異世界無宿

ゆきねる

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第十二章 辺境伯領にて

第百六十三話 氷の精霊

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朝食を済ませたアレクセイは、今日の執務をこなすべく自らの部屋で書類の整理をしていた。

エレナの足が治ってからというもの、アレクセイの日常にも大きな変化があった。

エレナが自分の足で歩けるようになったのと同時に、魔法適性が増えたのがその要因なのだが、悩みのタネは王家の四男の妻候補に指名が入ったのだ。

最初は親しい公爵家の跡取り息子からの縁談とかだったのだが、突然王家からのアプローチが来たのだ。
現実感がなさ過ぎる。

「…まずは舞踏会か」

そんな事を考えつつ書類を見ていたら、部屋の扉を従者がノックして来た。

「主様、大変です!敷地内に巨大な像が!」

「像?何を言っている?」

アレクセイは一先ず書類を片付けると、従者と一緒に屋敷から出る。
広場に目をやると、確かに巨大な像らしき物がある。

「これは?」

「お父様!これは氷魔法の練習で…」

驚くアレクセイにエレナが説明をする。

「氷魔法で剣や盾を作るのも練習になりますが、大きい物を作る練習も必要かと思いまして」

アレクセイは巨大な氷像の周りにいる男2人に声をかけた。

「イズミ、ゾルダ!この氷像について説明をしてくれないか?」

エレナの説明である程度理解は出来たが、そもそも氷像を作る理由にはなっていない。

イズミは少し考える素振りをする。
都合の良い言葉を見つける為である。

「エレナ様に相性が良さそうな戦闘術を考案したので、まず巨大像を作れるのかを試してみたのです」

イズミは地面に描いたイメージ図をアレクセイに見せる。

「巨大な氷像は作れたので、次は細部の作りを練習します。それで魔力の強弱の付け方を学べるかと」

笑顔で語るイズミの隣で、感情の無い目でイズミを見るゾルダ。
それを見てすぐに察する事が出来た。

これはイズミと言う男の暴走の結果だと。

この男はかなり行き当たりばったりな生き方をしている。
見ている限り、敢えて後先を考えないようにしているとまで感じる。

そんな男が、自らが考案したと言う戦闘術をエレナに教えている。

本心を掴んでおかなければ、後々恐ろしい事になる。
そんな直感がよぎったのだ。

「大多数を相手にする場合、初手の行動が大きく派手であればあふ程、相手の動きに迷いを生じさせます。巨大な氷像が現れれば、相手の動きは一瞬でも止まる事でしょう」

イズミは氷像に触れ、アレクセイに話を続けた。

「相手の動きが止まる、遅くなる。そし僅かな隙を利用して次の行動に移ります…無数の氷槍を作り出して、氷槍の雨を降らせるのです」

説明を聞いている皆が、イズミが指差す氷像の顔部分を見る。

「相手から見ると巨大な氷像…女神像が現れて無数の氷槍を降らせる。それはまるで巨大な魔物と対峙するかのような錯覚を、相手に与えるでしょう」

イズミが満足気に言った。
昔見ていた漫画やアニメに登場する、最強の戦闘描写の1つ。
巨大兵器に寄せた戦闘スタイルである。

「これは誰に似せておるのだ?」

「エレナが王都で見たと言う女神像を参考に…?」

イズミは聞き覚えの無い声からの質問に答えている途中で、その違和感に気付いた。

目の前にアレクセイ、エレナ、ゾルダ、ベリア、全員居るのだ。
では、何故背後から質問が来たのか?

イズミがゆっくりと振り返ると、そこには蒼白い…いや蒼い身体の女性が立っていた。


「…似てはおらんのぉ」

「初めて作ったにしては、上出来かと」

ふわっと宙に浮かび氷像の顔をジッと観察する女性を、イズミ達は呆然と見ているしか無かった。

「して。エレナは何方じゃ?」

浮かんでいる女の声に殺気を感じ取ったゾルダとベリアが、瞬時に武器を構える。

「そこにいる金髪の女性がエレナで御座います」

イズミは肩からぶら下げたマグナムに手を伸ばす事無く、エレナへと案内する。

「うむ。苦しゅうないぞ」

蒼い身体の女が、エレナの周りを一周する。
エレナは緊張しているのか、身動きが取れないようだった。

「ふむ。エレナとやら…お主、面白い魔力をしておる」

エレナの眼をガン見した女が、今度はイズミを見る。

「成程。その男…いやアーティファクトの成せる技か」

女がエレナの両手を握る。

「私と契約せぬか?」
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