チャンスをつかめ

101の水輪

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チャンスをつかめ

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清水琉斗は、谷中学校の3年生でサッカー部員だ。身長は182cmで体重が65kgというモデル並みの体型。しかしサッカー選手としての技術は低く、お世辞にも上手いといえない万年補欠の部活生活を送っていた。
 本人はスポーツよりも、芸能活動に断然興味がある。

 谷中サッカー部は、2週間後に控えた県大会のため最後の追い込み練習に入っていた。
県大会出場といっても、部員は全員で15人しかいない。なぜなら市街地のど真ん中にある谷中は生徒数減少が激しく、1年後には隣の正木中学校との統合が決まっている。そのため2年前から部員募集は止めており、15人すべては3年生のみだ。さらにこの大会を最後に、廃部になることも決まっている。

「やる気見えないぞ。大会まであと何日あると思ってんだ」
 監督が活を入れると、生徒たちの目の色が変わっていく。
「そうだ、がんばろうぜ」
 キャプテンの卓司も気合いを入れ直す。残された練習はとても充実感に溢れていた。

「おい、卓司、大丈夫か!」
 練習中に卓司がうずくまってしまった。ヘディングをして着地したとき、足をひねったようだ。卓司はキャプテンでフォワードとして大切な得点源。それに県大会は明日。まさに緊急事態発生。卓司のケガはかわいそうだったが、チームにとっても一大事だ。このままでは、やる前から敗退が目に見えている。
「琉斗、卓司のところはお前がやれ」
「えっ俺っすか?」
 さすがに琉斗もビックリ。なんせそんな器でないとは本人が一番よく知っている。
「やるんだよ。ぐだぐだ言わずとにかくやれ」
 結局は押し切られてしまい急遽スタメン出場が決まった。
 それからという毎日は、琉斗は少しでも技術が伸びるよう、必死に練習に明け暮れた。
 
 大会当日となった。1回戦の相手の何騎中学校は、なんと全国大会常連の強豪校だ。
 琉斗は試合前に監督に呼ばれた。
「琉斗、緊張すんな。今のお前は代理じゃなくレギュラーなんだから」
そう言われると、なぜか不思議と琉斗の方にも力が湧いてきたように感じた。

 よし、俺が決めてやる

 試合が始まったが、いかんせん力の差が歴然だ。1点目が入り、2点、3点と立て続けに何騎中が得点を重ねていき、結局は8対0の完封負けとなり、琉斗にいたっては、まともにボールすら触らしてもらえなかった。
 
 予想されていたことと言え、さすがにショックは隠しきれない。
 
 俺が、俺が決められなかったために

 琉斗は体を震わせながら声を絞り出した。そのとき1人の男性が琉斗に声を掛けてきた。
「清水君、だよね」
「そうですけど、どなたですか?」
「ああはじめまして。県陸競の長距離部会長の宇野です。突然だが、君、陸上を始めないか?」
「県陸競?長距離?何で俺に?」
「試合見てたけど素質、特に長距離に大切な筋力と持久力が図抜けているんだ」
 将来有望な選手発掘のため、様々な競技を視察していた草島の眼鏡に、なぜか琉斗が写ったのだった。
「私に任しときなさい。悪いようにしないから」

 誘われるままに、琉斗はサッカー部を辞め、陸上競技を始めることにした。するとめきめきと陸上での力を付けだし、駅伝の全国大会の県代表チームメンバーに選ばれてしまった。琉斗の頑張りはもちろんだが、彼の能力を見抜いた宇野会長の目にも驚かされる。
「琉斗なかなかいいぞ、タイムも伸びてきた」
 全くの陸上素人だっただけに変な癖がなく、素直な性格と相まってどんどん技能が開花していったのだ。
「では、今年の駅伝チームのメンバーを発表する。桑元、筑地、東田・・・・・補欠に清水だ。以上」
 なんと補欠だが琉斗が選ばれた。陸上を始めてわずか2ヶ月しかたっていないのに、よほど実力を伸ばし、異例の抜擢となった。

