異世界無宿

ゆきねる

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第十四章 運び屋稼業も楽じゃない

第百九十五話 ケルピー

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少女は雨の降る空の下、何かを抱えたままイズミとベリアがいる所までやって来た。

「イズミ、感謝する」

少女が抱えていたのは、1体の魔物の子供だった。

「ケルピーだ」

ベリアが呟いた。
どうやらベリアは見た事があるようだが、イズミは完全に初見である。

「そう、友達。ケロちゃん17世」

少女はケルピーの子供…ケロちゃん17世…の頭を撫でる。
ケルピーは嬉しそうに目を閉じて鳴いているので、かなりの信頼関係が構築されているとイズミは判断した。

「ケロちゃん16世から相談を受けた。雨が降ったら探すと約束した。そして見つけた。そしたらイズミがいた」

「そうなのか。イズミは自己紹介を?」

少女の説明を聞いたベリアが、何故イズミの名前を知ってるのかを尋ねた。

「されてない。でも精霊界隈ではちょっとした有名人。美味しいお酒の出所。飲んだ事はないけど」

話からすると、この少女は一方的にイズミを知っていた。
精霊界隈と言っている事から、精霊達と意思疎通が可能な人物なのだろうか?

イズミがそう思案していると、少女の腕に抱かれていたケルピーがピョンと地面に降りた。

雨の中元気に動き回り、イズミとベリアの足元まで来て頭をグリグリと押し付けてきた。

「ケロちゃんも貴方達を気に入ったみたい。私は…アルハ。貴方達では名を発音出来ないから、アルハで良い」

ベリアがしゃがみ込みケルピーの目線近くに顔を寄せ、手をゆっくりと上げる。

「ケロちゃん、よしよし」

ベリアがケルピーを撫でている間に、イズミはアルハに質問をした。

「アルハさん、様の方が良いですか?」

「アルハで良い」

「では改めて。私はイズミと言います、只の旅人です。精霊界隈とは?」

気になった事は聞いておいた方が、後々モヤモヤする事が減るので聞いてみた。

「ジーヴルが最近元気。美味しいお酒と面白い人間に出会ったと言って楽しそう。私も話を聞いた」

「…貴方はもしや」

「雨の精霊と呼ばれてる。水を司る精霊の一柱だけど、雷を兼務する事もある」

少女…アルハの言葉を聞いて合点がいった。
何故マスタングでも自分でも察知出来なかったのか。
精霊ならば、探知されずに現れる程度は簡単な事なのだ。
スラッと納得が出来た気がした。

キュゥゥゥ…

「ケロちゃん、お腹空いてるの?」

アルハがケルピーを撫でつつ呟いたので、そのまま帰すのも可哀想になりイズミはマスタングに頼んでケルピー用の食事を準備する。

「ケルピーは雑食だな。主食は草だったはず」

ベリアの説明を聞いたマスタングが実体化させたのは、ニンジンとリンゴだった。
大きさと色合いからして、元いた世界基準の代物かもしれない。

ベリアがナイフで小さく切っていると、アルハの足元にいたケルピーがベリアに駆け寄る。
ベリアがケルピーの口元へカットしたニンジンを近付けると、舌を出して器用に食べ始めた。
ガツガツと食べるケルピーを見たアルハの表情が緩んでいるのが分かる。

「そうだ。忘れる前に…」

イズミは道端に倒れている商人みたいな男の状態を確認する。
この男はちゃんと生きているようだったので、しっかりと手足を縛りドアを壊した馬車の中へ放り込んだ。

どうせ自分が話を聞いたとしても、大した情報は持っていないと判断したのだ。
それに、今の旅路に大きく関係するとも思わなかったからでもある。

「じゃあ、私は帰る」

アルハがケルピーを連れて帰ると言うので、イズミは少しの果物と例の酒を実体化させてアルハへ手渡した。

「アルハ、ちょっと待ってくれ…良い天気の日に出会えた記念って事で」

「嬉しいけど、そうやって精霊達に贈与をしてると、それ目当てでやって来る者も現れるから注意した方が良い。私は受け取るけど」

「覚えてきます」

イズミがそう言って笑顔を見せると、アルハも少し微笑んだ。

「ヴェッくしょい!」

「…良い天気じゃない人もいるみたい」

「ですね」

大きなクシャミをするびしょ濡れのベリアを見て、2人は小さく笑った。
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