異世界無宿

ゆきねる

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第二十四章 暴走を止めろ

第四百十五話 複雑過ぎる

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「出来なくはありませんよ?」

話を聞いたグラテミアの回答は素っ気ないものだった。

「聞く限り緊急時における身の安全の確保を想定しているようですし、転移先の指定と発動条件の固定化が出来ればですが」

「難しいのですか?」

「難しい…と言うのもありますが、その類の魔法を使う事が滅多に無いので」

「成る程」

グラテミアに促され2人が椅子に座ると、アイテムボックスから取り出したお茶とチーズケーキを渡される。

「有難う御座います」

「お気になさらないで…それにしても、イズミ様のアーティファクトは本当に特殊なのですね」

「頼れる相棒です。私の寄す処でもあります」

イズミは離れた馬車置き場の方へ目をやりつつ答える。
グラテミアはそんなイズミをジッと見つめつつ、イズミが自分の方へ向き直るのを待つ。

「お時間はかかりますが、手配しても良いですよ。勿論、賓客とて対価は頂くことになりますが」

「分かりました。具体的には?」

「そうですね…」

グラテミアは笑みを浮かべながらも獲物を狙う狩人のような鋭い眼差しで、イズミを吟味するかのように見つめる。

「まずはかなり特殊な魔法になる事をご認識下さい。本来魔法は使用者の意思と保有する魔力によって発動するものであり、発動に対して条件を付ける場合は専用の魔法陣を組むものです。そして魔法陣は定期的に魔力を供給しなければ消滅します」

「魔法陣が一度消滅したら、改めて魔法陣の構築から始まるとか?」

「そうです。イズミ様は魔法は?」

「使えないですね。そんな体質でして」

「それだとかなり複雑な魔法陣が必要ですね…対象者が魔法供給を行えない場合は第三者が供給する事はあれど、ほとんど魔法陣を組み上げた術者が単独での補給をします。これは魔法陣への魔力供給の条件が最も単純になるからです」

グラテミアはアイテムボックスから紙と筆を取り出すと、必要条件を箇条書きにして考え込む。
垂れた前髪を耳にかける動作に艶っぽさを感じる。

「この転移魔法はイズミ様のみですか?転移先の指定は」

「そうですね…ベリアはどうだ」

「イズミが転移魔法で去った時に、その場に取り残されるのはちぃとキツいな」

「そうなるとベリアも転移対象者になるな」

イズミは思考を巡らせる。

「仮にマスタングに転移したとして、俺とベリアが戦闘を続行出来るとも限らない訳で…マスタングが独自に戦闘をしてしまうと、そもそもこの安全策の意義が損なわれはしないか?」

「いや待て、そもそもイズミが戦闘不能になって強制転移したら、アタイも同時に転移するのはマズくはないか?各々戦闘しているのに、ふっと転移したら敵の突撃を食らいかねない」

「それもそうだな。だとすると俺とベリアには別々の魔法陣が必要になるのか…すみませんグラテミアさん、複雑な話を持ちかけてしまいまして。もう少し此方側の話を詰めてからの方が良かったですよね」

自分が考えていたよりも数段複雑だと分かり、思わずグラテミアに対して謝罪の言葉を発した。

「となると…俺が戦闘不能な状態になった時の転移魔法と、ベリア用の転移魔法がまず必要になる。俺は魔法が使えないから別途魔力供給源が必要で、ベリアは自分の魔力でも対応が出来る。グラテミアさん、マスタングから魔法の供給は可能でしょうか?」

「何とも言えませんわ。アーティファクトを魔力供給源にした試しがありませんので、試行錯誤は必須です。お二方が戦えない状況になった場合はどうなさいますか?」

「最悪のパターンの想定ですね。自分とベリアがマスタングに乗り込んでいれば、マスタングが独自に戦闘をしつつ前線から離脱は出来ますが」

「治療が必要な場合はどうでしょうか。転移してマスタング様に何とか乗り込んだとして、戦闘と離脱と治療を同時に処理をさせるのは負担が大きいかと」

「マスタングに確認してみます」

イズミは出されたお茶を飲んで喉を潤すと、マスタングに魔法通信を繋いだ。

「マスタング、話は聞いてたか?」

「はい。並行作業は問題無く行えますが、治療に関しては魔力消費が多いので応急処置に留まる可能性があります」

「転移の条件はどう判断する?」

「多すぎたり曖昧だと魔法陣がより複雑になりランニングコストが増します。何処までを対象にするかは検討が必要です」

「薬を盛られて意識を失うとか、身柄を完全に拘束されるとか、骨折や身体の欠損が発生するとかか?」

「ある程度明確にしておいた方が良いでしょう。魔法陣を構築する方の為にも」

「そうだな」

頼みたい魔法の厄介さを実感しつつ、イズミは求める条件を固めていった。
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