異世界無宿

ゆきねる

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第二十二章 一斉捜査

第三百四十話 試しに走ろう

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意識を取り戻したイズミが、のそりと左手に着けている腕時計で時間を確認する。
短針は4時を少し過ぎた所だ。

周囲を見渡すと、此処が屋敷内の部屋のベッドである事が分かる。
外はまだ明るいので、午後の4時だろう。

「やはり意識は飛んだのか」

「…目が覚めたのね」

ベッドから降りたイズミの前に、当たり前のように壁抜けをしてノルトが現れた。

「ベスパはどうですか?」

「貴方のアーティファクトから操作説明を聞き終えて、これから試走行よ」

どうやら自分が気絶している間に、マスタングが一通りの操作説明を済ませてくれたようだ。

イズミは水を飲んでから上着を羽織ると、マスタングの元へ向かい実体化されたベスパを確認する。

「現物を拝むのは初めてだ」

「マスターはバイクのライセンスをお持ちだったかと」

「持ってはいるけど、この手のベスパには乗った事が無いからな。エンジンも始動させられるかどうか不安だね」

「燃料は魔力に変換しておりますが、操作方法はオリジナルと同一です」

ノルトは手に持っていた鍵をイズミに渡すと、エンジン始動の実演を頼んだ。

「えぇと。鍵を差して燃料コックのツマミを起こして…チョークを引く」

1つひとつの動作をノルトに見てもらいながら、アクセルグリップが閉じている状態である事を確認する。

「これで、キックペダルを踏み込むと…」

最初の一発ではエンジンが掛からず、3度目でエンジンが掛かって馬車置き場内に2ストロークエンジンの独特な音が響き渡る。

エンジンが温まるのを待ち、馬車置き場の中だけで軽く動かしてみる。
独特のハンドチェンジはイズミも初体験であったが、低速走行しかしていないので何とかなった。

「まぁ、こんな感じですね。止まりたい時は、右足で踏むブレーキをメインで使って、右手のブレーキレバーはサブってイメージですかね」

「思ったよりも、手足を駆使するのね」

「そうですね。上手く扱えると楽しいですよ」

イズミはエンジンを切るとスタンドを立て、ノルトにベスパへ乗ってもらう。

「エンジンが温まっていれば、チョークは引かなくても少しアクセルを開けてキックをすれば動き出す筈です」

「始動方法も、使う状況によって微妙に変わるのね」

「その辺は、ご自身で試してみて下さい」

ノルトはぎこちなくキックペダルを踏み込むが、エンジンは動き出さない。
2度目に強めに踏み込むと、元気に動き出した。

「…面白いわね」

ノルトは魔法で馬車置き場の扉を開けると、ベスパをゆっくりと走らせようとする。
最初はプスンとエンストをさせてしまったが、数回も練習するとスムーズに走り出す事が出来ていた。

「転移魔法や馬に乗っての移動とは、また違う感覚ね」

「視点が馬より低いので、同じ速度で移動しても体感的には速く感じるかもしれません」

「ハンドチェンジでしたっけ、それをもう少し教えて下さらない?」

どうやらハンドチェンジのタイミングが掴めていないようだ。
オートマならば自動でやってくれるが、目の前にあるベスパは自分で操作をする必要がある。
それを面倒と思うか、楽しいと思うかは扱う者の考え方次第だ。
ノルトは無事に停止し、エンジンを止める。

「そうですね…このスピードメーターと言う目盛で考えると良いかと。例えばですが、この動く針がメーターにある20の目盛の近くに来たらハンドチェンジをするとかですね」

「他には?」

「感覚で覚えると言うとアバウトですが、走り出してからエンジンの唸り音が大きくなったらハンドチェンジをするってのでも大丈夫かと」

イズミはギアの説明を分かりやすく出来ないかと考え、身振り手振りで説明をしていった。

「1のギアで走り出すのは、最初に動くには大きな力を必要とするからです。一度勢いがついたら、そこまで強い力は必要無くなるので、ギアを2に切り替える。つまりハンドチェンジをするのです」

「そうすると、停止して再度走り出す時はギアを戻す必要があるのね」

「そうなります」

「大体は分かったかも。説明書は貰っているから、魔界で色々と走ってみるわね。対価はしっかりと受け取ったわ」

ノルトはそう言うと、ベスパと共に転移魔法で消えてしまった。
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