私はビブリオテカ ―― 終わりなき博物誌編纂の過程で泣いて足掻いて食べて笑って、生きる姿に幸あれ ――

屑歯九十九

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第壱章 ―― 不愚対天 ――

第028話 ―― 詭しい弁え

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【前回のあらすじ――。バニスがノックの従者の罪を追求し、身柄を要求した結果。ノックは従者であるテッサに囁きかけ、宝物を開示させる。それを見てノックは一緒に罪を償う道を選ぶ。納得できないバニスに対し、ノックは誰の命も奪ってないなら盗んだものは返すが命までは奪わせないと宣言し“こいつもその被害者共の財宝なんだぞ”と告げた】










「……“仮に”こいつを盗人ミミックとするが。手口はなんだった?」

「それは……知らずに購入した人の財宝を……」

 ノックは大仰おおぎょううなずいた。
 
「つまりだ! 被害者はで盗人ミミックをとして家に招き入れた! 結果、自分のに自分の他の所有物を損なわれた! つまるところ自分の責任で自分のものを失ったともいえる! あるいは! 飼い犬に靴を隠されたようなもんだ! そう思わないか?」

 その時、小箱が蓋の下で見せた眼差しはバニスと共通していた。

「そんな屁理屈! 犬と魔物を同じに考えるとは……」

「じゃあお前は、従者をどうやって手に入れた?」

「は?」

「従者だよ。俺は金を払ってを引き取った。商人からな。さて問題だ……。盗人ミミックは購入者に“自分を買ってください”と言ったのか?」

「そんなわけ……でも」

「つまりは! 盗人ミミックを売り出した“人間”がいるってことだ! 盗人ミミックが自分を売り出したとは思えないし! まあ俺も実際に盗人ミミックを買った人の証言を聞いた覚えはないが。“買ってくれ”なんて言う箱を引き取る奴がいるとは考えられない」
  
 小箱が蓋の下で見せる微妙な眼差しは無視される。

「ということは、盗人ミミックを売ったが居て! その人間と取引をして正式に購入したがいる! はて! 盗人ミミックに罪があるのか? それとも、売り出した人間に罪があるのか? それとも……に責任があるのか……」

「屁理屈をねるのもいい加減に……」

 ノックは相手の言葉をさえぎって告げる。

「いいかお坊ちゃん! あんたらみたいに、何もしなくとも椅子に座ってるだけで飯を貰えるお偉いさんと違って、俺達庶民は生きた家畜を買い取ることもある。その家畜に突撃されて擦り傷を負ったからって、怒りに任せて家畜を殺すようなバカはいない。販売人にも文句だって言わない。家畜が死なない限りにおいての不都合は、全部、買い取った人間の責任になるからな!」

 バニスは作った笑みで鼻を鳴らす。

「財宝に目がくらんだか!?」

 ノックが小箱を豪快に振るうと、蓋が開き、中から金銀財宝がぶちまけられた。 
 バニスは飛散する財宝を見開いた眼で追うが、数が多すぎて自分に向かってくる分しか取れなかった。
 彼が伸ばす手の速度は常人には再現できないほどであったが、飛散した宝物は彼の両手の容量を軽く上回り、ほとんどが、柔らかい芝生が受け止める。
 バニスは手中に救えた宝物を見渡すと、素気無く手放し、そして周りに飛散する宝物を見渡してからノックをにらみ据えた。

「貴様……ッ 人のものを!」

「お前こそ、目が眩んでんじゃないのかお坊ちゃん……。それとも何か? お前の家は人様のお宝が必要なほど困窮してんのか? だったら……他人様の罪科を糾弾してないで自分のために働けよッ!」

 バニスの顔面は明らかに熱が上がり、目が限界まで開放し、顎が力む。顔を下げ語り出す声は嫌に静かだった。

「ノック……と言ったな?」

「ああ、そうだ……」

 ノックは蓋を閉ざしたテッサを抱き締め、身構えた。
 バニスは歯牙を強調するような口ぶりで声を荒げた。

「貴様に決闘を申し込む!」

「断る……!」

「ならば……なに?」

 ええええええ、と不満の声を上げるのは聴衆であった。
 屋根の上の人物は、老獪ろうかいな笑い声を何とか堪える。
 バニスは、ふざけるな! と身を乗り出した。
 冷めた表情のノックは。

