妖精王の旅路

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妖精王は自己紹介をする

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 僕はエルフの女性をお手本にツタのロープを登ろうとしてみた。
 でも残念ながら片腕がないので難しく、長って人のところに行くまでの時間がかかりすぎる。
 諦めて空を飛んで木の上まで来た。

「その腕、どうされたのですか?」

 疑問に思ったのか聞いてくるエルフの女性。

「あ、おっしゃりたくなければそれでいいですので!」

 でもすぐに慌てながらそういった。
 別に隠してるとかじゃないから、問題なく答える。

「このスライムに食べられたんだ。ベンジャミンは僕の右腕が本当に好きだよね。左腕となんか違うの?」

 ベンジャミンに聞くが、答えはいつもと同じだった。

「ぱあ」

「美味しいの? 右も左も変わらないと思うけどなぁ」

 ベンジャミンの舌は、些細な味の違いがわかるほど高性能なんだね。
 スライムの舌が、どこにあるのかわからないけど。

「……え? 食べられた? そのスライムは敵なのですか?」

 困惑したようにエルフの女性がベンジャミンを見つめる。

「ベンジャミンは家族だよ」

「それなのに、食べられてしまうのですか?」

「うん。そうだよ」

「……妖精様の感覚はわかりかねます」

「そう? 痛くないし、生えてくるし、死ぬわけでもないから別にいいでしょ」

「そうなのですか……」

 やっぱり種族によって、違うところがあるんだね。
 面白いなぁ。

「とりあえず、長のもとへ歩きながら話しましょうか」

 エルフの女性が言う。
 そうだね。
 このまま木の枝の上に立っていても、長のところへは行けないもんね。

 歩きながらお話を続けていると、自己紹介をしていないことに気がついた。

「では私から。私はリリアーナと申します。この集落の長の娘です」

「長の娘さんだったんだ。僕はアルフレッド。ただの妖精だよ」

 妖精王ということは黙っておく。
 別に言う必要もないでしょう。
 まあ妖精王でしょって聞かれたら、素直にそうですって言うけど。
 あ、でも他の人には僕のことを妖精王って呼ばないでって言わないといけない。
 妖精たちがここに来て、僕がこの集落にいるって知ったら連れ戻される。
 知られたら口止めはしないと!

「アルフレッド様ですね。良い響きの名前です。私の名は長がつけてくれました。花の名から考えたそうです」

「そういうのいいよね。うちの妖精たちも似た感じかな」

「あら、そうなんですか? ではアルフレッド様の名の由来をお聞きしても?」

「……かなり昔の人間がつけてくれたんだ。僕にぴったりな名前だって。どういう意味の名前なのか、教えてくれなかったけどね」

「……人間と仲が良かったのですか?」

「物好きな人間がいたんだ。なかなか豪快な人だったよ」

 ああ、懐かしい。
 妖精が僕しかいなかった頃の話だ。
 その頃はまだ、自分の意思と言うものがなく、世界の天候や自然を管理していたのみ。
 僕自身も自然の一部であったような気もする。
 そんな僕を見つけて、話しかけてきたのがあの人間だ。
 あの人のお陰で、僕は感情を知ったし、言葉も覚えた。
 楽しいことも、素敵なことも、嫌なことも、苦しいことも、全部あの人が教えてくれたこと。

「本当に懐かしい。あの人は変わり者だったなぁ」

 あの人を憎んだ時もあった。
 感情を知らなければ、あの人が死んだとき、悲しくて痛い思いをせずに済んだって。
 でも今はそれさえ宝物だ。
 あの人が死んだことも、感じた悲しみや憎しみも、全て大切なもの。
 いつでもあの頃のことを思い浮かべられる、素敵な思い出だ。

「に、人間の味方なのですか?」

 なぜかリリアーナは動揺したように僕を見る。
 首を傾げながら僕は答えた。

「僕は自然の味方だよ。人間でもエルフでも動物でも、自然を愛するなら味方でしょ?」

「……そうなのですか」

 少し安心したような顔をするリリアーナ。
 人間に何かされたのだろうか?
 別の種族に何かされるというのは良くあることだ。
 妖精が生き物にイタズラするとか、狼が生き物に殺されかけるとか、スライムが妖精の腕を食べるとか。
 人間にエルフが殺されてしまうこともあるのかもしれない。
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