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第1章:針山地獄編
第12話 心境
しおりを挟む私は、ここで生きている―― いや、生かされているだけだった。
地面は棘で、歩くたびに痛みが走る。 でも私は、もう歩けない。 だから、何も感じないふりをしていた。
背中が、温かかった。 でも、その温かさすら、怖かった。
最初の頃、私は「いつ捨てられるか」そればかりを考えていた。
あの人――背負ってくれた“お兄ちゃん”は、 なぜか私を置いていかなかった。
わからなかった。 なんで? なんのために? 私は、誰の助けにもなれないのに。
最初は、ただ震えていた。
背負われながら、指先を布に必死に絡めていた。
怖かった。 この温かさに慣れてしまったら、もし離された時、 私は――もう、耐えられないと思ったから。
でも、その人は何も言わなかった。
「おろせ」とも、「重い」とも、「邪魔」とも言わなかった。
毎日、傷だらけになって、 針に突き刺されながら、歩き続けていた。
それでも、何一つ、私に文句を言わなかった。
信じてはいけない。 信じて、裏切られるのが一番苦しい。
そう言い聞かせていた。 でも、心のどこかで、私はあの背中に「甘えていた」。
私が何も言わず、何もできなくても―― それでも、あの人は私を置いていかなかった。
いつからだろう。 私は、自分の存在が「申し訳ない」と思うようになった。
最初は、ただ「怖い」だけだった。
でも、背中が温かくて、優しくて、 自分が“生きている”と実感できてしまった日から――
> 「ごめんなさい」 という気持ちが、胸の奥で疼き始めた。
私は、足手まといだ。 この人はきっと、私がいなければもっと楽だった。 もっと早く進めた。 もっと痛まずに済んだ。
でも――でも――
> それでも、誰かがそばにいてくれるって、 こんなに、あったかいんだって……
忘れていた感情が、少しずつ胸の奥に灯っていった。
けれど、言葉にするのが怖かった。
声を出したら、何かが壊れてしまう気がした。
それに、私の声なんて―― この人には、必要ないかもしれないって、思っていたから。
だけど、何百回、何千回と繰り返した背中の震えに、 この人は、一度も振り落とそうとはしなかった。
それだけで、私は少しずつ、少しずつ、 「ありがとう」と言いたくなってしまった。
でも、それが怖くて、 何度も喉まで出かけた言葉を、飲み込んで、押し殺して――
> 「今日こそ……明日こそ……」
そんなふうに、5年が過ぎていった。
そしてある日、 喉がどうしても、熱くて、 言葉がこぼれて止まらなくて、
私は、やっと、やっと、
> 「ありがとう」 を、言えた。
それが、どれだけ長い旅だったか。 それが、どれだけ怖かったか。
でも――背中は、変わらなかった。 あの時も、黙って、優しく支えてくれた。
私は、まだこの地獄にいる。 でも、たった一つの“救い”が、確かにここにある。
その名前は、黄泉奏多。
私が地獄で出会った、最初で最後の――“希望”。
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