「戦う意味が分からない……」

「僕のことは勿論……! 私の家名を侮辱したからに決まっている! 名誉と誇りにけても、それを許すつもりはない!」
 
「ならお前もさんざん人を侮辱しただろ? だから両成敗じゃないのか?」

「ならば戦いで決着させればよかろう!」

「なら俺は、お前の侮辱を不問にするよ。それでも、お前は俺に一方的に戦いを迫るのか? それは、お前の家名に泥を塗らないのか?」

「減らず口を……。僕は……! 私は……」

 騎士の息子、という言葉を飲み込み言葉を変えるバニス。

「だが貴様が邪悪と結託したのは明白。ここで成敗しても」

「そもそも、お前に俺のミミックを捕らえる権限があるのか?」

「なに……?」

「もう一度聞くぞ。お前は何の権限があってこの国で司法が果たすべき役割に携わるっていうんだ?」

「そんなことは今は……いいや証拠は既にあるのだ。あの宝物が何よりの……」

「じゃあ、どうぞ、全部調べて、それらのお宝がどこにあった何なのか、全てつまびらかにしろよ。早く」

 なに? と当惑するバニスを尻目に、ノックは散乱する宝石をつまらなそうに見渡す。

「だってそうだろ。これが証拠だって言うなら、手に取って特定して見せてくれ」

「そのようなこと……できるわけ……」

「なんで目の前にある証拠の特定もできない奴が、偉そうに他人様を糾弾できるんだ?」

「そちらが勝手に宝物を出したのだろう!」

「なるほど。勝手に出したものなら、こっちの所有物であることは認めるんだな?」

「ああ、お前が持っていた……だが! 正当な所有権は分らんだろ!」

「じゃあ、誰の権利に帰属するのかはっきりさせろ! じゃないと、ほしい人に拾ってもらおうかな。俺には“邪魔なだけのゴミ”だし!  ほしい人は持って行っていいぞ!」

 貴様! と声を荒げたバニスの目を見れば、財宝に手を伸ばすのは躊躇ためらわれた。
 声だけは落ち着かせるバニスは。

「所有者特定のためにそのミミックをこちらに渡せ!」

「お前は名誉だなんだと言うくせに! 他人を証拠もなく糾弾して人から従者を奪うって言うのか! それがお前の家のやり方なのか! お前の家業は……、いや、やめておこう」

 ノックは白けた面持ちをよそに向ける。
 バニスは口を結ぶ。しかし周りからは、臆病者め! 男なら立ち向かえ! などとノックに対して罵声が降り注ぎ。上階からゴミが投げつけられる。土師器はじきまで飛んできた。
 歯牙を剥き出しにしてバニスは顔を上げる。

「それでも、私はそれを見逃すわけにはいかん! その魔物の罪業は明白だ!」

「ミミックが犯人なら、この小箱に擬態した他のミミックの犯行の可能性も……」

「黙れ!」

 バニスは周囲の人間もいとわず。全身から炎を噴き上げる。その熱気に、追従してきた生徒達も、悲鳴を上げて撤退する。
 ノックも一歩、また一歩、後ろ歩きで逃げる。背中を向けるのはまずいと本能が告げる。
 しかしバニスも地面を一歩一歩踏み締め迫る。がしかし、飛散する財宝を踏みそうになり、進むのを止め眼光を飛ばした。

「たとえ法が貴様とその魔物を守っても! このバニス・ティエフェールがゆるすことはない!」

 身なりの良い連中が回廊や、その上の個室から身を乗り出して声を上げる。

「そうだ! 盗人ミミックを倒せ!」

「邪悪な魔物を成敗しろ!」

「さもなくば決闘をしろ!」

 最早ノックの味方が名乗り出る空気はなくなった。
 大勢が欄干らんかんを叩いて、戦え! を連呼する。
 こりゃあまずい……、と屋根にいた老人は立ち上がった。すると。

「何事だ!」

 若い男の一声が庭にとどろいた。

 中庭の人々がゆずった空間を突き進む青年が、2人の少年に問い質す。

「騒ぎを聞きつけて来てみればなんの座興ざきょうだ! ここを個人の私室と勘違いしたのか!?」

 レクラウス先生……、と女子生徒が黄色い声音で名を呼ぶ。
 やば……、と言って回廊から身を引く者もいた。
 青年は眼鏡の奥に鋭い眼差しを宿し、目に映る人それぞれに厳しい視線を送る。
 それだけで大方は息を飲み、回廊や窓の奥に身を引っ込める。
 しかし、女子の中には表情が緩む者も居た。

 騒ぎの元凶はお前達か? とレクラウスは2人の少年を見比べ、散らばる宝物には目を細める。

「私は大学校の教員を務めるレクラウスだ。君達は、入学志願者か?」

 そうです……、と少年2人は声が重なり、険悪な視線を一瞬交える。 
 何の騒ぎなのか説明できるか? とレクラウスが問う。
 ええっとぉ……、とノックが口を開くが明瞭に語り出したのはバニスだ。

「この者が今手にする箱に擬態した魔物が西域せいいきで名をとどろかせる大罪人である嫌疑がありまして……。今すぐ拘束しようと思ったのですが、すべてを承知の上でこのノックという者が拒み……」

 ノックはあらぬ方に剣呑な顔を向ける。

「ふん! 嫌疑なんて言ってるが明確な罪の証拠もない上、直接、その盗人を見たわけじゃないそちらのお坊ちゃんは、拘束する資格もないときた……。だから拒んだんです。それと、こいつは魔物であって人じゃない。大罪人なんて大げさなこと言って。お偉いさんは、そうまでして自分の落ち度を隠したいのかよ?」

 なんだと? とバニスは血気盛んに一歩踏み出すが、それをレクラウスが手を伸ばして制した。
 バニスが鋭い目を向けようとも、レクラウスは眉一つ動かさずノックに歩み寄る。

「因みに、それは……ミミック、ということでいいのか?」

 聞いていたのですか? と尋ねるバニスは自身のえり透かし織りクラバットに指をかけ、首に押し付ける。すると、身にまとっていた炎も消えていく。
 レクラウスは。

「来る途中でそう話す声を聞いた。それに、西域で騒ぎを起こす盗人ミミックの話も覚えがある。教員の間でも、どのような個体なのかと、かねてより話題になっていたからな。そうか……」

 ノックはレクラウスの目から隠すように小箱を抱き寄せ、告げる。

「でも、まだ証拠はありませんから」









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