異世界無宿

ゆきねる

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第七章 貴族と冒険者ギルド

第九十一話 マスタングの贈り物

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「イズミ様、そちらは何と言うのですか?」

ヘンリエッタがその蒼い目を輝かせながら尋ねるので、イズミはヴァーランデルの顔を1度確認してから答える。

「此方は乗り物のアーティファクトでして、名前はマスタングと言います」

旅人に様付けは不要と説明してもらいつつ、ヘンリエッタはマスタングに近付いた。

「マスタング様、私はヘンリエッタと申します。よろしくお願い致します」

イズミもヴァーランデルもその姿に呆気にとられてしまった。

「私の名はマスタング。ヘンリエッタ様、どうぞよろしくお願い致します」

マスタングが皆に聞こえる機械音声で答えた。

「ねぇイズミ!マスタング様に触っても良いですか?」

ヴァーランデルが軽く窘めようとするも、マスタングが機械音声で了承するので、言えずじまいだった。

マスタングが自動で助手席側のドアを開けると、ヘンリエッタが元気に乗り込んだ。

こんな事もするのかとマスタングを見ていたイズミだったが、ヴァーランデルは困っていた。
怒るに怒れない感じである。

「凄い!大きい椅子!」

初めて見る物への興味が勝ったのか、ヘンリエッタが助手席からヴァーランデルへ手を振っている。

「すまないな、イズミ」

「気にしないでくれ。マスタングも乗り気みたいだ」

イズミはコーヒーをコップに注いで、静かに飲んだ。

「飲みます?かなり苦いですが」

「…頂こう」

ヴァーランデルに飲み方を軽く説明すると、昔戦地で似たような飲み方をした飲み物を飲んだ事があると言う。

それは良い情報だ。
場所は結構遠いとの事だったが、いつかは行ってみたいものだ。

「…どうです?」

「今までに飲んだどの薬よりも苦い」

ヴァーランデルの険しい表情が苦さを物語っていた。

「どうしたヴァーランデル、そんな顔をするなんて」

ランドールがヘンリエッタを迎えに来たのだが、ヴァーランデルの異変に気付き声をかけたのだ。

「ランドール様…イズミ殿より珍しい飲み物を頂きまして」

「コーヒーです。此方では珍しいのですか?」

聞くと珍しいと言うより、人気が無い飲み物で流通が少ないそうだ。
ランドールにも飲み物を説明する。

「うむ…これは苦いな。不味いとは違う。これはあれだ、魔術師が呪い除けで作ったスープに匹敵する苦さだ」

「あのスープは苦いと言う以前に不味かっただろ!」

「そうだったか?苦かった記憶の方が鮮明だ。懐かしいな」

どうもこの2人は古くからの友人のようだ。
そんな談笑をしていると、冒険者ギルドの人間がやって来てランドールと話を始めた。

冒険者ギルドの仮拠点へと向かうランドール達を見つつ、ヴァーランデルが
笑っていた。

「ランドールも一線を退いたと言うのに、まだ元気なものだ」

イズミはマスタングの方を見ると、ヘンリエッタの姿が見える。

ヘンリエッタがマスタングから降りて来て、ヴァーランデルへと駆け寄った。

「ヴァーランデル見て!マスタング様が私にプレゼントだって!」

その言葉に驚いたのは、ヴァーランデルよりもイズミの方だった。
口に含んていたコーヒーを飲んだ瞬間だったので、気管に入ってむせてしまった。

苦し紛れにヘンリエッタを見ると、あのネックレスを付けていた。
病祓いの付与がされた『あの』ルビーのネックレスだった。

「おいマスタング、それは禁じ手じゃないか?」

イズミは思わずマスタングに言ってしまった。

「マスターから渡すのは怪しさが勝るとの事でしたので」

どうもヘンリエッタは助手席に乗ってから、それはもうずっとマスタングの事を凄いと褒めていたそうだ。

そのタイミングでマスタングが贈り物として渡したようだ。

「…で、あのネックレスをプレゼントしたと」

「ヘンリエッタ様に必要かと」

実際イズミ自身は身に付けるつもりは無かったので、まあ問題は無いものの。

「マスタング、今度そう言う事をする時は一声かけてくれないか?心臓に悪い」

「分かりました」

マスタングに背を向けてコーヒーを飲み干すと、ヘンリエッタが近付いて来た。

「イズミ!マスタング様から戴いたの」

満面の笑顔で言われてしまったので、イズミはもう何も言うまいと笑顔を作って答えた。

「お似合いですよ」

「当然です」

マスタングが機械音声で言って来たので、イズミはマスタングがヘンリエッタの事を気に入っているのだと理解した。
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