無論、アイザックも相棒として期待している」
俺の言葉にリリーは笑みを浮かべ頷く。なぜ、俺は『助かる』ではなく、『嬉しい』と言ったのか、自分でも疑問に思えたが、大したことではないだろうか気にしないでおくとしよう。
蒸気機関による産業革命または動力革命に対比して、ダイアメトロン、そしてルビノバイオンという鉱物をエネルギー源するそれは導力革命と言われている。ほんの三十数年前のことであるが、これによって帝国のエルネギー事情、そして産業は著しい進化を遂げたのだ。
無限ではないが、とてもコンパクトで従来よりも効率的なエネルギー変換効率を示すダイアメトロン、そしてより細かい調整が可能なルビノバイオンという鉱物が帝国北辺とローゼリア自治国において発見され、その優位性に気付いた帝国の技術陣がいち早く実用化に取り組んだこと、そしてその鉱床を押さえたことで、周辺国に比べて十数年の技術的リードが出来たのだが、これによって蒸気機関車は一気に引退に追い込まれてしまったのだ。
その背景には煙害や火の粉による火災など沿線から敬遠されていたこともあり、新技術であるダイアメトロンを使った導力機関の採用により無煙化が推進されてしまったことで蒸気機関車を筆頭にする蒸気機関、そして従来のレシプロ機関は軒並み過去の遺物へと追いやられたのである。
しかし、ここ士官学校においてはこの過去の遺物が未だに現役であり、そしてE組の実習に用いられ、そして鉄道連隊、鉄道憲兵隊においてもなお予備役ながらも実働可能な状態で保存されている。
「今回の実習では、お前さん方にこの蒸気機関車を運転してもらう。とは言っても、E組と違って素人衆のお前さん方に動かせと言っても無理だろうから、最初は指導機関士と機関助士が指導してくれることになっている。まずは、彼らの運転で操車場まで出てもらい、そこで基本的なことをたたき込んでもらうから、そのつもりでいてくれ」
主がそう言うと、指導機関士と機関助士が2名ずつ彼のそばに寄ってきて敬礼を寄越してきた。
「ここにいる連中は皆、一流の機関士と機関助士だ。E組の連中は皆こいつらにしごかれている。今回は運転技術講習という形だが、それ以外についても質問してもらって構わない、彼らはそれらに必ず応えてくれる」
「俺はウィリアム・シュトラウス。元は鉄道省の特別急行列車の機関士だったが、縁あってここの指導機関士をやっている。残念なのは特別急行列車の機関士よりもこっちの指導機関士歴の方が長くなっちまったことだな」
「僕はハインリッヒ・ケラーだ。シュトラウス指導機関士の下で機関助士をしていたのだが、ある日、突然、鉄道省を退官すると言い出したシュトラウス指導機関士に拉致されて、ここで機関助士から機関士、指導機関士にまでなった。なんで、僕はここに居るんだろうね?」
シュトラウス、ケラー両機関士の自己紹介が行われる。聞いている側にとっても何だかなぁという気がするが、気にしたら負けなんだろう。
「あぁ、そうだ。俺はカール・ワーグナー。ここの機関区長を務めている。まぁ、ここの主だ。そして、今回の指導教官でもある。よろしくな」
ワーグナー機関区長が最後に自己紹介をして締めくくるとシュトラウス指導機関士がケラー指導機関士、そして二人の機関助士を連れて、俺たちを扇形機関庫へ案内していく。どうやら俺たちが運転することになる蒸気機関車は扇形機関庫に駐機しているらしい。
集合を命じられていた操車場から扇形機関庫へ移動していく俺たちはただただ圧倒されていた。そこにあるのは骨董品同然の蒸気機関車が現役で動いていて操車場内において縦横無尽の活躍を見せていた。そして、その乗務員室で掛け声や指差し確認を行っているのはE組の生徒たちだった。彼らは指導教官たちの教練によって自分の手足のごとく蒸気機関車を動かしてみせていた。
「俺たちもあんな感じに動かせるのか?」
俺はオリヴァーに尋ねてみるが、彼は意外にも弱気であった。
「実を言うとな、俺もこれは知識があるだけで、ちゃんと理解できているわけじゃないんだ。ただ、エドウィン、お前さんに比べると知識があるだけマシかも知れないと自分を慰めているのが実際だ」
真性の鉄オタですらたじろぐくらいには大変なことなのだろうと認識を改める。彼に比べて事前知識がない分はハンディがあるのだが、ここは先入観がないだけ柔軟に対応できると前向きに考えることにした。
「大将、今回も俺たち三人で組むか?」
アイザックがそう言ってくる。最近は何かあると二人と組むことが多い。野戦実習以来、戦友の絆的なものが生まれたのかも知れないが、アイザックもリリーも俺と組むことを選ぶことが多い。
「リリーはどう?」
「私はアシュモア卿と共に参ります。無論、アシュモア卿が他のものを望むなら仕方ありませんが」
少し悲しそうな表情を浮かべるリリー。どうにも最近彼女を見ると、彼女の表情の後ろに忠犬リリーの幻影が見えてならない。今はその尻尾が力なく地面に垂れている感じに見えてしまう。
「リリーが居てくれると俺としては嬉しいかな。無論、アイザックも相棒として期待している」
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