前へ ー青春をかけるラグビー少年たちー

101の水輪

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前へ2 ー 熱き戦いへ ー

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 試合当日となった。大西コーチも仕事を休んで試合に駆けつけてくれた。
「コーチ、川手がケガで出られなくなりました」
 なんと朝になって、その事実を知ることになる。
「今年も不出場か!」
「うちだけじゃないんです。笠間中も一人ケガだそうです」
「じゃあどうすんだ?」
「一人抜いてやろうとなりました。どこのポジションにします?」
「フォワードは抜けないし、どこも大事だけどウイングだな。フルバックがカバーだ」
「分かりました」
 結局は、変則的に14人という特別ルールですることになった。
 ラグビーは自由に体をぶつけ合うイメージだが、それぞれのポジションごとに役割がしっかりと決められているスポーツだ。だからこそ、一人抜けるとそれまで練習が生かされなくなってしまう。それほど緻密に組み立てられるゲーム、それがラグビーだ。

 ピピーーーー 
 
 ホイッスルが鳴った。桜田中のキックオフ。そもそもようやく人数を集められたチーム同士なので、パスが通らなかったり、ボールを抱えただひたすら個人で走ろうとするため、ゲームとしてのおもしろみは、とてもじゃないが見いだせない。それでも大聖たちは、ラグビーができる充実感を体いっぱいで感じている。結局は点数が入ることなく前半の三十分を終えた。
 ハーフタイムに、大西がみんなに作戦を授ける。
「いい試合してるぞ、あとは得点だ。後半初め二十五分は耐えよう。そして残り五分で勝負をかけるぞ。お前たちも大変かもしれないが、向こうもきつい。気持ちが折れそうになったときこそ、あと一歩 ”前” へ出ることを意識しろ。つらいときこそ ”前” だ。きっと世界が開けるはず」
 体をぶつけ合う選手たちは、心身ともにすでにボロボロだ。そんな中でも、大聖はこれまでのミラージュの存続をかけた部員集め、ラグビーが好きで集まった素人たち、ただただ痛い練習の毎日等これまでの道のりや、ようやく試合までにこぎ着けた喜びを、ひしひしと噛みしめている。
「よし、ラスト五分。後半もがんばりましょう」
 キャプテン大聖が、再び気持ちを引き締めた。 

 ピピーーーー

 後半がスタートした。すると1分もたたないうちに、こぼれ球を拾ったロックの健司が突進し、スクラムハーフの美樹からスタンドの大聖、そしてウイングの一颯へ渡り、そのままトライをした。練習でも出来なかったような華麗なパスワークで、待望の先取点を取る。その後のゴールも決まり、7点リードとなった。
 最高の後半始まりだったが、ここで桜田中にアクシデントが発生してしまう。No8の充樹の左足に相手が乗ってしまい、捻挫してしまったのだ。ここにフォワードの要を失ってしまう。さらに故意ではないにしろ、ついついプロップの江河が、相手選手を小突いてしまい、退場処分となった。14人でのスタートが、けが人1人、その上に退場者まで出してしまい、ついには12人となってしまった。
 こうなるとさすがに勝負にはならない。あれよあれよという間に笠間中に逆転を許してしまい、ワントライ差を付けられてしまった。

「残り5分、勝負だ」
 ここで大西が大声で叫ぶ。作戦通りの残り五分となった。相手もかなり疲れてきてるのが、手に取るように分かった。
 その後の大聖のメンバーへの声を掛けが功を奏し、桜田中の猛反撃が始まった。先ほどまでタックルしたら倒れたままだったのが、寝ている者がいなくなり、攻守にスピード感が出てきた。完全に主客逆転だ。
 
 残り2分、プロップの真司が泥臭くタックルすると、相手が思わずノッコンし、そのボールが桜田中の方に転がり、アドバンテージでプレイオン。そのボールを美樹が拾い上げ大聖へ。センターがダミーで入ってきたところを飛ばし、一颯へとつなぐ。こうなれば快足ウイングの独断場で、なんとトライにまで結びつけてしまった。ついに同点となる。そしてその後のゴールが決まれば逆転となる。もちろんキッカーは大聖、ここまで部を引っ張ってきた立役者。ボールをセットし狙いを定めた。いつもの大聖なら難なく決められる距離と方向。全員の目が大聖に注がれる中で、ゆっくりキックに足が運ばれる。

 あ~っ
 
 ゴールは失敗し、仲間の大きなため息が漏れる。と同時に、ホイッスルがグラウンドに響き渡り、同点のまま試合が終了した。
 それまでどんなに体をぶつけ合っいても、試合が終われば敵味方がなくなる。それこそがノーサイド。 楕円級のボールに、春をかける若者たち。彼らは次のステージに確実に歩みを進めていく。
 最後に勝つのは1チームだけ。それを求めて仲間のため、チームのため、そして自分のため彼らは体をぶつけ合う。THIS IS ラグビー。
 そんな健気な姿勢に、私たちの心は揺さぶられる。 
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