 俺なんかが選ばれてもいいのかなあ?まあどうせ補欠で出ることもないけど

 それからというもの、今まで以上に琉斗は練習に力が入る。それは仲間とも同じで、メンバー同士の競い合いが生まれ、チームとしての実力アップにもつながった。

 都道府県対抗の駅伝大会が始まろうとしていている。
 この大会は、将来のオリンピック日本代表選手の卵を見つける大会でもあるだけに、陸上関係者だけでなく、シューズ、ウエア、スポーツドリンク等のメーカー、陸上専門誌、TV局や新聞等のマスコミもこぞって押し寄せている。まさに年に一度の陸上界の祭典の膜が開けられようとしていた。
 
 そんな晴れやかな大会に、あの琉斗が参加している。

 別に出やしないけど、妙に緊張するなあ

 そのとき琉斗監督から声が掛かった。
「清水、急遽走ってもらうことになった。東田が高熱でアウト。お前が二区を走れ」
 なんと琉斗がエントリーを変更し、出場することになった。それも各チームのエースが競う花の2区とは驚きだ。

 そんな急に言われも。それも2区だなんて

“バクバク”っと琉斗の心臓の高鳴りが聞こえてきそうだ。
 
 そういえば以前にもこんなことがあったな

 かつてのサッカー部県大会での代理出場を思い出していた。

 雲一つ無い晴天の下、号砲一発、第一走者47名がスタートした。一走目の桑元は、欠場した東田に次ぐ記録を持つ準エース的な存在だったが、出足の順調さを維持できず徐々に遅れだし、2区まであと1kmで順位を40位までに落としてしまった。
 
 どうせ俺も抜かれるんだから、最下位で来てくれたらありがたい

 その弱気がズバリ出てしまい、琉斗はダントツの最下位で襷をつなぐこととなってしまった。当然だが、琉斗は落ち込んでしまう。

 何もかも上手くいかない

 その後しばらくはスポーツをする気にすらならなかった。

 12月になり琉斗も毎日受験勉強に励んでいたが、そこに一本の電話が入った。
「琉斗さんっていらっしゃいますか?私はオレンジTVのプロデューサーの北本です。先日の駅伝中継見てましたよ。結果は残念でしたが、琉斗さんってなかなかイケメンだし、スタイルもいいし。それでうちの番組に出てみませんか?」
 新人アイドル発掘番組出演の依頼。勝ち進めば芸能界デビューも夢ではない。
「とても興味がありますのでぜひお願いします」
 琉斗は家族にも相談せず、即答してしまった。

 オーディション当日。会場にはたくさんの観客が、そこには琉斗の家族も駆けつけている。司会には国民的なアイドルグループのリーダーが務めるほど、世間の関心が高い番組だ。それに国内だけでなく、海外38カ国に生配信されるほどのスーパーな機会といえる。
 
 さすがに緊張してきたなあ、足がガクガク

 歌、ダンス、それとオリジナリテルのパフォーマンス披露の総合点で順位が決まる。琉斗が披露したのは、ボールリフティングとオーバーヘッドキックだったが、観客の反応は今イチ。それでも今出せる力の全てで披露することができた。あとは結果待ち。
「まず3位は・・・・・そして最優秀賞はエントリーナンバー5番・・・・」
 最後まで琉斗の名前は呼ばれなかった。

 ああ、これで芸能界デビューの夢が

 そんな琉斗は、帰宅する途中にネットニュースを見て仰天してしまった。

 新星、清水琉斗、彗星のごとく現れる。期待の反応でSNSが大バスリ

 どうやら番組を見てた人達の一押しは琉斗だったようだ。そこに電話が鳴る。
「清水琉斗さんですね。私はアメリカのNEXT映画日本法人代表の川崎です。現地のプロヂューサーが番組を見て、君をスカウトしたいと」
「意味不明なんですけど」
 全く無名だったどこにでもいそうな中学生が、あれよあれよという間に、ハリウッドデビューを果たすことになった。

  人生、何があるか分からない。そんなあなたにも、いつかチャンスが!
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